第68話 妖精のメル
異界アルテミス
現代とは違う文化があり発展してきた世界。そこには嘗ては二つの種族、今は一つの種族が暮らしている。
背中に蝶のような羽があるがそれ以外は大きさも見た目も現代人とあまり変わらない妖精族。
妖精族が暮らすアルテミスはスマホと言った電子機器は無いがそれに代わる特殊な技術、資源が存在する。世界観はファンタジー感があり、モンスターやダンジョンもあり、多少の犯罪はあるが世界は間違いなく平和そのものである。
そして、アルテミスにある一つの王国の城の玉座の間。レッドカーペットが敷かれ他にも豪華な家具が置いてあるまさに王様の部屋。玉座には髭を生やしたそこそこの年より。人間なら六十代ほどの見た目。
その玉座の人物の前に一人の妖精の少女が立っていた。緑の髪に茶色の目。見た目は若々しい二十歳前位の控えめな感じのする美女。
「遂に、魔族が目覚めてしまった……このままではこの世界が危機にさらされる可能性がある」
「……準備は出来ております。メルフィ様……」
「まだこの世界が危機にさらされると完全に決まったわけではない。結界は常時展開されている。だからこそメル、危険と判断したらいつでも帰って来てくれ。現世界最高の妖精であるお前を失う事だけは避けなければならないことだからな……恐らくこの世界に来れないと分かった魔族はもう一つの近しい世界に行くだろう……」
「分かっております。出来る範囲で魔族の殲滅、監視、調査をしていきます」
「うむ、頼む……」
「では、失礼します」
王、メルフィは深刻そうな顔で言葉を捻りだす。そしてメルと呼ばれた妖精の少女は覚悟を決めた趣で玉座の間を後にする。
「ほんま、なんでワイがこんなことをせなあかんねん。というか王に頼まれたら断るとか無理やん。あ~怠いわ……ホンマ怠い……まぁ、母ちゃんにもしとは言え危機が迫るから行くしかないんやけどな……」
メルが先ほどとは違い怠そうな顔をして呟いた。それは誰にも聞かれず空気の中に溶けて行った。
◆◆
「で、出来たわ……」
妖精のメルがとある任務を王様から受ける一日前。
魔族である、ミッシェルが呟いた。ミッシェルの前には黒の戦艦……長さは約二十メートル、縦は二メートル。途轍もない大きさだ。魔王の体から作り出した資源を惜しげもなく使い完成させた。
新魔王とも言えるだろう。
ミッシェルは感動した後、疲れたようにへなへなと腰を突く。
「やるじゃねぇか!!! 中々のデザイン、嫌いじゃないぜ」
「……嫌いじゃない」
ドーンと骨三郎も黒の戦艦を気に入ったようで早速中に入ろうとする。しかし、そこで骨三郎が立ち止まり二人に呼び掛ける。
「……そうだ、名前を付けなければならないな……魔王号・サターン……どうだ?」
「却下ね」
「却下だ……普通に戦艦だけでいいだろう」
「そうね、ただの黒の戦艦でいいわ」
「そうか……」
骨しかないスケルトンの表情に変化が付くなんてあり得ないがどことなく寂しそうだ。
少し、寂しそうな骨三郎、ドーンは黒の戦艦に入って行く。その後を付けるようにミッシェルも中に入る
「おおおおおお!!!! ロマンじゃねぇか!!」
「なかなか……」
「戦争時代とは比べ物にならない程の技術力を持っていた私だけど、資源が無かった。しかし、それを補う魔王様から出来た素材なのだからこうなるのも不思議じゃないわ」
自信満々にミッシェルが告げる。戦艦内は様々な場所がある。操縦をする部屋。トレーニングをする部屋。食事をする部屋。そしてミッシェル専用の研究室。娯楽、訓練様々な事が出来る素晴らしい船内。他にもさまざまな部屋があり特殊な作りで魔法鞄のように中の大きさが外観では想像できない程大きいものになっている。
「取りあえず、出発するから……この下の地盤をぶち破れるといいんだけど……アンタたちは操縦なんてできないだろうから適当に寛いでなさい」
ミッシェルは一人で操縦室に向かう。多々あるボタン、レバー。キーボードの様な物。本来アルテミスにこういった技能はない。彼一人でここまで作り上げた。まさに大天才と言える。
手慣れた感じでボタンを押していき、レバーを引くと戦艦が動き始める。そして戦艦内で感知を始めた。今自分たちのいるこの魔界を……
最初は下の地盤を食い破るつもりだったが……
「この先もずっと地面だけみたいだし……『ゲート』を使うしかないわね……ええっと、この反応はアルテミスね……へぇ、アルテミスの近くにもう一つ世界があるのね……知らなかったわ。まぁ、この世界は追々調べようかしら。情報もないわけだし……」
戦艦内に特殊に作られた
魔王と言う最高素材を使っているという理由もあるが……
『魔導兵器』異次元への転移を可能にする『ゲート』を彼は使おうとする……しかし……
「んん?? アルテミスにワープが出来ないわね……何か阻害するものが何重にも……どうしたもんかしら? …………この阻害……作った奴は中々の天才ね……無理やり破れない事もないけど……単純に魔力が足りないわね……」
魔王と三人が封印されていた場所は全てに拒絶された空間ともいえる場所だった。そこから脱出するというだけでも途轍もない事だが全ては上手くいかない。
そして、ミッシェルはもう一つの世界に目を付ける。
「この世界……なら行けるのよね……どんな感じなのかしら? ここで魔力調達をしてアルテミスに……でもこの世界の情報はない……不確定ね……でも、ずっとこのままって言うのもね……試しに私が作った”怪人”を送り込んで情報を集めさせようかしら……そこの住人が負の感情を出せばそれをそのまま魔力に変えられる『魔導兵器』も作ったわけだしね」
こうして、ミッシェルはとある”怪人”を現代に送り込む。因みにだが怪人も『魔導兵器』に含まれ、魔族でそれを作れるのは過去も今もミッシェルだけだ。
◆◆◆
と言う感じでそろそろ『魔族』の作り出した怪人。そして関西弁『妖精』メルが現代に現れる頃だろう。
そもそも、『魔族』がなぜアルテミスに直接行かないのか。それは『妖精』であるメルが開発した
未来に魔族が復活するのではないかと言う危惧があったのでメルが開発したのだ。使用する魔力は膨大なためアルテミスにある各国で手を結び使用している。使用魔力が膨大だが世界そのものに壁を張り侵入を阻害する。だからこそ世界に入れず『魔族』は現代に攻める以外の選択肢はない。
妖精が発明したものを
『魔法器物』、『魔導兵器』。言葉の意味はほとんど同じだ。
発明したのが妖精か魔族かそれくらいの違いしかない。そして『怪人』も『魔導兵器』に含まれるように『魔装』も『魔法器物』に含まれる。
「良い景色でしょ?」
「まぁ、そうだね」
「私はこんな場所があったなんて知りませんでした」
「中々ね」
四人が並んで景色を眺めながら話している。町が一望できるいい場所なのだがこれからを考えると自然と気持ちが重くなる。
出来るなら彼女達には戦ってほしくない。だが、彼女達でなければ世界は救えない。
モドカシイ。もっとチートが欲しい。転生特典が欲しい。
もし、魔力を得たとしてもそれだけ……それではいつか足手まといになる時が来る……
彼女達の後姿を見ながら俺は思う。俺は彼女達が好きだと。それが一人の女としてなのか、キャラクターとしてなのか。
未だにハッキリとはしない。だけど好きであるとは自信を持って言える。
俺は、俺に出来る範囲で、いや、それ以上に頑張る……
彼女達の完璧なサポートをする……
俺は拳を握る。
やってやる。俺が……
俺が……絶対に……
……例えるならばRPGでラスボスにレベル99でスキルマックス、結構あっさり勝てるくらいに……彼女達を育てる。
「君は見ないの?」
黄川萌黄が少し後ろに下がっていた俺の元にいつの間にかきており思考から解放される。大分考え込んでしまったようだ……時刻は二時五十九分……
あと少しだ。彼女を除いた三人は話しながら景色を眺めている。
「ああ、はい。見ます……」
「お腹でも痛いの? 顔色悪いように見えるけど……」
「いえ、普通です。こういう顔です」
「あ、そ、そう?」
「そうです。心配ご無用です」
「それならいいんだけど…………あのさ、変なこと聞くけど……アオイちゃんとは……やっぱなんでもない。それより君も眺めて。良い景色だから……」
「……はい」
彼女……今……いや、止めておこう。今は『魔族』の事だけを……
彼女に背中を押される。アウトレットモールが見える。
そして、その上から唐突に大きな黒い輪が現れる。中は真っ黒で見えない。そこから八重歯が二つ口から飛び出た吸血鬼の怪人である。
『怪人ドラキューレ』が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます