第64話 警察とアジ
「君のさまざな荷物が落ちてたんだって…」
「猫になってました……」
「そんなウソは……とりあえず全裸徘徊疑惑があるからこれからは気を付けなよ……本当に警察内じゃ死神疑惑あるから」
「はい……」
俺は制服を返してもらった。朝、警察に落とし物が無いかと聞いたところを確保である。そのまま事情を聴かれていた。銀堂コハクパパの服を借りて此処まで来たのだが死神疑惑がますます強くなってるな……
警察署内の一室を借りて制服に着替える。銀堂コハクから借りたこの服は洗って返却しよう。その時、昨日の事を考える。正しく激動の日だった。
銀堂コハクと火原火蓮……あんなに好意を……気にしてしまう。そして、もしかしたら魔力があるかもしれないという事だ。
俺に魔力が……もしあるならどうする?
この質問に俺は簡単に答えることはできる。彼女達の物語の手助けをする……と言った感じだ。この世界を読んでいるとき何度も考えていた。
もし、俺が居たら……と。この世界の『ストーリー』は色んなジャンルで言えばライトな内容。しかし、困難もある。難易度で言えばハードくらいかな?
だったら、そこをイージーに……
そこまで考えて俺は首を振った。憶測で考え過ぎるのも良くない。
制服に着替えると三人が待って居てくれた。
「すいません、お待たせしました」
「気にしてないですよ」
「私も」
「僕も」
余り広がり過ぎないように四人で歩く。何気ない会話をしながら。しかし、火原火蓮はあまり話そうとはしなかった。
「火原先輩どうかしましたか?」
「え? あ、いや、何でもない……」
「火蓮ちゃんは君に色々しつこかったのを気にしてるんだよ。そうだよね?」
「あ、いや、その……うん……」
彼女は下を向いた。僅かに顔に影が差す。
「全然、気にする必要はありません! モーマンタイです!」
「でも、ごめん……」
「だ、大丈夫ですって。せ、先輩とのラノベ話とかは楽しいですから」
「あ、ありがとう」
「っ! い、いえ」
彼女のありがとうで出た笑顔。それに不覚にも取り乱してしまう……
「十六夜君、顔赤くないですか? もしかして熱ですか?」
「大丈夫十六夜? 病院行く?」
銀と赤にグイッと来られる。なんだ、この感じは……思わず一歩下がってしまう。
「いえ、なんでもないです。それより学校に行きましょう」
俺は少し早足になってしまった……ラブコメの波動を感じる……登校の会話はたどたどしいものになってしまった。これは猫になっていた時の彼女の好意を完全に聞いてしまったからだ。三人の羞恥はかなり凄かったために猫の時の記憶はないと言っておいたが実際あるから意識せざるを得ない。
歩いていると様々な生徒達の声が聞こえてくる……
二つ名に『アマゾン』が追加されました
◆◆◆
期末テストが終われば夏休みだ。夏休みは精神強化合宿に参加させられることになったことだけが心残りだ。
「ここはね。こうするの? 十六夜聞いてる?」
「ひゃ、ひゃい」
「どうしたの? あんまり集中できてないみたいだけど」
「す、すいません。気を付けます」
「そう」
顔が近いよ……最近慣れてきたのにここにきて……
放課後の勉強会。火原火蓮に教えてもらっている。銀と黄は現在、小テストの丸つけやら次に教えるポイントを近くで纏めている。
三人共良い人過ぎ……
「また、集中できてないみたいだけど……私じゃ……もしかして嫌かな」
「そ、そんなことないですよ。続けます。勉強!!」
俺が乱されてどうする。折角彼女達が教えてくれるのにここで不甲斐ない点数を取るわけには行かない。
気合を入れなおしカリカリとシャーペンで書いた。
……俺って二度目の高校生活なのに……凡ミスや記憶が抜けてる所が多いんだよな。もう一回頑張らないと……
◆◆◆
そして……テストの日。あ! ここ勉強会でやった所だ!!
と言った感じでかなりすらすら解けた。
そして、結果が張り出される。学年によって張り出される場所は違うのだが火原火蓮と黄川萌黄がわざわざ俺を気にして見に来てくれた。
折角見に来てくれたのに順位は30番代……微妙だな……クソ。
「十六夜頑張ったじゃない。順位が前とは段違いよ」
「アハハ、三人のおかげですよ」
「流石です。十六夜君」
「五十番一気に上げるのは凄いと思うから君も誇っていいと思うよ」
「いえ、三人のおかげですし」
一位が二人。二位が一人。一年と二年の銀と赤の不動の成績トップ。そして優秀も優秀の二年の二位の黄。場違い感が半端ない。
あ、佐々本名前が一番最後にある……やったなアイツ
「なにかお祝いしたいわね」
「喫茶店行きましょう」
「賛成。僕あの喫茶店にある茄子のはさみ揚げ食べてみたかったんだ」
「でしたら俺に奢らせてください。三人にはお世話になりましたから」
「それを言うなら私だって十六夜君にはお世話になりっぱなしです」
「私も」
「僕も」
「でも、今回は俺が奢ります。女性に奢るのはマナーですから」
「まぁ、紳士ですね。流石十六夜君!」
「私は前から知ってたけどね」
「ありがとうね」
三人にはお世話になってるから当然だ。
しかし、周りから『変態紳士』と言う言葉が聞こえてくるのは気のせいだろう。うん。
「まぁ、ある意味紳士だよな」
「なるほど」
「アマゾン」
「アイツモテるな」
「ちくわ大明神」
「誰だ、今の!?」
『アマゾン』とかぼそぼそいうんじゃないよ……生徒達の話し声が色々聞こえてくる。しかし、だいぶ慣れてきたな……人のうわさにも。俺は三人に目線を移す。
あと少し、あと少し、今俺の前に居る三人が……もう少しで……
夏休みがそこまで来ている
◆◆◆
期末テストが終わりなんてことない日常を過ごし気付けば明日から夏休みだ。クラス全員の顔がワクワクした顔を抑えられず今から何処に行こうかどうやって過ごそうか考えているようだ。
「よく聞け、明日から夏休みだ。遊ぶことも大事だが勉学の事も忘れないように……」
六道先生が夏休みの注意事項を話している。精神強化合宿は男子は全員参加するようだ。まぁ、そこに関しては『ストーリー』にも載っていたし知っていたけどな……夏休みに入ってすぐに精神強化合宿は行われる。七月二十七日だな。
そして、『八月十六日』……世界は動き出す……
その前に夏祭りがある。『ストーリー』ではかなりあっさり目で飛ばされたがこの町の
それには行っておきたいな。八月九日、十日二日間行われる。
「では、規則正しい夏休みを過ごすように。解散」
「「「いええええいいい!!!」」」
生徒達が騒ぎ出す。今学期最後のホームルームだからテンション上がっているようだ。
俺も多少は上がっているがな……ああ、精神強化合宿は行きたくねぇ
◆◆◆
私の名前は野口夏子。しがない高校生である。
私は前の席に居る銀堂さんの恋愛事情のお手伝いをしているのだが最近黒田君に大分意識の様子が見えている。しかし、この事実は私はまだ伝えていない。彼女は彼との距離感を測りかねていたようでそのことを気にしているようだからだ。
だからこそこのことだけは言わない方が良いというのが私の結論だ。
六道先生の話を聞きながら私はこれからの事を考える。夏休みと言えばイベントは目白押し、しかしここで私が下手に色々いってしまって彼女が自分のペースを乱してしまうのは良くないだろう。
最近は前ほど積極的ではないがアピールは少しづつ行っている。それが一番だったのではないかと思う位の和がある。しかし、うかうかしてたら不味いという焦りも彼女の中であるようだ。
二年の火原火蓮先輩と言う存在。まぁこの人も最近落ち着いているからこそドダバタ感は無くなっている。しかし、火花は散っている。
二人と一緒に居る黄川萌黄先輩……は微妙な立ち位置だなぁ。テレビに映ってた青い人も友達以上位の感じだったし……
”何かとんでもない事”
が起こらない限り二人のトップ感は崩れる感じはしない。
あ、でも……銀堂さんも火原先輩もまだ何かありそうなんだよな……彼女自身たちも一筋縄ではいかない『最大の欠点』を抱えてそう……勘だけど……
まぁ、夏休みなんだから”色々な事”が起こるんだろうなぁ……
銀堂さんと黒田君で夏祭りにでも行って欲しいな……
◆◆◆
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