第24話 ダンジョン初逃走
9階のモンスターは突き上げる角が雄々しい、何の変哲もない灰色の
モンスターとの戦闘になったので2度のバックステップでエルネシアよりも下がると、彼女は通路の真ん中に出て盾を前に腰を低く構えた。
休日で索敵だけが役目の俺はネネより後ろに下がり観戦の構え。
ネネはエルネシアから直線上の後方にて趨勢を見極め最適な魔法を選択できるように集中していた。
索敵だけでなく時々目視でも後方を確認しながら2人とモンスターの戦闘を見て接近戦と連携について学んでいく。
純粋なパワーだけなら俺の方があるのに、エルネシアと同じ壁役ができるイメージが湧いてこない。
確かにアクションRPGでも彼女と似たような動きはしていたが、地球人としてのイメージが数百キロや1トンを超える重量のモンスターの突進なんて受けられるわけがない、受けたら良くて重体、悪けりゃ即死と連想してしまう。
魔法なら異世界の常識を楽々壊してあっさりオリジナル魔法を作ったんだから、物理でも同じ事ができて当然なのだが……
たかが15年でも自分にとっては地球で生きてきた100パーセント。
今となっては99パーセントくらいだが、それだけ常識だと植え付け続けてきたんだから、理性で常識を覆すのは簡単な事じゃなかった。ていうか、現在進行形で簡単じゃない。
そのうちぶっつけ本番で前衛するしかなくなるか、もっと弱そうな見た目のモンスター相手に練習するしかないか。
そんな風に思ってるうちに犀のモンスター相手に単独で勝利したエルネシアが手を振って呼んでいる。
声を出さないのは音でモンスターを呼び寄せないためて、戦闘中も極力叫ばない。
連携したり魔法を使うなら聞き逃さないように大きく声に出すが、戦闘以外で無駄におしゃべりしたり大きな音を出すのは素人と考えなしのバカだけ。
例外は知識の共有、メンバーの
ダンジョンだと出てくるモンスター次第で変動するので、リーダーや斥候はその見極めもできなくてはならない。
と、エルネシア先生の教えである。
「いや〜今日もエルネシア先生は、変わらず見事な立ち回りですな〜」
「なんですか、その胡散臭い商人みたいな話し方は、似合いませんよ」
「でも急にされると面白いわよね」
「ですね、笑いそうになりましたから」
犀は耳が抜群に良いわけじゃないし、歩く時に石の床に蹄が当たり削れるような短く低い音が聞こえる。
なので見通しの良い場所でなら多少の会話は問題ないのだ。
その後も2人は単身だったり連携したりしながら無傷でモンスターを倒し続けていった。
1度エルネシアが敵意集中で2体同時に相手取ったが完勝。
ただ余分に時間がかかったので次からはしなくなった。
どうやら俺に立ち回りと彼女の技術の両方を見せて実力を計り違えないようにさせるのが目的だったらしい。
いやもう間違えないからな、ドラゴンみたいな天災でもない限り全部任せるから。
そんなこんなで9階はあっさりとボス部屋が見つかったのでサクサク倒して10階へと登りました。
犀のドロップアイテムは各種芋だったので、ここも食料用に周回ルートに入りましたとさ。
△△▽▽◁▷◁▷
10階のモンスターは耳を羽ばたかせて宙を舞うピンクのプリチーな兎だった。
「はっ!?」
散々魔法を使っている身ですが一言だけ言いたい、物理法則はどうしたと。
明らかに羽ばたきの回数も少なく、耳の動きが一般人目で追えるほど遅いのに浮遊中。
そして耳が良いのだろう、俺のつぶやきを聞いて俺達を発見すると、ピッチングマシンの150キロ以上のスピードで壁を蹴って跳躍してきた。
「耳はどうしたんだよぉぉぉ!!」
ツッコミに反応して兎がこちらに向かって跳んでくる。
チャンスとばかりに倉庫に収納してあった盾を装着して受け止めてみる。
攻撃の直前、兎は体をクルリと回転させるとサマーソルトキックを放ち、盾ごと左腕を跳ね上げ……ようとしてパワー負けして腕を持ち上げられなかった。
さらにはボギッと鈍い音をさせて後ろ足を骨折し、それでも痛みを堪えて必死に俺の足へと噛み付いてきた。
モンスターなのに靴すら破れないその姿に俺は……
「あーもー、2人共悪い、今回だけ見逃してくれ」
2人の答えも聞かずに兎の耳を掴むと、大回復と状態回復を使って来た道の遠くに投げた。
「お前と他のモンスターの見分けはつかねぇ、だから次に敵対してきた時は遠慮なく殺す」
2人の手首を掴むと闇雲に走り回り、目につく全ての兎を魔法で倒し尽くしていった。
時々2人を回復しながら走り続け心が落ち着いてきたので停止する。
「俺って奴は、俺って奴は」
「シバさん、とっても可愛かったですよ、シバさんが」
「お姉さん、キュンキュンしちゃった」
「止めてくれー、穴があったら入りたいー!」
耳を塞いで
「でもさっきの兎、敵意ゼロでスタスタ走って追いかけて来てますよ」
「えっ?」
「ほら、シバ君の直ぐ後ろまで来てるわよ」
「うぇぇぇっ!?」
兎がつぶらな瞳で見つめてくる、これってもしかして。
「なあ、モンスターテイマーとか魔物使いって存在する?」
「しますよ」
「ええ、居るわ」
「ならお前、俺の仲間になるか?」
コクン。
兎には声帯がないので鳴けない。
精々空気が漏れる音がキューキュー聞こえるくらいだ。
耳で空飛ぶ輩が鳴き声一つ出せないなんてなんて
魔物使い
鑑定(モンスター)
使役(モンスター)
強化(使役)
そして当然のように手に入る新職業。
定番ならこの後に名付けなのだが、まだダンジョンの中なので帰路か家に帰ってからにしよう。
こうして、食料が十分と言い難い我が家にペットがやって来たのである。
それにしてもこいつ、何食うんだろ。
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