第51話

 あれからしばらくして椿だけが帰ってきた。

 どうやら、彼の話によると王道は椿とユエの素晴らしさについて語った後、満足して戻っていったそうだが、それが本当かは定かではない。


 僕らはなんとか修理を終わらせ、船内修理をしていた方と合流し、今は食堂で寛いでいる。

 機械班全員でコントロールルーム以外の場所で集まるということがないので、かなり注目を浴びているようだ。


 一般の人は機械班の存在を知らないはずなので、おそらくはその顔面偏差値の高さ故だろう。



「うかーいクン、お疲れ様!はい、これカンパーニュ。」



 気がつくと千寿が焼きたてのパンを持って僕の背後に立っていた。なんだか今はカンパーニュが食べたい気分なので丁度いい。


 僕は礼を言ってそのカンパーニュを受け取る。

 表面は硬いのに、千切ってみると中はもちもちとしている。バターを使っていない故の美味しさだ。



「あははっ、カンパーニュって確かフランス語で『田舎パン』だったと思うけど、宇界お坊ちゃまがそれを好きだなんて面白〜い!」


「別に金持ちだからって三食キャビア食べてるわけじゃないんだ。別に面白くはないだろ」 


「じゃあ、三食トリュフ?」


「なんでそうなるんだよ。」


「じゃあフォアグラ!!」


「ばぁーか」



 そんな僕らの会話を隣で聞いていた椿は、小さい子供の鬼ごっこを見守るように微笑ましそうにしている。

 僕らの反対側の席に座っていたペットと飼い主コンビ...誰だったか、柚がついていたはずだが...なんだっけ。

 その二人は孫を見る祖父母のような目をしていた。


 同い年だろ。(多分)



「とっても仲がいいんですね。」



 飼い主の方が話しかけてくる。

 その彼の言ったことに対して、千寿は嬉しそうに目を輝かせる。



「そうでしょ!そうでしょ!あ、なんか二人もイイ感じだね!末永く〜!」


「「す、末永く??」」


「まだそこまで進歩していないと思うぞ。」


「「し、進歩...」」


「「うわぁ、息ピッタリ」」



 僕らは目を合わせる。W柚がなんとも息ぴったりなので面白いと思ったのだが、どうやら僕らも結構息が合っているらしい。ハモり過ぎじゃボケぇ



「んで、お幸せにはどこに行ったんだよ。」


「えー、言わなくても伝わるでしょ?」


「まぁ、伝わりはするけど...」


「ね?ね??」



 ナンダカ面倒臭クナッテ来タ。



「あ!そうだ!これ、お二人さんにあげるよ!で、さっさとくっついちゃって!」


「「く、くっつくって...」」


「つまり...柚希と、か、か、か.........プシュ――」



 何を妄想したのか、ペットの方...柚夏は頭から湯気を出すようにして倒れてしまった。 

 興奮しすぎたのだろうか。



「ゆ、柚夏!?」


「おたくの猫さん、休ませておいた方がいいぞー。あと、変な妄想はさせないようにー」

 

「いや、変な妄想て...」



 そう言えば、今思い出した。

 まだ解決していない部分もあるとはいえ、エンジンの件が一段落ついたと思ったのだが、どうやら僕は重大な問題があることを忘れていたらしい。

 

 最強ギャルが.........来る。


 



 あぁー、面倒くさっ

 

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