1-2
人生は選択の連続である。次の小さな選択が後々大きな結果の違いに繋がってしまう。
この間テレビで言ってた。間違いない。
そして只今私も人生選択中である。
先ほど頂いた千円札で昼飯を買うためコンビニによろうと思ったのだが、通学路の途中にある品揃えが豊富なセブンか,やや外れるがTポイントが付くファミマか。
悩みに悩んだ結果、
「ファミマ行こう。」
それが5分前の出来事。先ほどの選択の結果から言うと、
俺の心の声は
(失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。)
某タイムトラベラーの如く嘆きたくなるものだった。
コンビニについたまでは良かったのだが、いざ入ろうとしたところ、コンビニの裏の方から声が聞こえてきた。
何を言ってるのかわからなかったが、男と女の声が聞こえる。
「朝から元気なことで…。」
再び足を動かそうとした時。
「止めてください!」
先ほどの女とは違う声が聞こえてきた。
おいおい。いったい朝から何してんだ?
ちょっと気になったのでのぞいてみると、1人の女の子が男女3人組に囲まれているではありませんか。
「良いから早く出しなさいな!」
真ん中に入るリーダー格のような小柄な女の子が、身長高い眼鏡のおとなしそうな女の子の胸ぐらをつかんでいる。このご時世にカツアゲとは…。
「いい加減出したほうが身のためだぞ。」
「…。」
周りの取り巻きのメガネ男子二人のうち1人が便乗して脅しをかけている。
もう一人はもじもじしながら下を見つめていた。
なんだか迫力に欠けるカツアゲだな。
女の子1人によってたかって、何してんだか。人間の屑だな。
だが、メガネ女子はやめてくださいの一点張り。脅しに屈する気は無いようだ。
それにしてもしつこいな…。
それになんかメガネ女子めっちゃ眉間にシワ寄ってんだけど。
「はぁ、もういいや...。」
ため息とともにそんな言葉を吐き出すと、次第に目つきが変わっていき、彼女の周りには確かな殺気が放たれる。右足を後ろに引き、拳を握りしめ、腰をねじる。
直感が告げる。このままではただじゃすまないと。
昔からの悪い癖だ。
気が付けば走り出していた。
「いい加減に‼︎「うぐっ…、ま、まぁまぁ双方おちついてくださいな。」
カツアゲ組とメガネ女子の間になんとか入り込む。
「なっ、何よあなた⁉︎、このメガネの仲間?」
「えっ?私の仲間?」
メガネの言葉にイラっとしたが、ここは大人な対応をとる。
「違います。そこのメガネちょっと黙っとけ。ところであんた達、その制服、中央高校じゃないか?進学校様がなんでこんなとこ居るんだよ。」
県内でもトップレベルの進学校である中央高校の生徒がこんな所でカツアゲなどあまりに不審である。
「なんでって…、別に良いじゃありませんか‼︎あなたには関係ありません‼︎どっ、どいてください!」
あからさまに動揺してるな。理由は大体察しがつく。勉強へのストレスか周りに対するちょっとした反抗とからそんな感じだろ。
それなら足元をすくってやれば良いだけの事。
「ふぅん。そうか、そうか。まぁ関係ないけどね。今の一部始終を撮った動画ををあんた達の学校に送りつけても関係ないけどね。」
進学校に進学する程の家庭だ。親からの期待による圧力もあるだろう。それを把握していれば自らの過ちにより、どれだけ親を失望させるか多少なりと考えるだろう。
「どっ、動画!いつの間にそんなものを。卑怯者!」
やばっ。顔めっちゃ青ざめてる。効果は抜群だ。
やだこの子面白い。トドメにもうちょっと圧力をかけてみるか。
「さぁ、通報されたいのか、されたくないのか、どっちなんだい。10つ数える間に答えろ。さぁ、1「通報はやめてください!」
まさかの即答。なにこの子。超素直。なんでカツアゲとかしてたの?
唖然としていると。苦虫を噛み潰したようなの声が聞こえてきた。
「何でもしますから、だから、せめてこの二人だけは見逃してもらえないでしょうか。」
まっすぐ見据えた眼が俺の目を離してくれなかった。彼女の懇願を込めた声を聞くとなんかすごく自分の悪者感を実感してしまう。
後ろの2人は自らのつま先あたりをじっと見つめたまま何も言わない。
「情けないなお前ら。」
嫌味を言ってやるが何の反応もない。
代わりに口を開いたのがカツアゲ少女だった。
「違うの。この二人は私が巻き込んだの。だから彼らを攻めないで…。私が全部悪いのだから。」
あまりの男らしさに感動すら覚えてしまった。
こんな事を言える男に私もなりたい。
「じゃあこれから俺の言うことを何でも聞け。」
しばらくの沈黙の後、
「…分かりました。何でもいたします。」
覚悟を決めたのだろう。それじゃ遠慮なく命令してやる。
心なしか彼女の顔が少し赤くなっているのは気のせいだろう。
「じゃあとっとと帰れ。そして二度とここに来るな。あとこの子にも二度と関わるな。後ろの二人もわかったな。」
後ろの二人は「ハイ」と言ってその場を立ち去ったのだが、あと1人がボーッとこっちを見ている。
「…それだけですか?」
「それだけだよ。分かったらとっとと行け。」
「はい…。」
ブツブツ言いながらふらふら歩いていった。
何を期待したのかは分からんけどこの子には出来れば一生関わりたくないな。
さて、一件略着ということで飯を買いに行こう。
踵を返し歩き出そうとすると、後ろからか細い声が聞こえてきた。
「ありがとうございます…、あの、その。とっても助かりました。」
「だれもお前の事は助けてない。あの女殴ろうとしだろ。」
さっき割り込んだときに背中に思いっきり正拳突きを喰らってしまった。変な声も出ちゃったじゃないか。うぐって。今でも鈍痛が治らない。
「あれは…、その…、ごめんなさい。」
消え入りそうな声とともにお辞儀をしていたが、
腹の虫はまだ治らない。
「暴力沙汰なんか見たくないし、誰も幸せにならない。相手も悪いが手を出した時点でこちらの負けだ。補導されて退学か停学になるのは目に見えてるだろ。それにあんた素人じゃないだろ。経験者としての自覚をわきまえろ。」
メガネ女子はあっけに取られた表情をする。
「なんでわかったの?」
「普通の女の子があんな構えとるわけないだろ。一目で分かるわ。じゃあな、もう二度と会うことは無いだろう。」
そう吐き捨てて、彼女の方は見ないで俺は学校へと歩き出した。
あの時選択を間違えていなければこんな面倒くさい出来事に巻き込まれずに済んだのだろうに。ついてないな。
自分の不幸を嘆きながらも足は勝手に目的地に一歩一歩進んでいた。
春の象徴である桜の並木の中を1人歩く。
上を見上げると満開に咲いた色鮮やかな桜、下を見ると泥にまみれたような濁った色の桜。先ほどの雨で散ってしまったのだろう。
あんな高いところで綺麗に咲いてみんなからチヤホヤされて、一度落ちてしまったら最後、誰からも相手にされずにゴミ扱い。人生に良く似ているかもしれない。何か切ないもの感じるな。いつまでも綺麗なものなんて無いのだ。
そんなこんな考えているともう校門が見えてきた。
考え事をしていると、時間が早く感じてしまう。あと数歩で学校の門というところで何か忘れているような気がしてきた。
あれ、なんだっけ。まあいっか。思い出せないのならたいしたものじゃないのだろう。
そのまあ校門をくぐり、二階に上がり教室に入り、一直線に自分の席につく。
「あっ、昼飯買ってない…」
もうあきらめよう。
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