第25話 兎の名と今後の扱い

 10階のモンスターの名前はサギウサキ、ドロップアイテムは兎の毛皮、羽毛、鶏肉。

 兎詐欺である。

 しかしこれで鶏出汁が取れるので、料理の幅も少しは増えるだろう、うどんとかの日本料理は特に。


 ウサギは元お仲間がエルネシア達に倒されても変わった様子もなく、近くを無音で浮遊してついてきている。

 将来的には戦うマスコットか?

 心に癒やしを与えるだけのペットは買う余裕ないぞ、食材の量とか種類とか。


 兎はスピードファイターなので、時々エルネシアを抜けてネネまで攻撃を加える。

 約2メートルの木の杖では見てからの迎撃はできずに、両手で構えて障害物にして阻むしかできない。

 武具の選択は本人達が望み、それを内緒で作ったに過ぎない。

 エルネシアもそれとなく助言はしていたんだろうが、慢心していたのかねぇ。


 ウサギに強化(使役)を使ってみる。

 魔力は消費したので成功したんだろうけど、ウサギの見た目は全く変化してない。

 ゲームなら強化だったら○パーセントの能力上昇効果があるんだけど、現実になったなら効果中は光ってるなんてあるわけないのか?


 やはり何戦かに1度はエルネシアが抜かれてネネが蹴られている。

 今のままじゃどこかで詰むから、テコ入れするタイミングが来ている。

 楽な順で言えば1、俺を戦闘に参加させる。魔法を瞬間的に発動できるので、兎に抜かれてもロックウォールで通路の分断が可能だからだ。


 その2、盾を装備する。エルネシアの持つ物と同じサイズでもネネなら軽々扱えるだろうから、木の盾でも持てば突進に対して進路妨害して自分を守る程度なら可能になるだろう。


 その3、杖で戦う技術を磨く。杖の中心付近を持ち突進してくるモンスターを打ち据えられるようにする。杖一本で今後も通用するようになるので盾を持つより疲れ難く、サブウエポンの所持まで視野に入れられる。


 その4、オリジナル魔法を作る。ニブルヘイムとは真逆の、早さと汎用性に富んだ魔法を身に着ける事で、守られるだけじゃない魔法使いになる。


 ただ今日の俺は休日なので、これ以上余分な言動は控えようと思う。

 ただでさえピンクの飛行生物なんてものを使役してるんだから……


 △△▽▽◁▷◁▷


「ネネさんどうしましょう。私としてはここは相性が悪いのではなくまだ早いと思うので、9階までを周回するのが良いと思うんですが」

「そうね、戦闘経験の豊富なエルちゃんの判断だし賛成するわ。上がれば上がるほど出てくる数も多くなるんだし、1人で対応する方法も用意しておかないとダメそうだしね」


 申し訳なさそうに伺うようにしているエルネシアとどこか歯切れの悪いネネ。

 2人共理解しているのだ、9階まで見せてきた連携のように上手くいってないと、どちらも今の自分には足りないものがあるんだと。


 使役になった兎が対象に含まれるか不明だったので10階入口まで戻り2人を階段で下にやる、それから兎を腕に乗せダンジョンワープを使い9階へ移動した。

 兎は腕に乗ったままだったので、ダンジョンワープの1枠を使役は使ってしまうと証明された。


 ダンジョンワープ。

 探索者の能力、ダンジョン内でのみ使用可能。

 使用者に触れている最大8名を過去到達した階の入口までまたはダンジョン入口の外にまで空間転移可能。

 8名を超える場合は発動しない。


 エルネシアに聞いた話しとこれまで使用した感覚から判明した能力だ。

 便利な能力ではあるのだが探索者は派生職業がないので、ダンジョンワープにはまだ隠された性能がなんて事にはならないだろう。

 探索者の類似職業に冒険者がありそうなものだが、なぜかないらしい。

 だからエルネシア達の居た世界では冒険者ギルドではなく、モンスターハンターギルドだったのかと思ったものだ。

 またダンジョンとは共存するパターンが多いそうなので、ダンジョンハンターではない理由はそこにある。

 今このダンジョンが消えてしまったらと思うと、危険を孕んでいても共存するしかないかという結論になるよな。


 2人にはそれぞれに、羊皮紙を結合させて作った地図を持たせているので、兎を持ってダンジョンワープで外に出る。

 羊皮紙に描くインクがないので、熱操作で表面の一部を焼いて線を道と例えた、幼児の発想で書いた迷路になっている。

 入口は塗り潰しボス部屋はバツ印となっている。

 あとは2人がどれだけの速さで現在地を把握するかにかかっているが、これまでも2人だけで迷子になってないのでこれからも大丈夫だろう。

 信頼を知った俺は思考停止して丸投げするんじゃなくて、相手をよく知ってから適材適所に振り分ける事を覚えたんだ。


 日中何度も家と往復するのが時間の無駄なので、ダンジョン近くに家と同じ設備の居岩を設置して休む。

 道具は家に置きっぱなしなので足りないし部屋に敷物も敷いてないけど、ゴザもどきを出してゴロゴロするくらいはできる。

 2人のリュックが一杯になって戻ってくる前に、こいつの名前でも考えておこうかね。


 △△▽▽◁▷◁▷


 ゲームや漫画のウサギ系のキャラクターやモンスターを思い出していると、ふと赤兎馬を思い出した。

 三国志に出てくる名馬の名前なのだが、そこから取った場合こいつの名前は桃兎と書いてモモトとかトウトになるトウトバ…ック?

 ウサギ革の鞄が浮かんだのでキャンセル、別の候補を考えよう。

 モンスターだから無性別で雄雌どちらの名前でも良いだろうし、兎からかけ離れた名前でも日本人でもなければ気付くまいて。


 月と人参繋がりで馬しか出て来ないんだが?

 自分のイメージの貧困差に嘆くしかない。

 だったら逆に競走馬、競馬っぽい名前はどうだろうか、なんとかブラックとかディープなんとかとか考えたが普段使いには長過ぎるかと断念。

 ピンク、ピンク……桃以外にも桜もピンクのイメージか。

 桜、桜か。

 桜の歌とかキャラクターなら結構あるし居るよな。

 オウ読みだと格好いいイメージがあるから、この見た目だと似合わんな。

 桜と桃でオウトウ? 黄色い桃じゃないけど同じイントネーションで。

 そこからさっきの赤兎馬と掛けてオト、アクセントはオに付けてトこれで良いんじゃないだろうか。

 もうゴールしても良いよね?


「おーい」


 屋内を歩き飛び回り臭いを嗅いでいる兎改めオトを呼ぶ。

 ダンジョンでのモンスターの時は人間絶対殺す生物だったのに、今じゃどうみても生物の兎だよ、空飛ぶけど。

 寄って来た兎の体をポンポンしながらオトオトと、お前の名前だぞと気持ちを込めて呼んでいく。


 それからしばらく、呼んでポンポンと撫ででフリーにすると繰り返してオトに自分の名前を覚えさせていた。


 こんなに和やかな時間が過ごせるなら、オトは戦わせずにペットでもいいかもしんない。




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