第50話 伝承を知る2
十二時まで女子高の前で待機していたが特に変化はなく手掛かりも掴むことが出来なかった。こうなったら町長とか言う人の元に行くしかないな……
そこへ車が止まった。占い師が帰ってきたようだ。俺はドアを開け用件だけを話す。
「すいません。ここしっかり監視しといてください」
「い、いきなりじゃな……」
「と言うわけでお願いします。もしなんかあれば連絡お願いします」
「う、うむ。テンポが速すぎぬか?」
よし、取りあえず図書館にでも行って文献を見てみよう。その後、町長の所に行くか。
◆◆◆
「ううっ、返って来ません……」
「まぁ、まだお昼だから……」
「で、でも遅くないですか? 三時間以上返事が来ないんですよ」
「そ、そう言うときもあるよ。多分スマホの充電が無いのかもしれないよ。それとも水の中に落として壊れたりしたのかもよ」
「そうですよね! 何かわけがあるんですよね!!」
「うん、そうだと思うよ。あ、ごめん私そろそろ委員会に行かないといけないから」
「私に付き合ってくれてありがとうございます。頑張ってください」
「うん。またね」
今日は夏子さんは委員会の集まりがあってお昼休みをそれに費やすようだ。今日私は誰と昼食を食べよう? 十六夜君も夏子さんも居ない……
私がお昼休みをどう過ごすかを考えていると教室の扉が開く。
「あっ、やっぱり十六夜居ないんだ……」
「だから火蓮ちゃん言ったじゃん、今日は海に行ってるから居ないって」
私が今一番嫌いな人ランキング第一位の火蓮先輩と萌黄先輩だ。十六夜君を探しに二人とも来たんだろうけど……ちょっと待って、海って何だろう?
「あの、萌黄先輩海ってどういうことですか?」
「え? ああ、何か彼は海にいるみたいだよ」
「それをどうして萌黄先輩が知ってるんですか?」
「ひぃ、ちょ、ちょっと怖くない?」
「そんなことないですよ? それよりキリキリ吐いてください」
「いや、ただ電話で聞いただけで……」
「何故? 電話番号を?」
「そうよ、萌黄キリキリ吐いて」
「ひぃ、二人してぇぇ!!」
「ここでは話しづらいですか? でしたら屋上に行きましょう」
「そうね、行くわよ」
「ちょ、なんでこういう時に限って協力するのさ!!」
私と火蓮先輩で彼女の腕をロックして屋上に連行した。彼女の事はあまり好ましくはないがこういう時だけは何故か物凄く共感できる。
◆◆◆
何故か僕は二人に屋上に連れていかれた。この二人はいつもバチバチやり合っているのに偶に物凄くかみ合う時がある。僕もそれに救われたから変に言う事は出来ないんだけど……
「それで何故十六夜君の連絡先を?」
「そうよ、吐きなさい」
二人は静かに尋問を開始した。屋上で美女二人に挟まれるというのは凄く僕的には嬉しいのだが……嬉しいはずなのだが……恐怖しか湧いてこない。空は爽やかな青のはずなのに黒い雲に覆われている錯覚を見てしまう。
「あの、彼から渡してきて……」
「え? 十六夜君から?」
「どういうこと? いつの間にたぶらかしたの?」
「チ、違うよ。そ、その僕に気を遣ったんだと思う……困りごとがあったから彼が仕方なく僕に連絡先を言ったんだと思う……」
「本当ですかぁ?」
「体に聞かないといけないわね」
「ええ!?」
彼女達はいきなり僕を押し倒して馬乗りになった。そして、両腕をロック
「ちょ、ちょっと急すぎない!?」
「脇くすぐりの刑に処します」
「ええ!? なんで!? 本当の事言ったのに!?」
「私より先に連絡先を貰っていたのが気に喰わないです」
「完全に八つ当たり!?」
「私は萌黄が嘘を言っている可能性を示唆して仕方なく脇をくすぐるわ」
「ええ!? 嘘なんてついてないよ!?」
「口では何とでもいえるんですよ」
「そうよ、そうよ」
二人は捕食者のように指を脇に近づける。嬉しいような怖いような……
「それでは取りあえず十分耐久でいきますよ?」
「早めに本当の事を言う事ね」
二人の影が僕を覆った
『ちょ、アヒ、いいいいい。あはっはは、や、やめて! くすぐったいからぁぁっぁ』
取りあえず十分耐久した……
◆◆◆
「はぁ、はぁ、はぁ、ひ、酷いよ。はぁ、もう、じゅ、十分はやり過ぎ……おかしくなりそうだったよ……」
「すいません。萌黄先輩」
「悪かったわね」
「全然悪く思ってないね……」
二人は一切悪く思ってないようで謝罪をしているが気持ちが乗っていないのは直ぐに分かった。僕は今肩で息をしながら腰を下ろして息を整えている。二人も楽な姿勢で座ってはいるが僕とは違い余裕の表情だ。
「あの、結構ガチできつかったんだからね? 最初はちょっと良い感じかなって思ったけど後半からはマジで変な気分だったんだから」
「申し訳ございません。全く、これっぽっちも気づきませんでした」
「悪かったわね。全然、微塵も気づかなかったわ」
「うそつき!! 絶対気付いてたでしょう!? 途中から二人とも楽しそうだったもんね!? 凄いニヤニヤしてたじゃん!!」
「ええ? そうですかぁ?」
「うーん? 私も分からないわねぇ?」
二人は首をかしげて互いにアイコンタクトしながらとぼける。
「ううっ、二人ともまだお風呂の事根に持ってるの?」
あの時、彼の家に泊った時僕は二人に対して結構物凄い事をした。コハクちゃんを好き勝手にして火蓮ちゃんを拘束した。まだそのことを根に持っているのかと思ったがどうなんだろう?
「全然持ってませんよ」
「私も持ってないわ」
「そ、そう? いや、根に持ってなかったとしてもあれは酷いよ。限度があるよ……」
「ごめんなさい萌黄先輩。揚げパン奢りますから」
「悪かったわね。萌黄の悶える姿が可愛いかったからもっと見たくなっちゃったのよ」
「いや、絶対悪いと思ってないし、絶対根に持ってるでしょ!? ニヤニヤしてるし!?」
この二人絶対根に持ってる。
「まぁ、萌黄先輩が十六夜君をたぶらかしてなくて安心しました」
「そうね、良かったわ」
「それにしても何故十六夜君は海にいるのでしょうか?」
「十六夜の行動は私達には測れないから考えても仕方ない気がするけど……未だに連絡が帰ってこないのよね」
「私もです」
急に二人の雰囲気が重くなった。なんだろう情緒が不安定過ぎる……
「ですが、私の親友の夏子さんが十六夜君は大丈夫と太鼓判を押してくれているので命に別状はなくピンピンしてると思います」
「なんでそんなことわかるの?」
「夏子さんの勘は物凄く当たるんです。百発百中、外れたことは無いんです」
「何それ? 超能力?」
「本人は勘としか言っていませんがどうなんですかね?」
「まぁ、どうでもいいか。命に別条がなくてぴんぴんしてるなら。それより問題は何で私達に返信をしないのかって事よ」
「萌黄先輩だけ事情を知っていたという事は先輩にだけ返信をしたという事です。まぁ、時間が合わなかったということもありえますが……」
「どうなのかしら? 本人に聞きたい所ね……」
「ええ……面と向かって直接……」
「そうね……帰ってきたらまた十六夜の家に集まりましょう?」
「それは良いですね……」
「「フフフフ」」
いやいやいやいや。怖い怖い怖い怖い。何なのこの二人? 可愛くて僕は大好きなんだけど偶に本当に怖い。
で、でもこれって僕が電話したからややこしくなってるのかな……
いや、僕のせいじゃないな、うん。
はぁ、今日はいい天気だな~。僕は青い空を見渡した。澄んで気持ちのいい空のはずなのに遠くに雷雲が見えた気がした。
◆◆◆
現時刻。十二時十二分。図書館には数分前に到着して急いで館内に入った。中は綺麗な内装であるが何処にでもありそうな普通の図書館。本の数は物凄い量がある。ここから目的の本を探すのは大変だが職員の人に聞けば一発だな。
「あのー」
「なんでしょうか?」
本棚に返却された本を戻している女職員に話しかける。彼女は眼鏡を掛けており知的なイメージを感じさせる。
「この町の伝承とか伝説とかの本ってあります? 特に”夢喰い”って言う妖怪? 怪異? その辺は良く分からないのですが……」
「ああー、見たことはありますが……何処だっけな……少々お待ちください」
「はい、わざわざありがとうございます」
職員さんでも詳しく知らないって事はよっぽど古い本なのか? 数分待つと職員さんは一冊の古い本を持ってきてくれた。物凄い年季が入っているな……
「こちらですね。大分傷んでいるので扱いは十分気を付けてください」
「はい、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。仕事ですので」
笑顔で彼女は接客サービス。良く出来てるな。彼女から本を受け取ると座れる場所を探す。館内はあんまり人はいない。時間と言う理由もあるんだろうが居るとしても年配の方だけだ。
さて、早速机の上に広げて本を読む。古い……かすれて読めないところもあるぞ……
ええっと
『嘗てこの土地に妖怪あり。夢を喰らい、人の精神を喰らい、魂を喰らう。数多の人々が身を残して死に至った……滅亡しかけたこの土地を救ったのは一人の陰陽師。封印を施しこの土地を救った。その功績をたたえ後世に伝えるべくこの土地にて催しを毎年行う……』
うむ、うむ。ほほーー、この本……くっっっっっそどうでもいいな。
クソどうでも良い情報しかないな。あのおばあさんから大体聞いたことだし、それに俺は伝承とか興味ない。どうすればこの妖怪に勝てるのかと言う事に興味があるだけで生い立ちとかクソどうでも良い。
どこにも対策が載っていない。クソ無駄足だな!!
はぁー、しょうがない。急いで町長さんの所に行くか。
「おや、やっぱりここに来てたんだね」
「あ、どうも」
先程のサンバイザーを被ったおばあさんだ。腰が全然まがっていない姿勢の良さ。健康の証だな。
「どうだい? 望みの情報はあったかい?」
「いえ、ありませんでした。俺は”夢喰い”の倒し方を知りたいのですがこの本には載っていなかったですね」
「そうかい、だったら町長の所に行くんだね?」
「はい」
「だったら饅頭を持っていきな。あの町長は気難しいが手土産を持っていけば一発さ。いつも老人会じゃ気難しさが目立ってるんだよ。水泳教室の時もみんなして気を遣ってね。だから素早く話を聞きたいなら手土産は必須だよ」
「なるほど、ありがとうございます。それでは……」
「ちょっと待ちな」
「はい?」
色々教えてもらって悪いんだが俺には時間はあまりない。彼女が下校するまでには情報を集めておきたいのだ。急いで町長さんの所に行きたい……
「”夢喰い”の倒し方が知りたいんだったね?」
「ええ、まぁ……」
「絶対とは言えないがね。目には目を歯には歯をと言う言葉がある。もしかしたら夢喰いに対抗するには『夢』かもしれないね」
「?? どういうことですか?」
「ほほほほ、私にも良く分からないね。なんとなくそんな気がするというだけだよ」
「そ、そうですか。すいません。俺急ぐので」
「ああ、すまないね。止めてしまって」
「いえ、謝る必要はないですよ。ありがとうございました。助かります」
俺は急いで館内を走った。そしたらスリッパをはいているため足がもつれて転んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい、先を急ぐので」
先程の職員さんが俺を心配してくれる。クソ、少し血がでてるな。転ぶなんて俺も疲れがたまっているのかもしれない。
「……大分お疲れの様ですね」
「ええ? そうなんですかね?」
「はい、あまり無理をなさらぬように」
「ありがとうございます。失礼します」
忠告を聞かずダッシュでその場を後にする。
「館内は走らないようにお願いします」
「あ、はい」
――俺は早歩きに切り替えた
職員さんにも疲れを見抜かれるなんて本当に疲れてるのかもしれない。顔に出てるか?
まぁ、今回が終われば大丈夫なんだ。頑張ろう
ああ、でも全部終わったら今まで頑張った分、そしてずっと気を張ってた分が一気にきそうだな……
俺は饅頭屋に向かって走った。
◆◆◆
「すいません。饅頭ください!」
「おお、いらっしゃい。見ない顔だな」
元気の良さそうな店主さん。話してる余裕はない
「一体どこか……」
「これください!!」
「ああ、わ、分かった」
「はい、一万で足りますよね!!??」
「え、あ、うん、そうだな……」
「釣りはいらねぇぜ!!」
「おお、毎度あり……」
俺はそこからダッシュで街の役場に向かった。現時刻は一時四十二分。大体学校が終わるのは三時だから急がないと……
図書館で大分時間を使った。急いで町長さんの所に向かわないと……
俺は再び疾風となりこの町を駆け抜ける。目指すは町長さんのいる役場だ。今度こそは確実で実用性のある情報が聞けるといいんだが……
俺は不安を胸に抱えながらも微かな希望を胸に抱いた。
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