第10話 ハーリーアーサー
「ハーリーアーサ―って魔物の中でも強いって言っていた?」
「そう。魔物の中で唯一技を使うんだ」
「技……」
人間よりも大きい魔物が、技を使うなんて考えただけでも恐ろしい。
「普段は群れで生きているんだけど、突如出没したらしいね」
クリスは、またパスカードのようなものを取り出して言った。
「とりあえず、詳細を見に行こうか」
「了解」
俺たちは、喫軌前の掲示板へ向かった。
◇◆◇緊急依頼◇◆◇
内容:(準)ハーリーアーサ―討伐
場所:マゼラ巣窟
報酬:100000ゴールド
受付:喫軌本部内のリリクス
条件:ランク110000~
補足:ランクの変動があります(90000位)
「ランク90000位までアップってすごいな!」
「けどやっぱそれなりに強いってことだよね」
「まあ確かに強いけど、サクトには余裕だよ」
「準って書いてあるけど、何が違うんだ?」
「準はハーリーアーサーの子供って感じ。正ハーリーアーサーなんて、上位生が戦ってやっと倒せるほど強い。けど、準なら大丈夫」
「ほう」
「ささっ。速くしないと誰かに取られちゃうよ!」
「おう!」
俺たちは直ぐに喫軌本部の中へ入り、前と同じおじさんと話をした。
「お、Eクラスの!」
「なんですかその覚え方……」
「まあ、いいだろ。今日は、緊急依頼でいいんだよな?」
「ああ。お願いする」
俺はパスカードを渡した。
前回とは違って、今回は渋ることがなかった。きっと前、すんなりゴールドマンモスを討伐できたからだろう。
「はい、今回も頑張れよ」
パスカードを受け取り、俺たちは急いでマゼラ巣窟へ向かう。
「結構暗いな……」
マゼラ巣窟は、マゼラ森林の奥地にある巣窟の事だ。中は意外にも広い。だが、マゼラ森林より狭いのは確かだ。ゴールドマンモスよりも早く見つけられるだろう。
「あれ、貴方は……」
「んあ」
横から声がかかった。これで二回目……。俺は緊急依頼を受けると誰かに話しかけられる特性を持っているのだろうか。だが今回はポンドではない。聞き覚えのある女性の声だ。
「チェルシー……」
「偶然ね、貴方も緊急依頼かしら」
「まあな」
「そう……」
「……」
チェルシーとの会話はやはりそっけない。
「どうする? ここで早いとこ決着つけちゃう?」
俺の提案にあっさり飲み込むかとも思ったが、そうはいかないらしい。
「そうね。でも、ここで私と全力で戦った後に、ハーリーアーサ―と戦える自信があるというなら」
「あ……」
チェルシーの強さは知っている。
チェルシーの今のランクは110000~90000位くらいだろう。けどそれは、初期ランクを決める試験の時に、俺はチェルシーのスキルをコピーしてしまった。それにチェルシーは失望し、試験を自ら中断させた。つまり、俺がいなければもっとランクは上だ。チェルシーからして、今の俺は弱いかもしれないが、俺にとっては強敵。ハーリーアーサ―よりもチェルシーの方が強いかもしれない。
「早い者勝ちってことでもいいか?」
「まあそれでもいいわ。どっちかが見つけたら手出ししない。それでいいなら」
「わかった」
チェルシーは俺の意見に同意してくれた。
「早いとこハーリーアーサ―を見つけないと」
「ああ」
俺はクリスと共に全力でハーリーアーサ―を探した。
だが、先にハーリーアーサ―を見つけたのは、チェルシーの方だった。
ガサガサっ
「こっちに物音が!」
クリスがそう言い、小走りで向かうと、そこにはレイピアを構えたチェルシーが立っていた。美しい構えとは反対に、あるもの全て食い尽くしてしまいそうな熊のような見たこともない生物が立っていた。
「あれが……ハーリーアーサ―……」
「人型⁉」
クリスが少し動揺している。クリスも初めて見たのだろうか。それにしても、準でこれだなんて、正はどれだけ凄いんだと思ってしまう。
「ち、違う! チェルシー! それは準じゃない! 正ハーリーアーサ―だ! お前じゃ手に負えない! はやく逃げろ!」
「っ――!」
クリスが咄嗟にチェルシーに向かって言う。クリスの驚きぶりからして、嘘じゃないことは分かる。
その瞬間、俺は依頼を受ける前のクリスの言葉を思い出した。
『正ハーリーアーサーなんて、上位生が戦ってやっと倒せるほど強い』
俺は血の気が引いた。
「逃げろチェルシー!」
俺も思わず叫んだが、チェルシーには届かない。
チェルシーが強いとはいえ、上位生には遠く及ばないだろう。だから勝てるはずがない。
「【フォースカット】!」
チェアリーの剣から、一本の剣から出てるから思えないほどの斬撃を繰り出す。だが、ハーリーアーサ―はその攻撃を腕で受け流す。そしてハーリーアーサ―はチェルシーに向かって殴り掛かる。
「【ハイハイパー】」
そう言って直ぐにバックステップで避ける。だが、今度は逆の手で殴り掛かる。その動きはまるで人間のようだ。
チェルシーはその攻撃をもろに食らった。
「うっ……」
吹っ飛んだチェルシーに向かってハーリーアーサ―は全力疾走。
するとハーリーアーサ―は、右手を全力で振りかぶる。振りかぶっている右手の拳には、はっきりと緑色の光が宿っていた。
緑色……つまり、身体強化。
「あの構えは……【ハーリー・ブラット】だ! 危ないっ!!」
「【デス・バデット】!【ガードブロック】!」
俺は無意識に飛び出していた。
【デス・バデット】を使って瞬時にハーリーアーサ―の目の前に移動。そして【ガードブロック】を使ってハーリーアーサーの攻撃を受ける。
だが、ハーリーアーサーの攻撃力はすさまじく、思わず吹っ飛ばされる。
「最初に……見つけた方の獲物と言ったはずよ……」
蹲っていたチェルシーが立ち上がり、息を上げながら言った。
「今はそんなこと言っている場合じゃねえだろ! 死ぬところだったぞ!」
「……」
「【ハイハイパー】!」
俺も【ハイハイパー】を発動し、すぐにハーリーアーサ―の背後へ移動した。そしてついでとは言わんばかりに、首に剣を突き刺してやった。そんな攻撃がハーリーアーサ―に聞くはずもなく、すぐにこちらに体を向けてきた。
「くそっ! チェルシー、俺がこいつを引き付けるから、お前は後ろから全力の攻撃をし続けろ!」
俺に指示されるのが気に食わないせいか、反応がない。だが今はこの作戦が最善だと言える。チェルシーは、一応それを察したのか、実行はしてくれる模様。
「【ガードブロック】!」
やはりハーリーアーサーの一撃は重い……
俺が倒れるのも時間の問題。
「【フォースカット】!」
一瞬ハーリーアーサーの体が揺らぐ。だがあまり聞いていないのは確かだ。
何度かこの方法で、ハーリーアーサ―へ攻撃をする。だが、何度やっても結果は同じ。少しハーリーアーサーがグラっと揺らぐだけ。
「このままじゃ……」
何とかして打開策を考えないといけない。
そして俺は一つの答えを出す。
「いやーでも、流石に無理だよな……けど、このままだとどの道……」
俺は剣を捨てた。
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