第100話 それが運命
文化祭は、魔装少女にとってかなりつらいイベントになるものである。始まる前に火蓮の両親が離婚し、萌黄が男子二人から悪口を言われ、始まった後もアオイが文化祭である失敗をする。
火蓮と萌黄に関しては既に解決してはいるが、問題はアオイ。彼女はシンデレラ役を自ら志願する。それは彼女自身がシンデレラ、お姫様になってみたいと言う願望から。そして、少し内気で視線が苦手という体質を克服したいから。彼女のクラスの演劇は体育館のステージを使い行われる。会場には観客が沢山。
数多の視線、彼女が今まで晒された事のない視線の数、会場の独特な空気と主役というプレッシャー。特に何百という視線に緊張……セリフが吹き飛んで劇が……
彼女は只管に泣いた。自分の不甲斐なさ。クラスへの申し訳なさ。自分のお姫様になりたいと言う感情と短所を克服したいという感情を優先させて劇を台無しにしてしまった。ポタポタと落ちる涙を止めることが出来ず、彼女の文化祭は幕を閉じた。その後、萌黄と火蓮、コハクにも慰められる。
『あーし、バカだッ、自分を変えるためにこの劇利用してっ……お姫様になりたいって馬鹿な理由で……全部、滅茶苦茶にしちゃった、ごめんなさいっ、ごめんなさいッ』
人は失敗もする。上手くいかない時もある。作者の伝えたい内容がヒシヒシと伝わってきた。彼女が泣きじゃくる姿も悲壮に溢れていた。
アオイが転校して少し経ち、皆ノ色高校に転校してきて、少し友達ができて仲間ができての文化祭。火蓮の両親が離婚して落ち込み、萌黄が傷つき、アオイが無力を噛みしめる。
当然だがこの話、文化祭編はかなりネットもあれた。勿論『ifストーリー』ほどではないが。しかし、それでも立ち上がる彼女達に読者は希望を覚えただろう。俺だってその一人だ。
だけど、変えられるのなら変えたい。ただ、そう思った。
◆◆
まだ先だが文化祭でシンデレラを演劇として行うことになった僕たちは、今日から早速練習しようと言う話になった。彼が今すぐにでも始めるべきだともう、鼻息荒くしてグイグイ来たからだ。
ソファに皆揃って座り、セリフの暗記からまずは始める。アオイちゃんは主役と言う事もあり、セリフが多いだろうなぁ。でも、彼女ならすぐにでも覚えられるだろう。
火蓮ちゃんも暗記力が物凄い高いから一分二分で覚えられるだろうなぁ。もしかしたら、数秒かも。火蓮ちゃんはパラパラと台本をめくりながら早口でブツブツ独り言を呟いて集中力を高めている。
「おかえりなさいませご主人様今日もお疲れ様です本日はこの後王族主催のパーティーがありますのですぐに着替えて……」
速い……一度も噛まずに早口言葉のように全てのセリフを発していく。
「チラチラ、チラチラ」
その横で台本が気になり覗くようにチラチラ見ているコハクちゃん。ざっと目を通して火蓮ちゃんは台本を閉じた。もう、覚えたようだ。もちろん、僕もすでに覚えている。
「台本見せてもらっていいですか?」
「いいわよ。ほい」
火蓮ちゃんがコハクちゃんに台本を手渡す。毎度思うけど、中が二人は良い。この間の休みも……
『嗚呼ああああぁぁぁ!! 私のケーキが無い!!』
とある休日のおやつ時間。コハクちゃんが冷蔵庫を開けると悲鳴を上げた。それを聞いてダイニングにテーブルで火蓮ちゃんが顔を読んでいたマンガ本で隠す。その時、リビングには僕たちも居た。コハクちゃんは火蓮ちゃんに向かって歩いていく。
「私のケーキがない……誰ですか!? って分かってますけど!」
彼女はケーキを楽しみに取っていたらしく、それがなくて子供のように怒っていた。勿論、僕やアオイちゃん、彼ではない。と彼女も分かっていたようで真っ先に火蓮ちゃんの所に向かった。
「火蓮先輩、私がケーキを買ってきたのはいつですか?」
「二日前ね……」
「その通りです。因みに私が買ってきたケーキは数個限定でした。数はいくつか分かりますか?」
「二つね……」
「ええ、そうです。では、最後にもう一つ……私のショートケーキをどこにやったんですか?」
「ふぅ……コハクみたいな勘のいいJKは嫌いよ」
その言葉にコハクちゃんにブチ切れて彼女に顔を近づける。
「なんで、貴方はポンポン人のものを食べるんですか!? っていうか、二つも食べたんですか!?」
「ああー、それは……その、メルが最初に食べてたのよ、それで美味しそうだから私も食べて……後でコハクの買ってきた奴だって気付いたのよ……」
「なんで、その時に言わないんですか!?」
「それは、怒られると思って……」
「子供か!?」
まぁ、その後、火蓮ちゃんがちゃんとケーキを買ってきて謝罪をしたから事なきを言えた。メルちゃんもかなり申し訳なさそうに謝ってたな。
コハクちゃんも怒ってはいたけどケーキとプリンを買ってきてもらえるとかなりあっさり機嫌が良くなり一緒にティータイムもしてたっけ。
「ごめん……」
「もういいですよ。一緒におやつ食べましょう」
僕はアオイちゃんとテレビゲームで盛り上がっていたからあとで食べることにして、ソファの方に座ってゲームしてたんだけど……
隣からの声は聞こえてたんだ。
「このケーキ美味しいですぅ」
「確かに美味しいわね」
「このプリンもとっても美味しい」
「……ダイエットは……なんでもないわ」
「火蓮先輩も食べますか? このプリン」
「じゃあ、貰おうかしら」
隣から、仲のいい二人の声が聞こえていたのだが……
「ああ! なんで、勝手に下のカラメルまでプリン貫通させるんですか!?」
「え? カラメルの部分が食べたかったから……それくらい別によくない?」
「いきなりスプーンで直貫通って、こっちは食べプラン立ててるのに! 不躾です!」
「不躾って……」
急に喧嘩したり。
「……ねぇ、どうしたらそんなに大きくなんのよ」
「どうしたらって……さぁ? 私のお母様も大きいですし……遺伝なのでしょうか?」
「遺伝か……ママ、素敵な女性だけど……」
「バストアップ方法とかネットに……」
「色々実はやってんのよ……」
「あ、そ、そうなんですか?」
「そうよ。結構ガチ目にやってんのよ」
「ひ、一人ではきついかもしれませんね。私も一緒にやりましょうか?」
「これ以上、コハク大きくしてどうすんのよ」
火蓮ちゃんが胸の悩みを打ち明け、コハクちゃんがちょっと気を遣ったりしたり。
「私の方が好かれてます!」
「私よ! デートも行ったんだから! はい、これで百ポイント!」
「私はキスしました! はい、二百ポイント!」
「「ぐぬぬぬぬ」」
急に喧嘩始まったり、本当に忙しい。しかし、最後には二人は仲良し。この日は火蓮ちゃんが料理担当だったのだがコハクちゃんが手伝っていた。
「これ、この切り方で良いのよね?」
「そうです。とっても上手ですね」
「そ、そう?」
「最初に比べたらずっと上達してますよ」
これは、僕の勘だが二人はそろそろ二股を認めるんじゃないだろうか? と思ってしまうほど、喧嘩もあるがそれ以上に二人の距離も近い気がする。女の子って急に仲良くなることがあるからなぁ……
と考えていると二年生組は全員セリフを覚えたようだ。というわけで早速練習が始まった。
◆◆
魔法訓練室。最近は私の運動の為に主に利用していたが今回は先輩たちの文化祭の出し物である演劇の練習に使うようだ。内容はシンデレラ。アオイ先輩がシンデレラ役。萌黄先輩が王子。火蓮先輩がメイド。彼女達は魔装を応用してこの時点で既に完璧な衣服を着ることが出来ている。十六夜君がメルが一晩で準備してくれたと言っていた。メルさんも凄いですが、何事も全力の十六夜君……好きです
私も現時点ではまだ来ていないが火蓮先輩と同じメイドの格好をするので親近感を覚える。アオイ先輩はお姫様衣装にワクワクしている表情。萌黄先輩はくるくる回って自身の王子様衣装を観察。
さて、メイド服の火蓮先輩は今まで自分が着たことのない服装に少し、戸惑っているようだ。彼女は基本的にラフな格好を好んで着る傾向がある。シャツ一枚、短パン。
夏場はよくその格好で練乳の棒アイスを口にくわえたり、舌でぺろぺろしてエッチな感じになったりもする。毎回思うが火蓮先輩下着が派手だったり、急に色気が出たりとと言う謎の特徴がある。それはさておき、
「メイド服ってこんな感じなのね……」
「超似合ってますよ! 最高です!」
「そ、そう? ど、どこら辺が?」
「こう、強気な感じだけど、恥じらってる感じで……こう、ギャップで萌えがあって可愛いくて、。強気なツンデレメイドって需要が高すぎて供給が間に合わないって言うか」
「そ、そっかぁ……えへへ、可愛いって言ってくれたぁ……」
カチン……急にデレデレな彼女。いつもの強気な目がトロッと半熟卵の黄身のように溶けて、口角ももカルビと食べた時の幸福感のようにだらしなく上がっている。
「あ、あのね、私、また、美容院に行こうと思ってて……その、どんな感じの髪型が良いと思う? あ、あくまで一般論として聞いてるだけだからね!」
「そんなの全部良いに決まってますよ。ただ、俺の我儘を言うなら今のままのツインテールでお願いします」
「そ、そうなんだ……一般論として、さ、参考にするわ」
「ありがとうございます!」
と言っているが彼女は絶対に長髪のツインテールだろう。私は最近、マンガとかを見るようにしているが普通の主人公だと何でそんなことを聞くんだとか、なんでもいいとか、好意に気づかずにただ只管に惚けたり……etc。
いや、明らかに好意丸出しではと思ってしまうがラブコメ漫画にそれを言ってしまうと物語が成り立たなくなり、すぐさま、完結を迎えてしまう。だが、それでも流石に可哀そう、じれったいと感じることも多々ある。この間読んだ、『モブと令嬢』という学園ハーレムラブコメ漫画。
主人公は何の特徴もないモブのような人。ヒロインは同じクラスの銀髪で碧眼で超美人で過去に色々トラウマがある。序盤はヒロインはトラウマがあり、色々友達を突っぱねて一人で行動することが多い、誰もが遠ざける中でヒロインが帰り道で不良の毒牙にかかろうとしたところで颯爽と現れた主人公がヒロインを傷つきながらも助けるという何処かで見たような展開。
私個人の感想だが滅茶苦茶面白いと思った
このヒロインへの感情移入が物凄く出来たからだ。ヒロインはその後、主人公へ好意を持つのだが主人公が全く気付かない。可愛そうなくらい気付かない。読んでる私としては早くくっ付けと何度も思った。
歯がゆい心境で読み続けていたが、直ぐにくっつかなかったのはヒロインも悪い。なにが、『私はあの人の事が好きじゃない』、『何とも思ってない』だ!! どう考えても好きじゃないか!! メンドクサイ事この上ない
そんな風にもたもたしているから今度は主人公がツンデレヒロインを連れてくる。それでストーカーするとか、何だこのヒロインは? メンドクサイ事この上ない
ツンデレヒロインに関しては令嬢ヒロインより、主人公に惚けれれて本当に可哀そうだった……
まぁ、そんな感じでラブコメ漫画とかだと主人公が気持ちに気づかない作品が多いのだ。しかし、そんな漫画と似たような展開になっても十六夜君は違う。しっかり察する。火蓮先輩もそれに関して言っていた。
『十六夜は、私が変な事言ってもちゃんと気持ちを汲み取ってくれるから、好きなのよ……』
私もそこには同感する。ちゃんと色々察する十六夜君は素敵である
火蓮先輩が反対のことを言っても表の気持ちを考える。受け止められる。本当に好きだ、そう言う所は。
つまり、何が言いたいかというと……十六夜君は察せるのだから、今すぐにでも私に可愛いと言って欲しいと言う事だ。
火蓮先輩だけ褒めないで欲しい。確かに私は今私服だ。見慣れているかもしれない。でも、ちゃんと素敵とか可愛いとか、ハグしたいとか、デートしたいとか、言って欲しい。じゃないと、つい、私はフグになってしまう。頬を膨らませてしまう。
だから、速く、もっと速く、私を褒めて……と頬を膨らませて、褒め待ちの顔をして十六夜君にジィーっと視線を向ける。その視線にハッと彼は気付いた。
「コハクさんも私服が可愛いですね」
「えへへ、ありがとうございますっ!」
私はチョロくない、ただ、ちょっとメンドクサイ女の子なのかもしれない。それでも、私を好きでいてくれて側にいてくれて、いつも私に心を寄せてくれるこの人が好き。
火蓮先輩と視線が交差する。彼女は何も言わないが何を思っているかは直ぐに分かる。私も同じ気持ちだから
――絶対、私が一番
負けないし、引かない。互いに畏怖するほど、気持ちが強い。ここからキャットファイトか?
と思い、互いにシュッシュとシャドーボクシング開始する。
まぁ、そんなことはなく時間も時間なので先輩たちは劇の練習を始めた。
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