ハズレ勇者の異世界生活

ラスト

第1話〜放逐された勇者〜

  クロウ アカツキ

 職業:なし LV:1


「……ハァ」


 自分のステータスカードを眺めて、一人溜め息を吐く。

 夕暮れ。人通りの少なくなって来た大通りの広場、其処に置かれたベンチに腰掛け、俺は一人項垂うなだれていた。

 気分はあれだ。リストラされたサラリーマンのような感じだ。実際なった事無いけど、絵面は似てる。……昨日までただの学生だったのにな。

 いつものように学校に居たらいきなり勇者召喚され、かと思えばその日の内に才能が無いからと放逐されるとか酷過ぎるだろ。しかも手切れ金も無し。

 特筆した才能も無く、身一つで、しかも無一文。これがゲームならとんでもないクソゲーだ。


「ハァ……どうしよう」


 取り敢えず異世界物では定番の冒険者になれるか調べて……いや、先ずは寝床を探した方が良いのか? つっても金が無いから宿とかは無理だし……それに晩飯も無理だよなぁ。俺以外の召喚された連中は、今頃そんな心配も無く気楽にやっているんだろうな。こっちは野宿しなくちゃならないかもしれないのに。

 野宿か……今時の若者にはキツいものがあるな。しかもこういうファンタジー世界だとスラムとかあるんだろ? 下手な所で寝たらホームレスに身ぐるみ剥がされる可能性があるとか怖過ぎる。日本だと飲み会で終電逃してその辺の路地で寝てる人とか居るもんな。今更だけど日本って平和だったんだな。

 ……ああ、思い出したらホームシックになって来た。


「クソッ……なんだってこんな目に」


 普通こういう時って他の勇者よりも凄いチートがあるとかじゃ無いのかよ。せめて何か救いがあってくれても────


「ねえねえ、大丈夫?」

「ッ!?」


 考え事に集中し過ぎてか、声を掛けられるまで目の前に人が居るのに気付かなかった。

 顔を上げると、其処には銀色の髪をした少女が見下ろしていた。美少女、という単語が頭に浮かぶ程可愛らしく整った顔。一瞬、本当に自分に話し掛けているのか疑ってしまった。


「今暗い顔してたけど、もしかして行く所無いの?」

「あ、あぁ、うん。まぁね」


 これは救いなのだろうか? そんな期待が込み上げる。しかしその内容が女の子心配されるとかちょっと情け無い。

 そんな意気消沈気味の俺とは対照的に、少女は太陽のような明るい笑顔を向けて来た。


「じゃあ良い場所連れて行ってあげるよ! おいで!」

「え? あ、ちょっ!?」


 彼女は俺の返事も聞かずに手を取り、何処かへと引っ張って行く。なんか振り払うのも申し訳ないからついて行ってるけど、どこに連れて行くつもりだ? 変な場所じゃ無いよな?

 それから暫く少女に引っ張られ、何やら周りの建物が豪華になって来ているなと感じて来た頃、少女が歩みを止めた。


「ほら、ここだよ」


 そう言って彼女が指を差したのは、何やら高級感漂う煉瓦造りの大きな建物だった。


「……これ、何の店?」

「ホテルだよ。王都で一番の高級ホテルなんだって!」

「へぇホテル……ホテルゥ!?」


 しかも王都一の高級ホテルって言いましたか!?


「それじゃ、行こっか!」

「えっ!? ちょっ、ちょちょちょちょちょ待って待って!」


 ホテルに入ろうとする少女を強引に引き止める。何の目的で今場所に連れて来たのかは分からないが、入ると言うからには言っておかなきゃならない事がある。


「俺、金持って無いんだけど……」


 彼女が善意で此処へ案内してくれたのは分かるが、生憎俺は無一文。残念ながらホテルどころか食事すら出来ない。

 そんな俺の心配をよそに、少女は明るい笑顔で返す。


「大丈夫! 私に任せて!」

「えっ?」


 どういう事? と聞く間も無く、俺は少女に連れられてホテルの中へと入って行った。




 ホテルの中は王都一というだけあって華やかだった。床にはカーペットが敷かれ、城でも無いのにシャンデリアやら電飾のような物で暗がりが出来ないようにされ、数ある調度品が上品さを醸している。……俺ここに居て大丈夫か?

 なんだか場違い感を感じていると、フロントに控えていた燕尾服の男が近づいて来た。


「いらっしゃいませ」

「取り敢えず一泊したいんだけど、上の階って空いてない?」

「それでしたら、最上階が空いております」

「じゃあそこで、食事も二人分お願いね」

「かしこまりました。では彼女が案内致します」

「宜しくお願いします」

「うん。宜しく」


 なんかあれよあれよと話が進んでしまった。勝手知ったるなんとやらと言わんばかりに泊まる事が決まって、気が付けば従業員の女性に部屋まで案内して貰う事になっていた。

 因みに此処まで俺は一言も喋って無い。口を挟む暇すら無かったからな。ただボケーッと突っ立ってただけっていう。


「さっ、行こ!」

「あ、はい」


 少女にまた手を引かれ、ホテルの階段を登る。それにしてもこの子何者だよ? もしかしてすっごい金持ちだったりするのか? もしくはこのホテルのオーナーの娘とか?

 まあどっちにせよ、お陰様で今日の夕飯と寝床には困らないからそれで良いか。

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