第18話 司会を務めるモブ
時刻は六時間目が始まる少し前。五時間目が終わり休み時間として皆の気が緩んでいる。しかし、俺は次の時間司会進行をしなくてはならないので若干の緊張を持っていた。昨日の資料を家で読み込み円滑に進めるようイメトレをしっかりしてきた。
先生手伝ってくれるか? いや、自主性を伸ばしたり生徒同士で問題を解決させたりするために一年Aクラスに全部任せるだろうな。このクラス俺の言う事聞いてくれるかな?
「お前たち席に着け」
先生の号令で皆席に着き授業開始のムードが出来始める。しかし六道先生は前に立たず椅子に座った。今日は俺が教師的な感じか。
「今日は黒田が進行だ。黒田任せるぞ」
「はい」
「それでは、体育祭の説明を開始します」
簡単に説明を始める。合同競技である綱引きの説明からするが、説明するほどでもない。ざっくりいうと皆で力比べする子供でも知ってるルールなのですぐに終わった。
「それでですね。個人競技については男女一人ずつ選出します。借り物競争とパン食い競争、そして二人三脚が個人競技の内容です」
ざわざわし始める。男子が特に反応を示す。佐々本が手をぴんと挙げて疑問を俺に発した。
「先生!!! それはつまり男女で二人三脚するということでしょうか!? 手と体を密着させていいのでしょうか!?」
俺は先生じゃない。欲望に本当に真っすぐでちょっと引かれるかもしれないが、思春期だから気になるのは仕方ないともいえるな。それに俺も二人三脚が男女でできると言われたら、意識しないのは無理だしな。
「俺は先生ではありませんが、佐々本の言い方悪いけどそういうことになります。ただ、嫌な場合は二人三脚だけ不参加ということもできます」
此処に関しては一応処置がないわけじゃない。異性とかなり距離が近すぎるのは嫌だと言う生徒がいる可能性はある中で無理にこれはできないという当たり前の判断。
「っち! そうですか!」
「参加自由か……」
「俺絶対断られるな……」
男子が途端に落胆したな。出ても断られると判断したのだろうな。
「では、個人競技出たい人いますか? いるなら手を挙げて貰えますか?」
誰かやりたい人いるかな。目立ちたくない人とか運動が苦手な人は自分からは立候補しないだろうが、この二つが両方当てはまらない人は意外と少ないから決まるまで時間かかるか。
皆顔を互いに見合わせてどうするか迷っているようだが、ここでいきなり予想もしない人物が手を上げる。
「あの、私がやります」
銀堂コハクが手を挙げた。結構予想外だが文句のある生徒はいないだろう。現に周りも彼女ならいいかと納得している。
そして、美人の彼女は立候補したとすれば二人三脚ができる可能性が生まれるわけであり、可能性が低くてもそれに賭けてみたくなるのが男の性というものである。
「はい!!! 俺もやります!」
「馬鹿! 俺だ!!」
「じゃんけんだ!!」
金親以外皆立候補したな。銀堂コハクはこっちをジッと見ている。スッと目線を逸らす。野口夏子が俺に話しかける。
「黒田君もやったらいいじゃん」
「え? いや俺実行委員だし、当日は忙しいから」
「いや、関係ないでしょ」
「いや、関係あると思うが」
「いや、ないよ」
「皆、黒田君も立候補するって!!」
夏子がじゃんけんをしようとしている男子達に向かって大声で勝手に俺の立候補を告げた。
「ほら、行って」
「あ、はい」
俺は男子たちのじゃんけんの間に入る。そこは何というか空気が重いと言うか煩しく同時にむさ苦しい。
「俺はパーを出す」
「ほう、なら俺はチョキだ」
「僕はグーを出しますよ」
なんか心理戦始まった。お前らそう言うのをよく知らないだろう。
「それじゃあ、じゃんけん……」
俺が掛け声をしてじゃんけんを始める。全員拳に大分力が入っているようだが、じゃんけんあんまりそういうの関係ないだろ。
「「「「「「ぽい」」」」」」
男子全員がまさかのグー、そして俺はパー。俺の一人勝ちと言う結果で男子の選出は終わりを告げた。
「えーと、俺が選出でいいですか?」
「いいよ」
「いいんじゃない?」
「正直無難だし。可もなく不可もなしだし」
最後の人が言った事が結構傷つくんだが……。
「異議はありません♪ じゃんけんなら仕方ないですよ♪」
「そうですか……。ではこれで終わりにして次の説明に移ります」
銀堂コハクは嬉しそうに笑っていた。これは俺と一緒だから嬉しいと言う解釈でいいのか? いや、でも……。ヤバい、最近俺が彼女を意識してる。
今は司会に集中にしよう。これを終わらせなければいけないからな。
「えーと後は競技全部終わった後にフォークダンスもあります。これは自由参加であり踊る相手は自分で見つけてください」
男子が再び盛り上がり、女子が引いた眼で男子を見る。これじゃあペアも出来ないだろうな。と言うかフォークダンスのやり方知ってる? 俺知らないんだが。まぁ、やる気もないが。
熱気が収まらぬまま授業終了の時間が過ぎ、なんとか仕事はこなすことができた。
◆◆◆
授業終了のチャイムが鳴って黒板の前で一息吐きながら背伸びをする。一気に緊張感が解けて、どっと疲れが体に乗った気分だ。教師には死んでも成れんな。肩を落としていると誰かに肩を叩かれる。
「よくやったな。不器用だが一生懸命さは伝わった。フッ、お前は意外と教師に向いてるのかもな」
六道先生は肩を叩くとそのまま教室を出て行く。六道先生マジぱねぇっす!
俺は無言で頭を下げた。
「十六夜君」
今度は銀堂コハクに呼ばれたので頭を上げ顔を合わせる。少し照れながら目を合わせてきた。
「えっと、その……お疲れさまでした」
そのまま彼女は教室から出て行った。ええええ!?思わせぶりだな! おい!!
あ、なんか疲れた。席に戻って一息吐こう。
今日はかなり疲れた。帰りに会った火原火蓮も、人の前に出るのが苦手なので大分疲れがたまっているようだった。お互い疲れているので、すぐに今日は帰宅した。この日は直ぐに睡眠についたのは言うまでもない。
◆◆◆
『魔装少女』とは俺にとってどんな存在だ? ただの物語に出てくるキャラクター? それは違う。じゃあ、どんな感情を持っている? それは……。何で救おうとする? 世界の為と何となく偽善。本当に?
――違うだろ。本当は……。
また変な夢見た。最近こういうのが多いということはラノベのせいだけじゃなく俺の中に引っかかる何かがあるということかもしれないな。
昨日の疲れが良く取れてはいないため少し体がだるい。しかし、そんな体に鞭打ってベッドから起きる。そして、学校の準備をして家を出た。
今日はかなり重要だ。昨日より全然重要性のレベルが違う。合同会議で全部終わらせて、この火原火蓮のバッドエンドは終わらせる。
◆◆◆
一気にその日は放課後を迎えた。実行委員の達で集まって電車に乗り徒歩で一単色高校に向かう。電車に乗っていると、前に席に小さい子供を連れた親子が見えた。
「ママ! ガタンゴトン電車揺れてる!!」
「そうね。でも座って。立つと危ないから座ろうね」
優しく母親は子供を座らせた。その後頭を撫でる。
「今度はパパとも一緒に乗りたい!!」
「今日はお仕事だから行けるなら今度の土曜日かな?」
「やった!」
何とも心和む光景だな。実行委員の方々もにこやかになってる。ただ、彼女だけは違う。
「……」
火原火蓮だけは何か思うところがあるようだが、これに関しては俺にどうにかできることではなく、バッドエンドとは関係ないから、深くは考えなくていいかな……。
……それでいいのか? 本当に?
いや、今は『ifストーリー』のバッドエンドに集中しよう。俺は軽く首を振り、思考を切り替えた。
◆◆◆
電車で最寄り駅に着いた後歩いて一単色高校に向かう。実行委員長の眼鏡先輩を先頭にそこについて行く。
五分くらいで一単色高校に到着した。皆ノ色高校より大きくて綺麗だな。
校門の前では青を基調とした制服を着た女子生徒さんが出迎えてくれる。この人は確か一単色高校の体育祭実行委員長だったかな?
「皆ノ色高校の皆さん、わざわざご足労ありがとうございます。早速ですが、会議する多目的室にご案内いたしますので、挨拶はそちらで」
堅苦しい女の人が俺達を案内してくれる。校内に入り俺達はスリッパに履き替えた。多目的室に着くと、ドアを開け中に入って行く。それにつられて俺達も一言挨拶をして入って行く。堅苦しい女生徒を入れると、俺達と同じ九人がすでに待機していた。
そして、一人の男子教師がにこやかに笑っていた……。
ここまで導てくれた女子生徒は実行委員長らしく、こちらに向き合い挨拶をしながら軽く頭を下げる。
「改めまして、皆ノ色高校の皆さん、わざわざありがとうございます。私は体育祭実行委員長、福本成美です。本日はよろしくお願いします」
彼女に合わせるように、後ろの実行委員と思われる生徒達も頭を下げる。それに答えるように
「皆ノ色高校実行委員長、金子太一です。よろしくお願いします。」
こちらも彼に合わせて頭を下げる。実行委員長同士が軽く握手を交わすと、ここにいる生徒が席に着き合同会議が始まる。
「では、まずは自己紹介から」
「そうですね。本番では協力する立場ですから」
「こちらからで構いませんか?」
「よろしくお願いします」
一単色高校から自己紹介が始まる。拍手を交えながら次々として行く。
あちらの自己紹介が終わりこちらの番になる。こちらも拍手を交えながら挨拶を行っていく。
「二年、火原火蓮です。よろしくお願いします」
そして、俺の番がくる。普通の感じでいいか……。
「一年、黒田十六夜です。よろしくお願いします」
これから合同会議がスタートする。俺は一度深呼吸をした。
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