窓の向こうの訪問者
午前0時30分。
オートロックの扉を開けて、狭い階段を登る。俺の部屋は4階だ。エレベーターは無い。
ようやく帰ってくることができた。といっても終電ギリギリ、明日だって朝は早い。しかしそれでも会社の硬い床よりは、ベッドで寝れる方が何十倍だっていい。
久々に風呂にも入れる。だが、今はとにかく眠い。コンビニで買った弁当は明日食べることにするか。
コートとマフラー、それにスーツも床に放って、俺はベッドに倒れ込んだ。
冷たい風が顔をなでる。気がつくと、俺は布団も着ずに寝ていたと分かった。体に寒気が走る。せっかく帰宅できたというのに、ここで体調を崩しては本末転倒だ。明日も明後日も、会社を休むことは絶対にできない。俺は布団を無理やり体に巻きつける。
その時、どこかから視線を感じた。寝ぼけ眼で部屋を見回す。真っ暗だが、外灯の明かりが入ってきていることで薄っすらと時計が確認できた。午前4時。まだもう少しは眠れる。
だがそこで違和感を覚えた。カーテンなんて開けっ放しにしていただろうか。ただでさえ眠りが浅い体質なのに、外の環境に睡眠を邪魔されるのは最悪だ。俺は必ず寝る前にぴったりとカーテンを閉めている。
でもまあ、正直今日は寝る直前のこともあまり覚えていないくらいだ。たまたま閉め忘れていたのだろう。
俺はそこまで迎えにきている睡魔に応えるよう、目を閉じた。
しかし、再び目を開けなければいけないことになる。この顔にあたる冷気の正体を突き止めるためだ。このままではゆっくり休むことができない。イライラしながら部屋を見回すと、カーテンよりも重大な問題に気づいた。窓が開いているのだ。
3センチほど開いた窓、そこから外の冷却された空気が部屋に入り込んでいる。はっきりしない頭の中で、俺は考えた。
いくら疲れ切っていたとはいえ、カーテンも窓も開いていたなら流石に寝室に入った時に気づくんじゃないか。もちろんそんな記憶はないし、第一俺は数日前、いつまた戻れるか分からない家の戸締りはしっかりと行ったはずだ。
雲がかった頭でそんな思考をめぐらせていると、再び視線を感じた。先ほどよりも痛烈に、確実に何かが”いる”気がする。
俺の目は強制的にその違和感の先へ向けられる。それは窓の外にいた。
男だ、と思った。
頭に髪はなく、不気味に白味がかった肌には生気を全く感じない。目が、人間のそれよりも少しばかり大きすぎるような気がした。
口というよりは白い生地にぱっくりと切れ目を入れただけのような部分をにやりと歪ませて、こちらをじっと見ている。
そいつは深爪で血の滲んだ指先を窓にかけて、ゆっくりと押し広げようとした。俺は感情のままに声を上げる。
寒いから窓開けんな。
そいつは完全に困惑した表情で、俺と窓を交互に見た。やがて、じっとこちらをみつめたまま申し訳なさそうにスーっと半透明になり、消えた。
窓閉めて行けよ。
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