大海の自覚編
第95話 元ボッチの青
昔から、あーしはただただボッチ道をひた走っていた。女の子なのに目つきが悪くて、オッドアイが原因で小さいころからずっと人がさざ波のように引いて行く。幼稚園ではボッチで一人か先生と一緒に遊ぶかの二択だった。しかし、先生も他の園児を見ないといけないから……砂場でプリンを一人で作る毎日。それか大きな砂の山に一本の木の枝を立ててそれを倒さない様に砂を減らしていくことで遊んだりした。
室内では一人で神経衰弱、塗り絵。友達ができない……
でも、そんな日々の中でも全部が寂しかったり、楽しくなかったりするわけではなかった。家に帰るといつもおばあちゃんが居たからだ。両親は仕事が忙しい中、おばあちゃんがいつも面倒を見てくれた。
あばあちゃんはいつも膝の上にあーしを乗せて頭を撫でて、褒めて、色々知識を教えて、本も読んでくれた。
『アオイはこんなに可愛いのに、どうして男の子も女の子も寄ってこないのかねぇ』
『……可愛い?』
『そうだよ、世界で一番かわいい』
『母さんと父さんとおばあちゃんしかそう言ってくれない……』
『顔立ちも整って、髪も綺麗、目も透き通って……お姫様みたいなんだけどねぇ……』
『……そうかな?』
『そうだよ……』
『……』
この時のあーしは全然おばあちゃんの言っている事を信じていたけど。どこか疑ってもいたんだ。お姫様みたいなのに何故誰も友達がいないんだと言う疑問が残っていたからだ。
おばあちゃんはその不安という疑問を分かっていたのだろう。私の頭をまた撫でた
『アオイの魅力は分かりにくいのかもしれないね。でも、いつか、きっとアオイの魅力を分かって一緒に歩いてくる人が現れるよ』
『本当? 嘘ついたら泥棒だよ……おばあちゃん』
『ああ、嘘じゃないよ』
『はりせんぼんもだよ』
『ああ、勿論だよ』
『一緒に歩いてくれる人って王子様みたいな人かな?』
『どうだろうね……そこまでは分からないけど、きっとアオイを大事にしてくれる人は家族以外にも現れるよ』
その言葉をずっと信じていた。いつか、友達とか、王子様とか……
だけど、現れなくて、おばあちゃんも病気で死んでしまって……両親は優しいけど仕事が忙しくて……孤独な時間が多くなった気がした。
でも、それでもおばあちゃんの言葉は信じた。
中学になったら心機一転、色々な話題のニュースとか新聞とか毎日チェックして、何時話しかけられてもいいように準備をばっちりにして学校に行っていた。
でも、皆怖いとかいつも怒ってるとか言うんだ……だから、ちょっとセンチになって……そんな時に一人の女子が話しかけてきて……うっかり油断してたからしどろもどろに話しちゃって……変な空気になって……
浮いた。
ただ、浮いた……
周りは気を遣ってあーしがいつも不機嫌だからそっとしておく。
この時、おばあちゃんの言葉をあーしは疑ってしまった。友達なんて出来ない。王子様なんていない。私は可愛くないし、お姫様みたいでもない。誰も一緒に歩いてくれない。
一人ぼっち
高校に入って周りはきゃぴきゃぴ女子。心の何処かで期待はしたけど、結局なんも変わらない。あーしの眼が悪いのか、行動力の無さが悪いのか、話がうまくできないのが悪いのか。
全部悪いのか。そんな悶々とする考えの日々を送っていた……時だった。
アイツが現れたのは
まさに、台風の目という印象がホットケーキにマーガリンとはちみつがぴったり合うが如くと言う位ドンピシャ。アイツとの出会いはあーしを変えた。いきなり、近所で有名な犬に吠え吠えられているところに緊急事態発生と言う位大急ぎであーしの前に割って入る。たかが、犬にだ。
なにがなんだかが分からない中、目まぐるしい日々が始まった。いきなり、町案内をさせられて、その道中は前後左右を警戒。ただただ変な奴。こんな人は未だかつてあった事が無い。変人……
でも、あーしも変と言う自覚はあったから奇妙な縁を感じた……。不思議と充実していて、久しぶりに心が躍った。誰かと一緒に何かをするってこんなに楽しくてワクワクして全身が高揚するなんて知らなかった。
だけど、それでもあーしは人から避けられると知った。善意が善意で返ってこないことなんて当然だが改めて知ると何処か虚しさが心に残った。自分はやはり避けられる存在なのだと虚無感が支配したのだ。
だけど、そこで彼はあーしを褒めてくれた。あーしは凄いと、カッコいいと、曇りなき眼でジッとただあーしの眼を一点集中。
――ドキッとした……
こんな風に真っすぐ見てくれる人は家族以来だったから緊張したんだろう。その後もアイツのおかげで友達ができた。安い芝居で……
なぜ、こんなに私に尽くすのか関わるのか分からないがアイツとの時間は冷えていた、あーしの心をドンドン暖めてくれた。孤独も消して、虚無感を吹っ飛ばして、この人は……まるで、まるで……何だろう?
ここだけはどうしても答えが出ない。まるで……海から来た優しいアジフライ? まるで……馬に乗っているアジ??
良く分からないが……何かな気がする。
そして、一つ後悔しているのが『あーしのこと口説いてる?』と聞いたことだ。あの時、自分に今までありえな位の自信が付いていた。自身が無いあーしがあんなことを言うことは未来永劫無いと思っていた。だからあんなこと聞いた自分に驚いた。そして……あとになって悶えた。そんなとんでもないセリフをアイツはあーしから引き出したんだ。
自分に自信が無かったけど、アイツと出会って自身が少しついて、何かが変わった。それだけはわかる。けど、何が変わったかは分からない。
何だろう。心にアジの小骨が引っかかったこの感じ……答えは出ないまま。だけど、それでもいい。毎日は楽しいから……
なりたくてボッチになったわけではない。友達が欲しくて色々な事をした。それが報われた今はどうしよもなく充実しているのだから、それでいい。
……それでいいよね?
どうしてだろう。それでいいはずなのに
満足が出来ないのは……
◆◆
この世界『魔装少女~シークレットファイブ~』には、中間パワーアップと言うものが存在する。しかし、これは中盤のかなり後に行われる。具体的に言えば十一月。だが、俺はそれを早めようとしている。
今、訓練室に俺達五人が集まっている。俺がゆっくり取ってきた『中間パワーアップアイテム』を彼女達に取りあえず渡すためだ。俺が取ってきた後、色々整備が必要なのでメルに無理やりずっとやらせていたが、ようやく仕上がったようだ。ずっと、封印されていたから錆びとか汚れとか、色々戦うには不都合がある。
俺達の前には今、五色の武器が並んでいる。純白と漆黒の聖剣が一本ずつ。紅蓮刀が二本、黄色のグローブ、青い短剣。
今も使っている魔装と同じ武器に見えるが、ぱっと見では今使っている武器より劣ると言う感じにも捉えられる。特に凄いオーラも出ていないし、魔力を放ってもいないい。外観だけの張りぼて……と思ったら大間違い。
この武器は魔力を使わない。嘗て、星霊が祈りの塊で生まれたようにこの武器は星霊の力の破片で生まれた。星霊が力を失ってその中で未来に託すために生み出したこの武器は魔力を使わない武器。
大きな覚悟と思念、それが使用者にあればあるほど力が扱える。使用者には適正も必要……それを満たしているのが彼女たちなのである。
中々の条件があるが使用できれば単純な力だけでなく、加護もえられる。という説明をメルが四人にしている。説明と言っても伝説上の仮説を語っているだけだが、様々な異世界の文献から彼女はこの武器の特性を見極めているから仮説がほぼ真実であるという驚くべき彼女の分析力。ただ、一つダメ出しをするなら五つの武器の使用者が心を通わせるとラスボスを倒す最終兵器になると言う説明が抜けていることだが、まぁ、これは知らなくても仕方ないな。
物語のラストで起きる現象だしな。
さて、説明が終わり四人それぞれが武器を手に取る。コハクがメルに剣を見まわしながら聞いた。
「これで、パワーアップするのでしょうか?」
「条件が合えばの話や。取りあえず誰かへの愛を思い浮かべてその剣を振ってみるんや」
「そんな、殿方の前で剣をぶん回すなんてはしたないです」
彼女は俺の方を見てちょっと抵抗をしめす。可愛さをアピールしているんだろう。しかし、彼女の剣を回す姿は沢山見ているので今更だ。
「いや、急にそんな乙女感だされてもな……ワイも困るで」
「コハクさん、俺剣をふるうあなたも好きなので問題なく振ってください」
俺がそういうと彼女はそれならと軽めに剣を振った
「十六夜君がそういうなら……エイ、」
その瞬間、剣からソニックブームが放たれ訓練室の一部を崩壊させた。皆、驚きの視線を彼女に向ける。流石です。コハクさん。
「コハクさん、流石の脳筋っぷり流石です!」
「ええ……褒められて嬉しいのですが……なんか乙女感が……私の積み上げてきた……乙女感が……」
彼女がちょっと、か弱い女子を演じたいようなのでここまでのとんでもない威力だと、色々気にするようだ。
それは一旦置いておいて、本来なら彼女が中間パワーアップアイテムを使えるのは新年を迎える前なのだ。彼女は徐々に周りを仲間として認識して、天使イベントを通して真の絆を彼女達に感じる。だが、今は既に『ストーリー』とはだいぶ違う流れになって、彼女自身も本来より変わっているから直ぐにでもパワーアップができるかもしれないと思ったが本当に出来るとは……
本来な使用には仲間達への愛情を使っていたが……今もそうなのだろうか?
俺が考えていると、火蓮、萌黄、アオイ。それぞれが武器をふるう。火蓮の武器からだけコハクと同等のソニックブーム。火蓮も使えるのか。
彼女は一番最初に中間パワーアップをする魔装少女。彼女は両親が離婚して自分自身が強くなるという信念と慰めた仲間への愛があるからこそ使えるが……これでライオンをボコボコにして俺っええする。
今回は……どうなんだろう?
「二人共凄いやん。どんな、想いを武器に込めたんや?」
メルが彼女達に聞いた。愛が強いほど、この武器は強くなる。ならば今見せた彼女達の攻撃にどんな、そしてどれほどの愛か気になったのだろう。それを聞かれると二人して俺をチラチラ見てきた。
……突然だが俺に鈍くない。彼女達の想いに今回も直ぐに気付いた。しかし、万が一外れていたらキモいどころの話ではないので口を閉じる。
「それは、好きな人への愛って言うか……そんな感じです」
「わ、私は、べつに、特にないけど……それとなく誰かさんを思い浮かべただけよ……」
「あ、もうええで。分かった」
アオイと萌黄の武器からは何も出ず。彼女達はまだ親密度とかいろいろ足りないだけだ。焦る事もないだろう。
「僕は出ないみたい……ごめんね?」
「あーしも……」
「気にしないでください。私がたまたま使えただけでしょうから」
「そうよ、焦る必要はないわ」
コハクと火蓮が二人を慰めている。二人に言われると萌黄とアオイもすぐに心理的に良くなったようで落ち着いた表情を取り戻す。俺もフォローしよう。
「そうですよ。俺なんて男だからそもそも適合以前も問題です。お二人のほうが俺より全然立場が上ですから、不安になったら是非俺をここの中で見下して安心してください!」
「どんな安心のさせ方? 君は……全く」
「ちょっと、言葉選びにセンスを感じる」
萌黄もアオイもちょっとクスリと笑った。どうやら、冗談捉えたようだが俺からしたら本心だ。何故なら別に二人なら心の中で、又は外で見下されてもご褒美になるかも……等と思ってはない。決して。
笑いあう彼女達を見ながら何があっても俺は彼女達を悲しませるようなことはしないと心に決めた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モチベーション、やる気に繋がるので★、レビュー、感想をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます