第102話 天然が一番の敵

 私の名前は野口夏子。どこにでもいるモブのような女子高生である。さて、そんな私が現在、授業中にもかかわらず携帯をいじっている。もし、これを何も知らない第三者が見た時には恐らく私を不良だと思うだろう。しかし、そうではない。


 私達のクラスでは授業時間の一部を使って文化祭の準備が認められている。その過程でスマホを使う事は認められており、今私はメイド喫茶の相場を調べて自分たちのクラスではどのようにするか考えているのだ。先生は私達に全部任せる方針らしく、何か困った事があれば報告するようにと言って教室を出て行った。自主性を重視するらしい。


 さて、先生が居なくなると自然と生徒達はふざけてしまったり、ダラダラしたりしてしまう。それは私達のクラスも同じである。


「おい、勝負だ!」

「今は勝負する時間じゃない、文化祭の準備の時間だ」

「確かに。じゃあ、俺達の仕事を終わったら勝負だ」



何やら、マグロ対アジフライが行われようとしているがアジフライこと黒田君がそれを拒み二人して紙で輪を作り鎖のようにしている。


一方我らが銀堂さんは……


「流石十六夜君! ちゃんとしてます!」

「相変わらず、黒田君押しが凄いね」

「私は十六夜ファーストですから!」


この子は本当に好感度がどんどん上がって行く。その内、上がり過ぎて包丁で刺したりしないよね? かーなーしーみーの……みたいな?



まぁ、そんな事を考えながらもサクサクと作業を進めていく。このクラスは金親君、マグロ君、銀堂さん、高スペックの人たちが多いからいや、もう、速すぎる。衣装は金親君が用意、代金もほぼ数分で決まり、ポジションも秒で決まる。いやいや、このクラスヤバすぎ。


ただ、黒田君が『コハクさんがメイドなのにこの代金は安すぎ、ゼロが7個足りないきがしますが』とぼやいていたがそこは文化祭として納得しようだ。まぁ、そうなると時間が余るわけで……



「さぁ、勝負だ。このカードゲームでな!」

「はぁ、わかった」



黒田君がため息を吐きながらマグロ君と机を合わせてまさかのカードゲーム。学校で何をやっているんだ……



勝負が始まった。いや、二人してデッキ持ってくるって仲良しか? プレイマットまで持ってくるなんて……


「神龍・ボルガを召喚」


マグロ君がなにやらキラキラしたカードを出す。良く分からないが男子達が二人の勝負を熱い視線で見ている。話を聞くにあのカードゲームはアニメ化もして子供から、大きいお友達まで大人気らしい。クラスの男子たちも好きな人が多いらしい。



「ほう、ここでボルガか……」

「敢えて、このタイミングで出すか……」

「さて、奴はどう凌ぐ?」



うーん、なにこの雰囲気? 男子達がそれっぽい言葉を言っているんだが、全然分からない。


「ここはアタックせずターンエンド」


「敢えて、アタックせずに残すか……」

「先を見越しての判断か、悪くないだろう」

「しかし、ここはアタックしても良かったタイミング。アジの野郎は今頃、混乱しているだろうな」



いや、だからその訳の分からない説明は何なの? 普通にブロック要因として残しただけじゃないの? いや、ルール知らないけど


「あの男子さんたちの雰囲気……」

「銀堂さん何か分かるの?」

「よく、十六夜君と火蓮先輩が見ているアニメで出てくるバトルの解説キャラににていますね」

「皆、ふざけてただけなのね……」



この男子の偶にある悪ふざけだけはどうしても分からない。そんな事を考えていると黒田君のターンになる。彼はカードを振り上げてパフォーマンスをやった後に召喚する


「体育ある日の天敵、カレーある日の天敵の概念の巨竜。炎症龍・風邪ドラゴンを召喚」



ダンッとプレイマットにメンコかよって言う位の勢いで叩きつける。なぜ、召喚前にあんな言い方を?


「まさか、あの男の切り札……だと」

「お前も隠し持っていたか……しかし、あの龍を呼ぶには召喚時にモンスターを一体破壊しなくてはならない」

「しかし、あの召喚パフォーマンス……共感性羞恥……」



男子達も驚く中、黒田君は先ほど召喚したモンスターではない元々召還していたカードを墓地に送った。


「召喚条件はミニドラゴンより確保」



あ、なんか、あの小さいドラゴンなんか可哀そう。



「くっ、ここで炎症龍・風邪ドラゴンか……」

「さらに炎症龍・風邪ドラゴンの召喚された時、無条件で特殊専用カードを使用できる。エクストラマジックカード『龍より放たれた鼻垂れたブレス』を無条件で発動。これにより、お前の神龍を破壊。さらに、特殊専用エクストラマジックカード『何故かいつもより優しいママが買ってきてくれるプリン』を発動。これにより、風邪ドラゴンのアタック値を+3000……そのまま、攻撃……合計アタックポイント7000のアタックだ……」

「負けた……」



何やってんの。君たちは……と呆れてしまう。しかし、どうやら黒田君の勝ちのようでその日はマグロ君が項垂れ、デッキを変えてくると言っていた。いや、黒田君のドヤ顔。


このクラス、私以外に普通の人いないな……まぁ、楽しいからいいけど









◆◆



 僕の名前は黄川萌黄。今、僕は夕飯の準備をしている。彼の家のダイニングテーブルに箸や取り皿を並べる。僕だけでなく皆も手伝ってくれている。


 今日の夕飯を作ったのはアオイちゃんである。肉じゃがとロールキャベツというちょっとあざとい感じもあるがアオイちゃんにはそんな意図は無いだろう。


 その日、僕は食事のポジションに違和感を覚えた。いつもなら彼を挟むように火蓮ちゃんとコハクちゃんが座るのだが……何故か今日はアオイちゃんが彼の隣で、その他の全員がいつもと違う場所で座ったからだ。別に座る場所を固定はしてない。だが、これは……因みにメルちゃんは何かを察してあとで食べるらしく研究室に戻って行った。


「あの、アオイ先輩……どうして私がここなのでしょうか?」

「どういうこと?」

「え? あ、いや、いつもなら私が十六夜君の隣なのに、その、今日は違うじゃないですか?」

「そうだね……」

「それがなぜなのかなと……」

「なんでだろう……特に意識はしてないけど……自然とこうなった……」

「ええ? そ、そんなこと……」


コハクちゃんがちょっと困ったような顔つきになる。場所が変わり、コハクちゃんと火蓮ちゃんが今日は隣である。火蓮ちゃんもちょっと首をかしげている。


「そんなことより、もう食べよう。冷めちゃうから……」

「ううーん……まぁ、そうですね。今日の所はこのまま食べましょう……

「いや、まさか、そんなことないわよね? フラグ立ってないわよね?」



コハクちゃんは今日の所はを強調する、遠回しに明日は私と言っているのだ。一方で火蓮ちゃんは怪しげな視線をアオイちゃんに送る。これ、まさかとは思うけど、新たなる修羅場の幕開けでは……そして、その中心の彼は……


「………」


これは、確実にアオイちゃんの変化に気づいてるね。ええっと、どうすれば…‥みたいな感じかな? 彼は二股宣言をしているんだ。ここでアオイちゃんがこんな行動をしたらそれはまさに、四面楚歌になるだろう。


しかし、ご飯が冷めてしまうということでパクパクと皆で食べ始める。アオイちゃんは彼の隣でしっかりと目を見つめて話す。


「どう? 美味しい?」

「え? あ、も、勿論ですとも!」

「アンタために作ったから、満足してくれてよかった……本当はカレーとかから揚げにしたかったんだけど、最近作ったばかりだからこのメニューにした」

「そ、そうなんですね!」

「うん。どんどん食べておかわりもしてほしい…‥」

「し、しますとも!」


ええ? こ、こんな露骨に攻める? いや、これで攻めととるのは早計過ぎるのではないか。僕以外も未だにアオイちゃんが彼にアピールしているかどうか判断を下せないらしい。



「「モグモグ、ごっくん……」」



二人の怪し気の視線が彼とアオイちゃんにつき刺さる。彼は気付いたようだがアオイちゃんは気付かない。そして、彼の取り皿にロールキャベツが無くなると彼女はそれを受け取って掬う。


「はい。ドンドン食べて……」

「あ、ありがとうございます」


彼がおかわりと受け取り、それをじっと見つめるアオイちゃん。彼女は彼を見て、自分は一切食べない。


「あの、食べないんですか?」

「アンタが食べるの見てないから……」


これは天然のなのか、確信犯なのか僕には判断がつかない。しかし、この彼女の言動に遂にコハクちゃんと火蓮ちゃんが動く。火蓮ちゃんはアオイちゃんも怪しむ視線だが彼にも不機嫌な視線を送った。


「……十六夜のハーレム主人公」


火蓮ちゃんの皮肉っぷりの発言。そして、コハクちゃんがレフェリーの如くアオイちゃんを止める。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「なに?」

「あの、アオイ先輩……それは……!!」


まさか、コハクちゃんがそれを言うとは……火蓮ちゃんもいや、アンタが言うんかい。と言う視線も若干送るが気持ちは同じらしく黙っている。


「どこらへんが?」

「先ずこのメニュー、何ですか。ロールキャベツと肉じゃがって良妻アピールも大概にしてください!」

「特に意識はしてないけど……」

「あと、その私がおかわりとってあげますよー、とか、おかわりしてとか、ちょっとあざとくてイケナイと思います! それ、私の十八番です!」

「コハクが言っている事良く分からないんだけど……」


十八番とかそういうの言っていいの? コハクちゃん? 一応だけど、あざといのは秘密にしてるんでしょ? 焦って彼の前で彼女は言ってはいけない事を言ってしまう。


しかし、アオイちゃんのこの反応。まさか、本当に天然? 天然であざといことができるの? だとしたら……とんでもない爆弾が投下されようとしているのかもしれない……


「コハク、食事中だから落ち着こう?」

「わ、私は落ち着いてますよ! ただ、これだとキャラが被って私の影が薄くなるじゃないですか! アイデンティティを奪わないでください!」

「良く分からないけど……あざとい行動はコハクの十八番だからそれをやったらダメって事?」

「そうです。あざといは私の十八番……ち、違います! 十六夜君、私計算してあざといとかやってませんから! 純粋に良妻で性格が良いからいつも行動してるだけですからね!」


あ、墓穴を掘ったのに気付いた。コハクちゃんの焦りの表情。そして、火蓮ちゃんも何かに焦っている。


「無自覚系主人公ならぬ、無自覚系ヒロイン? そんなのあり? っていうか、皆ずるいのよ。私は素直になれなくて、十六夜とイチャイチャできないのに……もっと私と十六夜をイチャイチャさせないさいよっ」



彼女の怒りの方向がそれて何処かに行っている。そして、この後、仁義なきあざといバトルが開催されることになる。


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モチベーションアップに繋がるので、★、レビュー、感想、よろしくお願いいたします。















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