第6話 肉食系男女

「これ、そのまま盾に使えんじゃね?」


 狼犬っぽい野犬が1匹飛びかかって来たのでロックシールドを試してみたら、打ち所が悪かったのか首の骨を折って死んでしまった。

 魔法の維持効果が切れて落下したロックシールドを持ち上げて観察していたら、野犬だと思っていた死体が薄くなって消滅していった。

 どうやらアレはモンスターだったらしい。


「ドロップアイテムはなしですね。ロックシールドを常用盾にするのはあまりお勧めできませんよ?」

「そうなの?」


「はい。魔法使いが居れば簡単に出せますし、石なので重いですから運搬にも向きません。ロックシールドは重い飛び道具をふせぐのに使われて、防いだ後は消えるか敵に投げられる運命です」

「なるほどねー」


 質量兵器だっけ? そんなのを受け止めたら投擲武器になると。

 つまり頑丈で重い。


「これは加工するっきゃないでしょ!!」

「私の話し聞いてました!?」


「もちろん聞いてたよ、だから思いついたんじゃないか。重くて頑丈なんだから、ハンマー系武器として武器職人で加工すれば、もしかしたらオーガの膝だって一撃で砕けるかもしれない」


「いいですねぇ、でしたら穂先だけ石にした槍も作りましょう、顔を狙えますよ」

「いいね、いいね」


 こうして歩きながら新たな石武器が作られていった。


 △△▽▽◁▷◁▷


 金属甲冑と盾と剣を装備して動き回れるエルネシアよりも、勇者と複数の現職を持った俺の方が力が強かったので、今後は俺が強敵の正面に立つ事になった。

 エルネシアの真骨頂は多分、剣と盾の巧みな扱いからタンクを可能としているのだろうから、もっとマシな装備が充実するまでは我慢してもらうしかない。


 現在エルネシアの装備、中は木で外は石の直剣、木と樹皮の部分甲冑、木の盾だ。

 生物が居ないので生皮から職人の能力で作れる革が得られず、身近にある樹皮で代用している。

 靴の内側底には滑り止めマットのように樹皮繊維を融合させ、靴底は地球で見た運動靴の靴底みたいな溝を掘った。


 このようになんちゃって地球の知識で装備一式を新調して、エルネシアは……見習い戦士っぽくはなった。

 騎士なのに騎士への道は遠かった。

 素材探し的な意味で。


 俺の装備はエルネシアに使った技術をそのままリサイズしただけ。

 槍を持つので盾は腕に固定可能にしたくらいだろうか。

 男の着替えなんてこんなもんよ。


 魔法を覚えたので異世界? 地球? まあ冒険2日目にして早くも、裸から始まり木と石の装備が揃いました。

 食料のみ不足気味で必要量の半分にも満たないけど、モンスターに襲われて死ぬ危険性はグッと減った。

 あとは幸運に恵まれよい行き先に導かれるのを祈るしかない。


 僧侶

 回復 状態回復


 神官

 中回復 浄化


 ……祈ったら幸運じゃなくて職業だったよ。

 まあ怪我と病気には対応方法ができたから、ありがたいのは間違いない。

 かなり予想外のタイミングだっただけで。


 こうして俺達は少しずつ痩せながらも8日間森を歩き続けたが、衣食住と医色職に変化はないままお互いだけを心の支えにして足掻き続けていた。

 そして変化9日目がやって来た。


 △△▽▽◁▷◁▷


 斥候

 索敵 隠形(小)


 狩人

 探索 罠(中)


 こちらがモンスターを先に見つけた瞬間、新たな職業が2つも来た。

 字面から効果を推測だけして、今はエルネシアと相談が先だ。


「ここから200メートル先にオークを見つけたんだが、立った豚であってるよな?」

「はい、オークはかなり鼻の効くモンスターなので、全身に泥を浴びて臭いを消してから進んでいました。今ならシバさんの浄化で臭いは消えていますよ」


 毎日これだけ歩いて汗をかいているのに臭わないのは、朝晩の浄化の効果だったのか。

 神様? 便利な職業をありがとうございました。


「オークは人間の雌を苗床にするってのがあるんだが、そっちではどう?」

「いえ、全てのモンスターは基本的にダンジョンから発生してきます。なのでそういった話しは聞いた事がありません。稀にダンジョン以外の陰気な場所で発生しますし、私達はその瞬間に立ち会ってしまいましたからね、身を持って知りたくはなかったですけど」

「そうだな、話しは了解した」


 だったら積極的にエルネシアが狙われる心配は少なそうだな。


「あとオークの肉って美味い?」

「オークは装備の整った熟練戦士と同等かそれ以下の実力しかありませんが、確保される数が少ない事もあって中々の高級肉で美味しかったです」


 ニヤリ。


「ちょっと、シバさんシバさん、悪い顔になっえますよ。それで作戦は?」

「斥候の隠密(小)ってのを覚えた、1人静かに隠れて近寄って無詠唱サンダーショット、それで痺れている間にコイツを首にブスリだ」


 左の腰に吊るしてある石剣を叩いてみせる。


「あっ、新しい職業おめでとうございます。じゃあ私は乱入者への警戒と、モンスターに発見された時の援護で」

「オッケー、じゃ、行ってくる」

「ご武運を」


 念のため2人に浄化をしてから静かに歩き出す。

 風向きは……無風かな? 特に感じられない。

 ゴルファーみたいに枯れ葉を落としてみても不明。

 無風を前提にして行動してみるか。


 オークはあの木を中心に外向きにウロウロしてるだけか?

 隠密(小)のおかげか、枯れ葉の上を歩く必要もあるのに足音がほとんどしない。

 相変わらず職業能力ってのは便利なもんだな。

 オークと木を中心に少し迂回しながら距離を詰めていく。

 直線で移動しないのはエルネシアの方へ視線を向けさせないためだ。

 それから10分以上かけて木の反対側まで辿り着いた。


 次にオークが一周して目の前を通り過ぎた瞬間にサンダーショットを撃って狩りの開始だ。

 ……

 ……

 ……

 あと2歩。

 いいやまだだ。


 1歩。

 撃つぞ。


 ゼロ。

 今だ、サンダーショット!


 ショットの中で2番目に速いサンダーショットは、放つとほぼ同時にオークに被弾した。


「ヒャッハー! オークは消滅だ〜!」


 ザクッザクッザクッ。

 石剣を逆さに持ち、麻痺して倒れたオークの首目掛けて滅多刺し。

 オラオラオラオラオラオラオラオラ!


 スカッ、ドッ……

 おっと、もうオークは消滅して地面まで石剣を刺しちゃったか。

 ドロップしたオークの肉は、20キロはありそうな特大サイズの肉だった。

 料理に詳しくないから背脂の部分じゃないとしかわからんが。

 肉を持ち上げて、接地面をウォーターウォールで洗い流してから浄化。

 周囲の警戒は続けたままエルネシアと合流した。


「やったぞ、変化後初めての肉だ!」

「やりましたね、ここを離れたら早速焼きましょう」

「応!」


 モンスターは何が原因で近付いて来るかわからないので、戦闘後はその場から離れるのが異世界での鉄則なのだそうだ。

 まあ動物ですら、人間よりも遥かに優れた五感とか、当たり前に持ってるからなー。

 より狂暴になったモンスターならなおさらか。


 その後俺達は石と魔法で調理したステーキを泣きながら食べた。

 塩すらない肉そのものの味だけだったが、これまで食べたどんな肉よりも美味しかった。

 生を実感し、生に感謝し、エルネシアに出会えた事を感謝した。

 多分1人だったら孤独と飢えで、もしかしたらそれ以前に、水が得られなくて死んでいたかもしれない。

 だから変化してしまったのは、神ですら避けられない運命だったのだろうと受け入れ、それでも俺達2人に生き残るチャンスを与えてくれたであろう神に感謝した。


 大神官

 魔力回復量増加(大)

 大回復


 大神官、大だらけ。

 神様、ありがとうございます。

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