利益相反ダイジェスト

ロックウェル・イワイ

第1話 研究者

 俺は、研究者だ。大学の教授だ。それも医学部の教授だから企業からの研究委託が引く手あまただ。


 途切れることなく製薬会社などから新薬の開発を頼まれる。その度に莫大な資金提供が施される。

 笑いが止まらねえ。

 大学からの研究費など数十万円に過ぎねえ。そんな金じゃあ、まともな研究なんか出来やしねえんだ。

 力のある奴は外部資金を調達し、実績を上げるのがこの世界の掟だ。


 今、ある企業から依頼されているのが、足の臭いを消す薬だ。

 お前たちは何故、足からくさい臭いがするか分かるか?

 雑菌が原因だ。

 皮脂や垢をエサにして分解する時に嫌なにおいを発生させるんだ。

 そいつをいい感じで死滅させ、無臭にする薬の開発だ。

 そんなものもう既にあるんじゃないかって?

 確かに消臭剤や水虫菌の薬なんかはあるぜ。

 ただ、足の常在菌、コリネバクテリウム属の細菌は100種類以上いると言われてるんだ。

 それを足にダメージを与えずに殲滅させるなんて誰にでもできる芸当じゃねえんだ。

 分かるか?

 薬の製造方法の目処は着いている。だが、ひとつ問題がある。

 うちの兄貴が足の消臭剤を作っている株式会社我王がおうの営業部長なんだ。

 そして資金提供してくれているのが、そのライバル会社のライオフなのだ。

 こちらを立てればあちらが立たず。さじ加減が難しい。


 全力で新薬開発に望むと兄貴と兄貴の会社にダメージを与えてしまう。

 かと言って、中途半端なものを作ると俺の権威に関わるし、二度と仕事が来なくなる。


 困ったー。


 ライオフで兄貴を雇ってくれないかなー。


 数週間後、どういう偶然か我王から研究開発の依頼が来た。

 口臭の原因となる歯周病菌を除去する薬の開発だ。

 これまた口臭予防の歯磨き粉に力を入れているライオフが競合会社なのだ。


 困ったー。


 もう、どーしたらいーか、分かんねー。


 



 面倒くっせ!

 もう、俺の知ったこっちゃねえや!

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