第2話 入学式で席に座るモブ
今俺達新一年生は、入学式を行っている。並べられたパイプ椅子に座り黙って校長先生の話を聞き流しながら。話が長すぎて誰一人真面目に聞く者はいないのではと錯覚するほどだ。周りには寝ている生徒もチラホラ。隣の佐々本は女子生徒を見てニヤニヤしていた。
彼は物語のラノベでもこういう奇抜な行動が目立っていたのを思い出す。俺も気持ちはわかるのだがな……ガン見する勇気はない。
しばらくして、ようやく校長先生の話が終わった。生徒達がやっと終わったと僅かに嬉しそうだ。校長先生が去るときなんて皆拍手が超適当。
「ようやく終わったよ」
「時計の針一周するかと思った」
「こんなに長いのかよ。入る高校間違えたかも」
コソコソと校長先生の悪口的な事を言っている一年生数人。いきなり初日から嫌われる校長先生が少し可哀想だ。
「続きまして、新入生総代。一年Aクラス銀堂コハク」
「はい」
可愛らしい声が響いた。彼女は呼ばれると立ち上がり、壇上に上がって行く。新入生、在校生共に彼女に見惚れてしまった。それほど美しいのだ、彼女は。
彼女は壇上に上がり、マイクに口を近づけ言葉を話し始めた。
「暖かな春の日差しが……」
彼女の声を聴きながら他の生徒、特に男子は鼻の下を伸ばす。
「何だあの子は?」
「この高校にして正解だった」
「っていうか乳デカくね?」
どうやら校長先生の話のヘイトはこれでチャラになったようだ。ひそひそ声で彼女には聞こえないが身体の事を言うのはどうなのだろう。確かに……大きいが。
「なぁなぁ、コハクちゃん。マジで可愛くね? 乳もデカいし」
隣の佐々本が俺に小声で話してきた。
「確かにそう思うけど、先生に目をつけれられないか?」
「大丈夫だって。皆話してるし」
確かに周りには、そう言う生徒が多い。先生にも一部見惚れてる奴も居る。
――おい、教師としてどうなんだよ! それは?
「何食べんてんだろ。高校一年だろあれで?」
「確かに年齢以上の魅力を感じるな」
「これから、彼女の争奪戦が始まるんだろうな」
そう言えば、物語では彼女は総勢100人に告白されたと記述されていたな。ちょっと、そこまで行くのは無いな。って昔読んでいた時は思ったが実際見ると納得する。
彼女の挨拶が終わる。一礼をしてその場から離れると、拍手がとんでもなく鳴り響いた。感動した演劇を見たくらい拍手が響く。口笛を吹く生徒多数。校長先生が可哀想に思えなくもない。
◆◆◆
銀堂コハクのあいさつで式は大体終わりだったので新入生は会場を退場し教室に戻って行った。
帰りの生徒達の話は彼女の事ばかりで全員が彼女の顔と名前と、スタイルを覚えただろう。
教室に戻り席に着く。
さて、俺のやるべきことを一旦整理しよう。先ずは銀堂コハクの監視、とまでは行かないが注意を払う事。
もし、『ifストーリー』の場合、世界が滅亡、彼女達がエグい目に合うのを避けなければならない。
最初は銀堂コハクが被害にあうので、先ずは彼女と話せるくらいには……なっておきたいが、囲まれすぎだ。
たまたまお忍びで来ていたマスク被った芸能人の正体が分かった位群がってる。男女問わずだ。
「コハクちゃん、連絡先交換しよう」
「いいですね。是非お願いします」
「今彼氏っているの?」
「私は今はいませんね」
言葉遣いも丁寧で愛想もよくお嬢様のような気品を兼ね備えている彼女は、すぐに人気者になる。
このことは知っていた。
既に全員、彼女に好意や好感を抱いているだろう。同時に彼女からの印象も悪くないと思っているだろう。あれだけの笑顔を向けてくれているのだから。だが、実際は彼女は何とも思っていない。
これは、彼女の過去が由来しているのだが、彼女はある出来事で他人と言う存在を一切信用しなくなってしまった。このトラウマと言うか、傷跡は魔装少女として戦う中で仲間との絆を実感していくうちに良くなるのだが現時点では彼女は他人を信用しない。
「熱烈な視線を注いでるな」
「深い意味は無いぞ」
佐々本が余計な事を言ってくるので思考が中断される。
「そうか? 意味深な視線だと思ったけど?」
「お前と一緒にすんな」
もうこいつには遠慮しなくてもいいだろう。こいつも結構失礼な事を言うからな。あまり親しくはないが関係ない。
「急に対応が変わってないか?」
「当たり前だろ。ずけずけ来るお前に気を使うのは馬鹿らしいと思ったんだ」
「確かに、俺に気を使うのは馬鹿らしいかもなって、やかましい! ほぼ初対面で失礼だな。お前」
「そっくりそのまま返してやるよ」
他愛もない会話をしているうちに、担任の六道哲郎が戻ってきてこれからの事を話す。勉強を頑張れ、部活をする者は文武両道を大事に、など。
教師としての素晴らしいアドバイスをしてくれるのだが、俺は聞き流していた。
理由は先ほど中断してしまった、思考の再開の為だ。
まず、コハクが少女たちのなかで最初に酷い目に遭う。手始めに不良に絡まれる。これくらいなら大丈夫なのだが、この不良が何度もコハクに絡む。最初は大丈夫なのだが、その内、仲間達で彼女を無理やりとらえて女性としての屈辱を与えるのだ。写真などで彼女の証拠を残し、屈辱の事を誰かに話せばこの写真をネットにばらすという脅し付きで。
最初この内容をラノベで読んだとき俺は違う本を買ってしまったのかと表紙を確認してしまった。
それくらい衝撃だったのだ。その後も、彼女は屈辱を何度も受け、その後ストーカーに遭いその人物にも屈辱を受けた後、ナイフで刺され殺されてしまうのだ。
刺された理由はストーカーの精神が常軌を逸していたということが描写されていたが、これ『魔装少女』? 全然ファンタジーもクソもないな、と疑いしか残らなかった。
救いもない、絶望しかない最悪のストーリー。
だからこそ、炎上したのだが……。
取りあえずは、遠目で見守って行こう。胸糞悪くて世界滅亡何て嫌すぎる。
「と言うわけだ。これから高校生活を充実した物に出来るように各自、励むように。今日は初日なのでこれで終わりだ。明日からは、もっと長い一日になるぞ。しっかりと心の準備をしておけ。では解散」
六道哲郎の話が終わった。皆も帰る準備を始めているから俺も、準備を始めた。
「じゃあな。十六夜」
「また、明日」
佐々本がすぐに帰って行った。本屋にでも行ったのだろう。
「コハクちゃん。一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。この後用事があって……」
「だったらしょうがないね」
「そういうわけだから、また明日ね」
女子生徒からの誘いを断り彼女は帰って行ってしまった。予定を理由につけたが、確か彼女に予定なんてなかったはずだ。と言うか、ない。彼女は直ぐに教室を出て帰って行く。俺は荷物を纏め彼女を追うように教室を出た。
もし、ここが最悪な世界線だとすると今日が不良に絡まれる日だ。
入学初日に絡まれる、そこからドンドンエスカレートしていく話だった。
もし、普通の『ストーリー』世界線なら何事もなく彼女は、帰宅するだろう。そうであってほしいと願う。
しかし、不良に絡まれた瞬間にこの世界は……最悪な方の世界であることになる。頼む普通であってくれと、願いながら俺は彼女の後を追う。
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