9「桜井宅にて」
翌日、部活帰りに、その足でイノは、修一と秋人の付き添いで、
警察に行った。取り敢えず暴行の被害届を出し、
パトロール強化と言う形になるらしいが、
この一週間は、イノは魔法の副作用で、弱体化していて不安が残るので、
修一又は恵美と、秋人で、彼女を、護衛する形になった。
ちなみに同日、イノは上川夫妻に、トヨの事を打ち明けたと言う。
もちろん浮島に隠していた事は言わなかったが、
長年、ホストファミリーをしていたからか、使い魔への理解はあり、
すんなりと受け入れてくれた。その上、
「あの人達、蛇が好きなんでしょうか、トヨの事を、
よく可愛がってくれるんですよ」
「もしかすると、白い蛇は、縁起がいいからじゃないかな」
と秋人は言った。
この時、イノ、秋人、修一は、学校の屋上にいて、
今この場には、三人以外、誰もおらず、ここで上記の使い魔に関する話をしている。
「ところで、トヨが分身型の使い魔だって事は……」
と修一が聞くと
「話しましたよ。あの人たちは、魔法に対しては、
からっきしとは言ってましたけど、使い魔に関しては、詳しいみたいで」
「その話をしてから、可愛がり始めたと言う事は?」
「トヨの事を話した際に一緒に話したものですから、
どうなのかは分かりませんが、でもどうしてそんな事を?」
「特に深い意味は無いんだけどな」
と言いつつも、
「そう言えば、話は変わるんだけど、イノさんは学費とかは?
やっぱり奨学金?」
と聞いた。
修一は、未成年の「来訪者」に対する学費援助の制度があるのは知っていた。
当然ながら、異世界から来た者たちは、この世界のお金を持っていない。
もちろん、現在では幾つかの世界のお金をこの世界のお金と、
両替する事は可能であるが、身一つで来ることも多い。
当然の話だろう来訪者達は、自分の意思とは関係なく、
この世界に飛ばされるのだから。そんな来訪者達への支援制度があり、
WTWがそれを行っているわけだが、特に未成年ならば、学費の援助がある。
修一を周辺の来訪者の場合、アキラは親が先に、
この世界に来ていて生活基盤はあるものの、
通っている学校の特待生で、学費免除になってるとの事。
シルフィは、奨学金を貰いつつもアルバイトをしているとの事。
あと学級委員のレイナも同じく。
「私は、カミカワさんが出してくれてるんです」
すると秋人は、軽く驚いたように、
「えっ!」
と声を上げる
「未成年の来訪者の時は、お決まりだって、言ってました。
まあその代わり、冒険者家業はしないで欲しいって言われましたけど」
しかも、学費だけでなく、卒業まで家に住まわせてくれると言う。
「そうなんだ。はじめて知ったよ」
と言う秋人。一方、修一は、何かを察したような、様子ではあったが、
これ以上は、この事に関して何も言わなかった。
ここで修一が、再び話題を変える。
「ところでブローカー連中はどうする?
この一週間は、俺か恵美、秋人で護衛するけど、その後だよな」
警察に相談したとはいえ、直ぐに解決してくれるとは限らないのだ。
イノは、笑いながら
「今までとは違ってトヨが近くにいてくれているから、大丈夫です。
もうご心配はいりませんよ。それに、ファンタテーラにいた頃から、
奴らを返り討ちにしてきましたから、こっちの世界でも、
最初こそ、下手を打ちましたけど、後は連中がどうにかしてきましたし」
とは言うが、秋人は
「油断しない方が良いと思うよ。この世界には、超科学があるからね
ファンタテーラの時と同じとは思わない方がいいよ。
それに、今日まで大丈夫だからって、今後も大丈夫とは限らないし」
と言った後
「ここじゃ、いつほかの生徒が来るか分からないからさ、
また放課後集まらない?」
今日は修一とイノは部活が休みで、秋人も今週中は、部活が無いと言う。
そして、修一の家に集まる事になった。
秋人もイノも、今日は家に人が居て、話を聞かれると秋人は家族に、
イノは上川夫妻に、心配をかけるかもしれないからである。
なおイノは使い魔の事は、話したが狙われている事までは、話してない。
そして放課後、イノは、預かり所から、
ケージに入った蛇形態のトヨを引き取った後、三人が学校を出て、
修一の家に向かう途中、下校途中の蒼穹と里美と会った。
二人は、入る玄関こそ異なるが、同じ家に住んでいるのだから、
ばったり会っても、おかしい事じゃない。
「おや、仲良く下校ですか」
何処か嫌味ったらしい言い方で言う里美に対し、
「まあな」
と答えつつ、修一も嫌味ったらしい言い方で、
「残念だったな、俺の弱みが握れなくて」
「本当に、あの人は貴方に隠し事は出来ないんですね」
恵美は別れ際、
「修一には、隠し事できないから」
と言っていたのである。
「どんな手を使ってるんだか」
怖い顔でにらみつける里美に対し、
「別になんだっていいだろ。それじゃあ」
と修一は答え、修一達はこの場を去ろうとした。
修一は里美が苦手である。彼女の堅苦しそうな雰囲気のせいで
息苦しく感じるからだ。一緒にいた蒼穹も、修一に関わりたくないのか。
「里美。私たちも行こう」
と言って立ち去ろうとしたが
「ちょっと待ってください。有間君とイノさんは、その方角だと、
遠回りですが?」
更に彼女は、
「確かそっちの方角は、桜井家の裏玄関の方ですわね。
もしや、お二人は桜井さんの家に行かれるつもりですか?」
すると秋人が
「そうだけど……」
里美の目つきが怖くなっていて、ちょっと引き気味に答える秋人。
「そうですか」
と里井は言い、その場は、そのまま別れた。
数分後、桜井家の一階
「何でお前らが……」
修一達が家に着くと、何故か蒼穹と里美が、一階にやって来たのである。
里美は
「やはり男二人と、女性一人と言うのは少し、有間君はともかく、
桜井さん、貴方の事が信頼できませんから」
との事。
「信頼って……」
里美は、怖い目つきで修一をじっと見つめながら、
「異性に対し、隠し事が出来ないとなると、何かしてるとしか考えられません」
「なにもしてねーよ!」
と声を荒げつつも
「だいたい隠し事できないのは、俺も一緒だ」
「それは、どういう事ですか?」
修一は、気まずそうに、
「いえない……」
「そうですか、では、私たちも、この場に同席させていただきます」
ここで、蒼穹は、
「私は、アンタが何しようが、関係ないから、つーか里美、
私まで巻き込まないでよ……」
と彼女は、どうやら里美に、巻き込まれただけの様である。
ここでイノが、
「貴方達は、サクライ君と同居してるんですか」
ここで蒼穹が、
「違う、違う、この家は、偽札じゃなくて、二世帯住宅で、
一階と二階が、独居房じゃ、なくて独立しててその……」
里美が
「落ち着きなさい、天海さん」
と言いつつ、里美が家の状況を、くわしく説明する。
説明を聞いたイノは、
「確かに、それでは、家は同じかも知れませんが、
同居とは言えませんね」
と理解する。
「この事は、何密にね。お願い」
と蒼穹は、イノに口止めをする。
さて里美と蒼穹が、加わった事で、秋人が、
「どうする?修一君」
と聞いてきたので、
「まあ、この際だ。二人にも、事情を聞いて貰おう」
さっきまでのやり取りの所為か、修一は少し苛立っている様子だった。
そして、二人にイノの抱えている状況を話した。
「私も使い魔のブローカーの話は聞いた事があります。
あれだけの使い魔なら、狙われてもおかしくは無いですね」
と言ってケージの中にいる蛇形態のトヨをみる里美。蒼穹も
「私も、話は聞いてるわ。そう言えば、この前、情報番組で見たんだけど、
前に魔獣を違法に運んでいたトラックが事故を起こした事があったでしょ」
「あの件ね」
イラっている口調で言う修一。そう魔法街の一件である。
修一もニュースで、魔獣を違法に運んでいたトラックの事故の話を知っていた。
その事故の際に逃げ出しのが、
自分たちを襲った魔獣だと言う事も、予想がついた。
「運んでいた魔獣は、どうも、そういう連中の商品だったらしいわ」
情報番組によれば、使い魔として売る予定の物だったと言う。
「運んでいた奴は、捕まったけど、肝心のクライアントはまだ捕まってないのよ。
案外今回のブローカーたちが、関係が有ったりしてね」
なお運んでいた奴は、荷物が何であるかは知っていたが
クライアントが使い魔のブローカーである事以外、
どこの誰かは知らなかったと言う。
(もしあの一件に関わっているなら、ぶちのめしたい)
と言う思いを抱く。
そして今後の事について話し合う。
「恵美の話じゃ、これまでは追い払ってたんだよな」
「はい、ファンタテーラにいた頃からそうでした」
「こちらから、打って出ようって思った事は?」
「そう言うのは、追い払うだけで十分だって思いましたから、それに冒険者家業で、手一杯でしたし」
更に、秋人も
「こっちから打って出るのは、危険だよ。僕らにできる事は、
追い払うんじゃなくて、捕まえて警察に突き出すくらいだね。
後は、警察の仕事だよ」
ただ、警察が連中を摘発するまでの間は、護衛しておく、必要はあるだろうが。
なので、この一週間だけでなく、今後も気にかけて置く事が必要だった。
イノは申し訳なさげに
「すいませんね。ブローカーの件は、エミさんはともかく、
サクライ君やアリマ君には関係ないのに」
すると修一は、
「いや、元は大蛇の事を恵美に頼んだことが、
イノさんを助けるきっかけだから、あながち無関係とも言えないんだよ」
「そうだったんですか」
「まあ俺は、役立たずさ。実際に君を助けるのは恵美になるだろうな」
と自虐的に言う。
秋人は、
「僕も、話は聞いていたし、大蛇の件で乗り掛かった舟だからね。
この際、最後まで付き合わせてもらうよ」
ここで、里美が
「ところで貴女は、木之瀬さんとは?」
と聞いてきた。
「よくしてもらってます……」
この後、イノは、蘭子は賛美するかのような事を言い出したので、
誰でも容易に、彼女が蘭子の取り巻きである事は,容易に想像が付くものだった。
「そうですか……」
と里美は言った後、
「私も協力しますわ。一市民として放って置けませんから」
と言いつつも、何かあるような雰囲気だった。
(なんだか良からぬことを考えてそうだな)
と修一は思った。
そして蒼穹はと言うと、この状況下で、自分は関係ないと言えないようで、
「私も、協力させてもらう。聞いちゃったからには無視できないから」
話しを聞いた以上関係ないと言えないのも事実である。
「皆さん、ありがとうございます」
と言ってイノは深々と頭を下げた。
その後、彼女の護衛の当番とか護衛の際の手筈を決めたりして
話しがまとまると、その日は解散。その後は、五人でイノを家まで送った。
イノを家まで送った後、家に戻った蒼穹と里美。
二階に上がり、居間に来たところで、蒼穹が、
「あのさ、里美。あの子を守る事で、蘭子に恩を売ろうって思ってない?」
里美は、蘭子の事をよくは思っていないから、
その取り巻きの少女を助けると言う事は、何かあるとしか思えなかった。
「それ以上ですよ。私がと言うより、天海さんが、あの子助ける事で
こっちに、彼女を引き込もうと思いまして、NTRやつですね」
と言って笑みを浮かべる。
「アンタねぇ……」
意地の悪そうな笑みを浮かべる里美に対し呆れ顔の蒼穹であった。
一方、ブローカーの連中は、失敗続きの為
「親分、バジリクスの件、もうやめませんか、
例の結界の対策がされたんじゃ、もう……」
親分と呼ばれた奴は
「何言ってやがる。この前、運び屋がドジったおかげで、
埋め合わせをしなきゃいけねぇんだよ」
と声を荒げるが、部下と思える奴の一人は、
「埋め合わせは、十分できてるはずですよ。新たに手に入れた魔獣カプセルで……」
すると親分は、
「うるさい!あの小娘に目にもの見せてやらなきゃ気が済まねえんだ」
この親分がイノを狙うのは、
ファンタテーラにいた頃からの因縁故と言うと言うのもある。
別の部下が、
「例の大蛇の噂といい、あの小娘、バジリクスを浮島に隠してるんでしょうか」
すると親分は、
「あそこが、ダイジュウジクミのお気に入りじゃなけりゃ、
手を出せるんだがな……」
と悔しそうに言うが、そこに一人の部下がやって来た。
「親分、バジリクスを見つけましたぜ」
「本当か!」
「ええ、あの小娘、学校にケージに入れた白い蛇を持って行くのを見たんです。
あの小娘、バジリクスを擬態化する術を手に入れたに違いありませんぜ」
親分は、嬉しそうに、
「そうか、おいお前ら、ありったけの魔獣カプセルを準備しろ!」
「まさか、親分……」
「総力戦だ、今度こそ、ケリをつけてやる。準備にかかれ!」
「ヘイ!」
部下たちは、一斉に声を上げたが、意気揚々としている者もいたが、
多くは、うんざりしているようだった。
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