第37話 稲妻とアジフライ

 カリカリと黒板にチョークで書いていく音が鳴り響く。徐々にテストが近づいていることもあり全員の集中力が上がっている気がする。皆がテストで頭がいっぱいの中で俺はこれからの事に思考を向ける。


 黄川萌黄に降りかかるバッドエンドは中間テスト中に振りかかる。テストは四日間あるのだが彼女の最悪が始まるのはテスト最終日から。この時点で、既に校内の女子二人が殺害されているため何処も雰囲気があまり良くない。黄川萌黄も気にしていた火原火蓮が死んで心に負担がかかったところから物語は始まる。


 今回は彼女の最も弱い部分である心を傷つける物語。中間テスト最終日が終わった後に、彼女が振った男と父親との再会から始まる。運命の皮肉さを詰め込んでいる『ifストーリー』。今回もかなりのものだ。


 先ずは、嘗ての彼女が中学時代に振った男との再会。中学時代に彼女が告白して、相手がクソだと分かり一週間で別れたクソ中のクソ。


 相手は女と仲間の男を連れていているが、今まで通りでなくとんでもないエグイ目に合うという事ではない。



だが再会して、ヘラヘラしながら仲間達で彼女を馬鹿にする素振りを取るのだ。一週間で振られたと言う噂が中学校内で広まりそれをいじられたことに対する仕返し。直接的に何かをするわけではないが心には大きな負担がかかる。




 その後に、父と再会する。


 彼女のトラウマの中で最も、深いのは父親から受けた虐待の記憶。高校に入るまで様々な困難に見舞われてきたが一番最悪と言えるものがバッドエンドに関わってくる。


 再会したのは本当に偶然。彼女の元父親であるクソは警察に捕まったが今では釈放されており、合う可能性は無いとは言えないが不運にもあってしまう。


 父への恐怖はかなり描写されていた。怖い怖いと何度も心で叫び続け嘗ての母はもういない。今の彼女は一人暮らしで、母親はすでに他界しているため写真と仏壇が家にあり毎日祈っている。

 恐怖でされるがまま。単純な強さなら余裕で勝てるのだが、その強さを発揮できないからこそひどい目に合う。


 


 相手のクソ野郎は、会ってすぐに恐怖が残っていることを確認し、一旦別れるふりをする。彼女は何もない事に安心して帰宅する。その後、人気のないところで暴力を振るわれる。それにより、トラウマがよみがえり言いなりの人形のようになってしまう。


 恐怖で冷静な判断ができない彼女は、相手を部屋に入れてしまう。金を渡し、通帳からもお金をおろすように言われる。少し抵抗するが、結局は言われるがまま。恐怖の象徴である男……。根源である相手に彼女は……自らの部屋、母の仏壇の前で……。


血がつながっているとか最早関係はない。彼女の心は途轍もなく不安定なのだ。怖くて、怖くてたまらない。その日の夜中室内で首を吊って、彼女は終わる。恐怖である相手にそこまでされたら心が崩壊して、頭がおかしくなったのだ。


 クソ父も昔の恨みが残っている。外面だけは一丁前でエリートだったところからの転落、逆恨みもいいとこだがこういうクソがたくさん出てくるのがバッドエンド。この男は元妻への恨みがあるが居ない為、徹底的に娘に仕返ししようとしていたのだ。酷い目に遭わせた後、殺してやろうとすら考えていた。結果的に彼女は自殺して目的が果たせられるその場を離れ警察に捕まる。だが、黄川萌黄は救われない。


だからこそ、適当に煽ってヘイトを俺に向けさせる。元エリートだから、転落してざまぁとか大声で言えば怒りが湧いて俺に来るだろう。そしたら、ぶっ飛ばして警察に連絡してやる。



 一度豚箱にぶち込むことが出来れば、しばらくしてもう一度釈放され、再び相対してもどうにかなるのだ。『魔装』を手に入れさえすれば指一本で殺せるくらいの強さになるから。恐怖心があっても関係ない。『魔装』の力は尋常ではない。


 クソ男を一とするなら、『魔装』が使える彼女は一万。位の差が出る。いくら頑張っても蟻一匹が雷神にかなう事はあり得ない。今回さえ乗り切れば後は安心なのだ。その為、何としても守護霊くらいの位置に居たい。


 最悪の場合はストーカーにでもなろうと思っている。それでもいいのだが最善はやっぱり守護霊の位置だ。何かあった時、一秒でも早く動きたい。万が一の時、肉壁にも成れる。銀堂コハクの二日目の時、本来ならいない場所に不良が居た。俺がバッドエンドその物に関わる事でイレギュラーが起きる可能性がある。だからこそ、守護霊の位置だ。守護霊の位置になるには一つ、気を付けなければならないことがある。

 それは、ある程度の話せたり、接点があった方が良いという事。今までの二人も接点があり、作ろうとしてきた。銀堂コハクはクラスメイト、不良から一緒に逃亡、不機嫌だが多少の会話。火原火蓮なら二次元。いきなり、守護霊の位置と言う選択肢もあったが女の子からしたら、いきなり知らない男が近くにいるのは怖い以外の何者でもない。それは黄川萌黄でも同じこと。いくら強くても男が急に来たら怖いだろう。だから接点が欲しかった。

 こいつ、ウザイなと思われても無害な事だけでもアピールできれば、彼女は不快感だけで恐怖を感じる事は無いだろう。恐怖と不快、両方与えるならせめて片方くらいがいい。本当は両方感じてほしくはないがそこは申し訳ないが俺の限界だ。

 守護霊で今までの二人もそれで上手くいっていたから。今回もそうしようと思ってたのだが……。そこに、あの好感度の低さだ。あの低さなら即、警察一直線だろう。

 黄川萌黄は男嫌いで、守護霊の位置にいけば不快感を隠さないだろう。

そのまま、巴投げやら、一本背負いなどやられてしまうかもしれない。それくらいで済むなら大してことじゃないのだが。

 今の好感度では警察に通報されてしまうかもしれない。四人目の事もある為、それだけは避けたい。

 マジで警察だけはご勘弁だ。多分目も付けられてるし、この町で現時点で一番怪しいのは俺だ。一度通報されたら、四人目の元に行くのが遅くなる。黄川萌黄が終わったら、即、四人目の元に行こうと思っているので通報だけはダメだ。バッドエンドの回避の為なら最悪警察に通報されるのは別に構わないと言う考えが俺にはあるがこのタイミングでは勘弁してほしい。


 彼女からしたら、結局、不快なのには変わらないだろうが、そこに関しては申し訳ない。回避したら、もう関わらないから勘弁してもらおう……と考えていたのだが、それも今の状況では通報以外のエンドしかない。


 彼女は基本的には男には不干渉を貫く。嫌いだけど自分から行動を起こすことは殆どないと考えていい。だからこそ、彼女はあんなにも俺に暴言を吐いたのにはかなり驚きだ。訳があるのだと思うがあそこまで言うとは……。

 原因は何かしらあるはず。それを見つけて何らかの形で片づけないと今後に関わる。


 現在の鼻かんだちり紙では、付きまとったら即通報。アジフライ並みの好感度にしてある程度の接点を持つことが今の目標。


  あの、異常な態度の原因は何かあるのだろうがどうしよう。八方塞がり状態である。仕方ない、推理してみよう。


うーん、どうなんだ? 俺が嫌われるわけ? 視線? 

「ここの問題の……黒田。解いてみろ」



いや、そんな短絡的でいいのか? うーん、しかし、他に思いつかない


「黒田ー。聞いてるか?」


 どうしよう、一向にわからんぞ。うん。……でも、そう言えば彼女以外の生徒の様子も一部おかしかったような……。気のせいと言えばそれまでだ。アジフライ事件、二股疑惑、色んな噂で変な意味での注目はされている。しかし、最近はちょっと、周りの一部の態度が違うような気もする。


「黒田!? 聞いてるのか!?」

「うるっさいわ!!!! こっちは世界のこと考えとるわ!!」


思わず大声をあげてしまい後悔した。周りからの視線がこれでもかと刺さる。


「今は数学だぞ」

「すいません。聞いてませんでした」


この後、めちゃくちゃ謝罪した。


◆◆◆


 試験の最終日まで、二週間くらいの時間がある。しかし、油断は良くないかもしれない。ここら辺で聞いておかないと。何故あそこまで強く当たったのか? それくらいいだろう。聞くだけなら警察に通報されることも、投げ飛ばされることも無いだろう。よし、昼休みを使って聞きに行こう。


 今出来る事はそれくらい。なら、それくらいやらないとな。



★★★



 私の名前は野口夏子。何処にでもいる普通の女子高生だ。そして、現在私の友達である銀堂さんが思い人である黒田君に食事を誘おうをしているのを遠目で眺めている。最初に比べたら大分大胆な行動ができるようになった彼女。


 私とも、最初より大分心から話して貰えてる気がしている。話題の種類も広がり、最近はライトノベルの話なんかも……


『あれ? 銀堂さん、何読んでるの?」

『これはですね。最近読み始めた恋愛系のライトノベル。『ヤンデレ過ぎる彼女はどうですか?』です。』

『あ、それ聞いたことあるかも。結構ヒロインがぶっ飛んでる奴だよね?』


 監禁とか。料理に血を混ぜたりとか。普通ならやらない事をするって、クラスメイトの誰かがが言ってた気がする。


『ぶっ飛んでる? うーん、そうなんでしょうか? 私は全部ではないですが、共感できる部分があったのでそのような印象は抱きませんでした』

『それって、具体的にどこら辺に共感したの?』

『監禁……、いえ、手作りの料理を気になっている人に食べて欲しいという感情ですね』


彼女はこの時、監禁と最初に言ったのを私は聞き逃さなかった。


『今、監禁って言わなかった? え?』

『アハハ。冗談ですよ。流石に共感は出来ませんでした』

『そっか、だよね!! 共感してないよね!! 多分そこは共感してはいけない部分だからよかったよ、本当に』

『はい、一瞬だけ、それもいいな位で留まりました』

『いや、良かった……え?』

『何ですか?』

『一瞬だけ、思ったの?』

『ええ、一瞬だけですが。でも、そんなことをすれば捕まってしまいますよ。今時の警察は凄いからと理性的に考えたらただの空想的な話だと思い、そこからは共感しませんでした。警察に捕まったら思い人とも会えないですし』

『ああ、それなら良かった? 因みにだけど、料理に血を混ぜるとかはどう思った?』

『あれは、全く共感できません。衛生的にダメです。カロリー計算を完璧にして、必ず三十回咬んで食べてもらうようにすべきだと思いました』

『あ、そこは一般視点に近いんだね』



そこからは、ちょっとしたガールズトーク。彼女の思考は偶にとんでもない感じになるときがあるが結局のところ可愛い面が目立つ。でも、一瞬でも監禁と言う行為に共感してしまうのはどうなんだろうと思ったが、それでも可愛い。

彼女がライトノベルを読む理由は、会話を増やしたいという可愛い理由。



食事に誘うのも少しでも、気を引きたいから。そう、今だって



「あの、一緒に食堂に行きませんか?」

「すいません。ちょっと、行かないといけないところが合って。またの機会に……」

「そう、ですか……」



凄い、落胆してる。がっくり肩を落としてる。


あんな態度したら、もう好きって言ってるのと同じだと思うけど。それでも、黒田君が付き合ったりしないのは銀堂さんを特別な関係になる気がないという事だろう。


普通、銀堂さんにあんな態度されたら男子だったら、すぐにでも付き合うともうけど……。黒田君って変わってるな。前から思ってたけど。


「今日は、予定があるみたいです……」

「お疲れ、そう言う日もあるよ」

「はい、でも、予定ってなんでしょう?」

「なんだろうね。こればっかりは考えても仕方ないんじゃないかな?」

「気になりますね……」

「何する気なの?」

「ちょっと、後を着けます」

「いやいやいや、それは流石に……」

「十六夜君も以前はよく私に付いてきてたので、大丈夫ですよ」

「そ、そうかな?」

「絶対そうです。文句なんて言えるはずないです。ちょっと、行ってきます」

「あ、うん」


私も、行こうかな。彼女が暴走とかしたら止めないといけないし。私は席を立ち黒田君を尾行する、銀堂さんの尾行を開始した。





 




 

 


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