不思議な街の日常~普通を望む者たちの普通でない日々~

岡島

プロローグ「新生活」

 その街に、来たとき、乗っていた列車が市街地に入り、

車窓から街の風景を見た瞬間、その少年、桜井修一は、こう思った。


(また異世界に来た)


だがすぐに


(やっぱり差別的だろうか……)


とも思った。


 しかし、この街の外から来た多くの人間が思う事でもあった。

この街、S市を一言でいうなれば「混沌」。また、こう表現する人間もいる。


『映画の撮影所のようだ』


 それは、この街が、過去と現在と未来、そして異世界が混在しているからだ。

それは街並みだけではない。行きかう人々も、彼らが使っている物も。


 だから現代劇、時代劇、ファンタジーにSF作品を同時期に撮影している

撮影所を思わせるのではないだろうか。

 

 大きなボストンバックを肩から下げて、

列車を降りた修一が駅のホームで最初に見かけたのは、

とある学校の生徒募集の看板、かなり大きく目立つが、

以前来た時には気づかなかった。


「私立マギウス学園……中高大一貫の……魔法学園!」


看板に書かれていることに少し驚きつつも


(いや、この街じゃ普通か)


と言い聞かせ、歩き出す修一。

 

 そして改札に向かう途中、すれ違ったのは

全員ファンタジー世界の住民を思わせる民族衣装を着て、

何人かは日本人離れし顔立ちで、中には、エルフ耳や、獣耳の人もいて、

さらに手には大きな杖を持っていたり、背中に弓を背負っていたり、

腰に剣を差していたりと、勇者御一行様を連想させるような一団。

 

 駅を出れば、タクシー乗り場には、タイヤがなく、

車体が宙に浮いている未来の乗り物の定番といえるエアカーのタクシーが

止まっていたり、街を歩いていれば、


「そこの箒、止まりさーい!」


 パトカーのサイレンの音と、スピーカーの声、

警察の取り締まりという所だろうが、

音が上のほうから聞こえてきた。あと「箒」という言葉、思わず上を向くと、

箒で空を飛ぶ魔法使いを、空飛ぶパトカーが追いかけていた。

 

 この後、修一は、目的地、向かって、歩き出した。家に着くまで、

修一にとっては物珍しい風景を、何度も見た。更には街中にワイバーンが現れ、

ちょっとした騒ぎになったが、彼にはこれと言って関係ないので、割愛する。

 

 そして目的地に着くと


「あ~~~~~~~~~~~~~もう腹いっぱいだ……」


思わずそんな事を口走る。食べ物を無理やり詰め込まれ、

腹が苦しいという感じだろう。


 さて彼の目的地は家である。二階建ての、

ちょっと周りの家に比べ少しだけ大きめな家である。

それ以外はデザイン的に見ても、奇抜じゃない、

比較的に平凡の分類に入る家である。

 

 この時は、3月の終わり、多くの人間が新生活に向かっていく時期でもある。

修一は4月から高校生、そして新居で新生活を始めるのだ。

 

 なぜ彼が、この街の高校に通う事になったのか、別段深い理由はなく、

親の仕事の都合で、この街に引っ越すことになったという事になっている。

少なくとも修一はそう思っている。


 なおこの街の、この家に来るのは二度目、最初は高校受験の時、

鍵は、受験できた時に渡されていた。

鍵を開け、家に入ると、前に来た時とは違い生活感がした。


「まあ、母さんが先にこっちに来て住んでいるから当然か……」


 母親は、今日は仕事で家を空けている。あと修一には、父親はいない。

いわゆる母子家庭である。


 家に着いた修一は、先に着いてた荷物の整理を始めた。

その後、トラブルがあったものの

翌日以降は、特に何もなく、高校の入学式を迎えることとなる。


 入学式に余裕をもって出発した修一。余裕があるから、

ゆったりとした足取りで、学校に向かう。


(マンガじゃ、こういう時、曲がり角で、

食パンをくわえて走る女の子とぶつかって、それをきっかけに、恋が始まるとか)


 ふと修一は、そんな事を考えた。


(まあ、あり得ないよな)


確かに、女の子とぶつかることはなかったが、ちょうど交差点に入るところで


「!」


彼の目の前を、食パンをくわえた少女が横切った。


(いるんだな。食パンをくわえて走るヤツって)


少女の背中を見ながら


(この後、誰かとぶつかって恋が始まるってか)


そんな事を思いつつも、学校を目指して歩いていく。


 この後は、彼の身の上には、何事もなかったが、その周辺では、

例えば、上の方に目線を見ければ、数人のOL風の女性や、

またはサラリーマン風の男性が、建物から建物に飛び移りながら移動、

いわゆるパルクールで通勤をしていたり、

更に上空では箒に乗った魔法使いの学生と、

ジェットパックを身に着けた学生が、飛んでいて、

更に人が乗ったワイバーンも飛んでいて、小さめで人が乗って操っているためか、

先の時とは違い騒ぎになっていない。

それと同じく人の乗った巨大な鳥も飛んでいる。

 

 そして道路では普通車の他、エアカー、エアバイクと言った未来的な乗り物の他、

人を乗せた絶滅種のモアによく似た鳥、

蒸気機関で動いていそうな大型のロボットが行きかっている。


 こんな感じで、混沌としている感じがするが、この街では、ごく普通の光景で、

修一も気にしていない。と言うよりも、

まだ慣れていないが気にしないことにしている。

 

 そうこうしているうちに、学校に着いた。

ごく普通な鉄筋コンクリート造りの校舎、絵に描いたような、

普通な学校であり、偏差値も、平均的、

名前も市立不津高等学校、通称、不津高。

ただ街がそうであるように、学校に通う生徒、教職員も人種は多種多様である。


 そして修一は脳裏に、この街に来てから見てきたものを頭に浮かべ


(たとえ、どんなことがあっても、俺は普通に過ごす!)


と言う決意を胸に秘め、修一は、校門をくぐった。


 桜井修一と言う少年は、顔は、どちらかと言えば美形になるんだろうが、

飛びぬけているわけでもないし、その髪型はショートだが、地味、体格も中肉中背、見た目的には、普通と言う言葉かよく似合う。そう見た目である。


 そんな彼の高校生活が今始まる。



 今日から彼は、何処にでもいる普通の高校生。


 











 






 


 否、彼は普通でいたい高校生である。

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