第51話 モブを目指すアジ

 俺はこの町の役場に到着した。走ったので汗をかなりかいている。中に入るとクーラーが大分効いていたので涼しい……と言うか肌寒いくらいかもしれない。

 まぁ、汗をかいていたからこれくらいがちょうどいいのだがな。

あのおばあさんから役場の場所は聞いていたため助かった。


「あの、町長さんっていますか?」

「えっと、どのような御用ですか?」

「町の伝承について聞きたくて」

「ああー、確かに詳しいですねー。少々お待ちください」


中年くらいの男性職員は奥の部屋に入って行った。数分待つと戻ってきた


「一応、許可は貰いました。ただ町長はかなり気難しいお方なので……そこら辺はご容赦ください」

「はい」


部屋に案内されると歴代の町長の写真が飾ってあった。そして豪華そうな机やソファー。そこに座る気難しさ全開のおじさん……


「お前が町の伝承に着いて聞きたいという若者か? しかし、この町の伝承をそう簡単に余所者に……」

「伝承と言うより”夢喰い”にあった時の対処法が聞きたいのです。あ、これ饅頭です」

「ふん、こんなもので釣ろうとは片腹痛い」


と言いつつ饅頭を自身の隣に置いた。


「さて、”夢喰い”についてだが……」


話が早くて助かる。小言とか言われるとこちらとしてもあまり好ましくない。


「五百年以上前の存在でありこの町に信じている者はいない。例外はいるがな……この妖怪は象の姿をしており人の中に潜り人の精神に大きな負荷をかける」

「対処法はなんですか?」

「陰陽術で封印が無難だな」

「使えません。他には」

「うむ、これはかなり難しい方法であるが……」

「気にせずどうぞ」

「うむ、”夢喰い”は人の精神を汚染する。だが自身の夢を自由自在に操作出来れば退治することが出来るかもしれん……」

「夢ですか……」

「夢の中の経験は現実には百パーセント反映はしない。しかし、悪夢を何回も味わえばそれは精神に大きな影響を与える。嘗ての死者たちも植物人間のようになってしまった」

「確かに夢も多少現実に影響はありますね……」


前に銀堂コハクに刺された夢を見た時も起きた時思わずお腹をさすってしまった。と言うかやっぱり対策にはあのおばあさんの言っていた通り夢しかないのか……


「だが、それは妖怪でも同じこと。限りなく現実に近い夢が人間の精神に大きな影響を与えるなら妖怪の精神にも影響があってもおかしくない」

「な、なるほど?」

「私が知るのはここまでだ」

「どうしたら夢を操れますか?」

「それは……私にはうまく説明できないな」

「……それでもいいです」

「……強烈で明確で鮮明なイメージが必要だ」

「?」

「私より詳しく説明できるものが居る。ここからは、この町に居る陰陽師に聞くと良い」

「ええ!? いるんですか!?」


おい、だったらそいつに封印してもらえば全部解決じゃないか!! まぁ、まだ妖怪がバッドエンドに絡んでると決まったわけではないが陰陽師が居れば百人力だ


「しかし、その陰陽師は大分気難しい」

「そうですか……」


気難しい人多くないかこの町。


「私から連絡を入れておこう。そして手土産にはサバの味噌煮を持っていくと話がしやすいだろう」

「はい、ありがとうございます」

「今時、こんな昔の伝承を聞きに来るとは珍しい。この町の住人ですら興味など微塵も持たないのだが……」

「もの好きなんですよ。それでは失礼します。ありがとうございました」

「後これを持っていくといい」

「これは?」

「悪しき者が近づいたときに反応する宝玉だ」

「は、はぁー。これが?」

「そうだ。持って行け。伝承といったものに関わるときは注意した方が良いからな」

「ありがとうございます」



見た感じただのビー玉と言った感じだ。しかし、貰えるものは貰っておこう。この人良い人だなぁ。


 俺はその後、陰陽師の末裔の住所を教えてもらい一旦女子高の監視に戻る。既に時刻は三時だ。

 彼女の元に戻らないと……陰陽師は明日の午前中に行こう。今日は監視と関係性を何とかして持つようにしよう。役場の外に出ると……


「おや、町長から話が聞けたようだね」

「あ、どうも」

「ほほほ、次は陰陽師かい?」

「ええ、行くなら明日になりますが」

「ほほほ、頑張りなさい」


おばあさんはそのまま歩いて行ってしまった。


この時、慌てていた俺は気付かなかった。何故彼女は俺が陰陽師に会いに行くことを知っていたのかと言う事に。



◆◆◆



時刻は二時五十分。僅かに息を乱しながらも車の中で監視を始める。


「何か変化はありましたか?」

「ないの。いたって平和じゃ」

「そうですか……」

「お主は何か掴んだのか?」

「少し気になることがありました」

「ほぉ、それは?」

「夢喰いと言う妖怪が居るそうです。それが何か関係あるのかまでは分かりませんが」

「妖怪か……我も見たことはないが居ないという確証もない……か……」

「占い師が存在するんですから妖怪も居ても不思議ではないです」


というかこの世界には妖怪とかが存在する。『ストーリー』にはあんまり出てはこなかったが……


「しかし、かと言って妖怪が関わると言ったわけではないともいえるの」

「ええ、だからこそ今回は何としても守護霊ポジにつかないと」

「?? まぁ、ほどほどにの」

「ええ」


数分待つと女子高生たちが続々と校内から出て帰宅していく。そこに一人ぽつんと歩く片海アオイ……


彼女は控えめに言ってボッチだ。


そして、見た目は結構強めな感じだが内心はかなり可愛めである。例えば好きな物はシンデレラ、ぬいぐるみ、スイーツ。趣味は散歩、ランニング、運動だったり料理。

意外と友達が欲しいと思っていたり、相手に強く当たってしまうことを気にしていたり、オッドアイの事を気にしていたりする。


お化けが苦手だったり、一人は寂しいと思っていたりと意外と黄川萌黄と似ている個所があるように見えるが彼女は感情を表現するのがとんでもなく苦手だ。


そんな彼女をこれから尾行しなくてはならない。しかし、車に乗りながらでは守護霊ポジにつけないので俺一人で行かなくてはならない。


「それじゃあ、一旦俺は歩いて尾行するので何かあったら迎えお願いします」

「うむ」


俺は車から出て片海アオイの後をつけた……


◆◆◆


 彼女は一人で帰り道を歩く。今このポジションよりは守護霊ポジに行きたい。

どうやって話しかけようか……どうやって仲良くなろうか……


 そんな事を考えていると彼女の前に一匹の野良犬が現れる。ワンワンと吠えてグルルルルと威圧する。彼女は僅かに驚き一歩下がる。ここで俺にあるビジョンが見えてしまった。


噛まれる→感染症にかかる→死亡→バッドエンド

僅か一秒で俺は先を見通した。ここはあの犬を撃退しないといけない!!


「危ない!!」

「きゃ!」


彼女の前に慌てて立つ。野良犬と向かい合う。


「くっ、大丈夫ですか!!」

「え? あ、え?」

「急いで逃げてください!!」

「……いや、ただの犬なんだけど……」

「細菌を持っている犬かもしれません」

「変わってんね。アンタ……この犬この辺りじゃ結構有名な犬だから大丈夫。吠えて人ビビらせるけど何もしてこないから」

「どうですかね。今日に限って噛みついてくるかもしれません」

「このままアンタが威圧をやり続けたら噛みつくかもね。とりあえずその犬は大丈夫だから。あーしも昔から知ってるし、そもそもこの犬、飼い主居るからケアとかはばっちりだよ」

「ガチですか?」

「がち」


何だよ。ビビらせやがってただの犬かよ。こいつはバッドエンドに関係なさそうだな。そもそも犬にかまれてから始まるバッドエンドって……無さそうだな

どの話にも共通するがやっぱり過度な演出があったりする。犬にかまれるって言って見れば地味だよな。ふぅー取りあえず何てことなくて良かった。


さて、ここで彼女との石清水の流れのように違和感がない……まぁ、多少はあるが

ファーストコンタクトが出来たわけだから何かしらの繋がりを持ちたい。


彼女は友達を欲しているから友達的な感じで……近づこう……言い方悪いな。親しくなろう。うん。


考えていると犬は去って行った。


「あの犬知らないって事はアンタこの辺の者じゃないでしょ」

「ええ、まぁ……」


物凄く睨まれているような感じがするがそんなことはない。彼女は目つきが悪い事、オッドアイ、強い言動をしてしまうのが彼女のコンプレックスなのだ。恐らく心の中では気を遣っている。落ち着いた雰囲気で彼女は会話を続けた。


「何でここに来たの?」

「観光です」

「ふーん、一応礼は言っておいたげる。サンキュー」

「いえ、勘違いなので……お礼を言われるほどでは……」

「だとしても庇おうとしたわけだし」

「そうですか。ではどういたしまして」

「…………」


彼女は鋭い目を向けた。片方が隠れており両方は見えないが彼女は少し興味深そうにこちらを見ている。


「えっと何か?」

「アンタ、ビビんないの?」

「何にですか?」

「いや、あーしの目とか……」

「ビビらないです」

「そ……」


ああ、そういう事か。彼女は中学校の頃にこの辺りに引っ越してきた。前の学校でも今の女子高でも目つきが悪いことで驚かれたり周りが自分を遠ざけるから俺の反応は新鮮なのか。


『ストーリー』でも最初は皆ノ色高校の生徒達に驚かれるが、銀堂コハクや火原火蓮、黄川萌黄。『魔装少女』はそんなこと全くなく受け入れていくんだよな。そこから友情が生まれる。

彼女にとって自分を遠ざけないのはとんでもなく嬉しいんだろう。

 全く、こんな可愛い子を遠ざけるとは見る目がない。目つきが悪いくらい大した問題じゃない。そこが良いとすら思う。オッドアイもチャーミングだ。こんな彼女が酷い目に遭うなんて絶対に避けなくてはならない。どうやったら彼女と共に……


はっ!! 良いこと思いついたぞ。観光案内してもらおう。情報収集しつつ彼女を守れる。彼女は趣味だから結構歩いたり、走ったりするのが習慣になっている。放課後を運動に費やすのは『ストーリー』でもあった。

一人で出歩かれるより観光案内と称して一緒に居た方が良い。彼女の習慣は幼い時からずっと続いている。両親は共働きで居ない。そして、放課後はすることもない彼女は趣味にひたすら費やした。それにより趣味がかなり磨かれた。


『魔装少女』全員運動神経は良いのだが彼女のランニングに着いて行けたのは黄川萌黄のみ。銀堂コハクと火原火蓮はついて行けずに横腹を抑えてダウン。彼女の運動神経はかなりのものだ。今日も放課後は運動をするはずだ。派手に町中を動き回るのは抑えて貰おう。


「あの、俺この町の事全然知らないので宜しければ案内してもらえませんか?」

「え? マジ?」

「あっ、ナンパじゃないですよ?」

「いや、そこは疑ってないけど……初対面なのにかなりグイグイ寄ってくるなって」

「人の縁を大事にするのが信条なので初対面とか俺には関係ないんですよ」

「…………ふーん、初対面でも関係ないね……人の縁を大事にすると……」

「はい」

「あーしに頼むなんてね……物好きもいるもんだ……」


片海アオイは自分をかなり卑下するときがある。自分に友達は出来ないとか、避けられるのは自分が悪いとか。俺は彼女が好きな所は沢山ある、だがこういう時の彼女は嫌いだ。


「あんまり自分を卑下しないでください。貴方は魅力的ですよ。かなり!! かなり!!」

「……」

「あっ、ナンパじゃないですよ?」

「いや、そこは疑ってない……まぁ、いいよ。案内してあげる」

「お願いします」

「一回家帰って荷物置いてからでいい感じ?」

「良い感じです」

「そ……じゃ一旦あーし家に帰るからここら辺で待ってて」

「いえ、ついて行きます」

「マジ? バリグイグイ来るじゃん……」

「あっ、ナンパじゃ」

「それはもういい。……うーん……まぁ、いいか。それじゃ面白いものないけどついてきたら?」

「そうします」


 彼女はゆっくり歩きだした。俺は彼女について行く。これで彼女のそばに居ることが出来る。大分展開的には変だろうな。

 違和感を持たれるかもしれないが今更だな。今までも大分強引だったわけだし。気にする事じゃない。しかし、これで彼女の現住所が分かることになる。

 よっしゃ、自宅把握したぜ!! ……俺変態みたいだな……いや、大丈夫だ。今回で最後。彼女達を救うまでは泥をかぶると決めたんだ!!


片海アオイを救ったら真っ当な人間に成るぞ!! ストーカーもしない。無理にキスを迫ったりしない平凡で真面目でただの傍観者。ただのモブ。


彼女達を救ったら普通になると俺は誓った。




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