聖遺物
「神、倒しちゃいますか」
思ったよりあっさりとイリスが言った。思わず拍子抜けしてしまう。
「え、神官なのにそんなにあっさり神倒していいのか?」
「いいんじゃないですか? 神様はランクが高い人が偉いという秩序を定めたので。魔王を倒した今、神を倒せば勇者様が頂点で、SRは世界中で同率二位になれますし。大体、ランク至上主義の癖に自身にランクつけてないなんて倒されても文句言えないですよ」
本当にこいつは相変わらずだった。やはりこれがこの神を信仰する神官のあるべき姿なのだろうと思えてくる。
「それよりも問題は勝てるかどうかです」
「それは全く分からん」
そもそも全く知らない存在だしな。
「とりあえず聖遺物とか研究してみましょうか。もしかしたら神殺しの剣とかあるかもしれませんし」
「聖遺物って神が地上に残したものだからそれはないだろ……」
そんな訳でイリスはまたまた引きこもりになった。手伝いたい気持ちもあったが、聖遺物はみだりに部外者の目に触れさせていいものではないらしい。それにリアだったらうっかり使ってしまうかもしれないし。
その夜のことだった。
その日、珍しく俺ははっきり夢だと知覚出来る夢を見ていた。俺はどこなのかよく分からない暗い空間にぼんやりと佇んでいたのだが、そこへふわふわとどこかで見たような女性が近づいて来る。
「勇者ケント様。あなたには是非お願いがございます」
「その声は……あの時の女神か」
声を聞いてようやく思い出す。俺が危機に陥っていたとき、俺に力をくれた女神ではないか。その時は神的なものだと思って深く考えていなかったが、今となると、この女神はどのような存在なのか、非常に気になってくる。
「はい。単刀直入に申しますと、私はあなたにカタストロフを阻止して欲しくて加護を与えたのです」
「何だと!?」
思ってもみなかった事実に俺は驚愕する。
「私は言うなればこの世界の神から生まれた神族の一人です。ですが、私はこのような手段で人類を選別するなど見逃すことは出来ません。そこでたぐいまれな潜在能力を持つあなたに力を与えたのです」
そうだったのか。正直次々と色々な事実が明らかになっていくので、この女神のことはすっかり忘れてしまっていた。
「私のしていることは生みの親への反逆です。本来許されざることなのですが、カタストロフという暴挙を見過ごすことが出来ず、こうして隙を見てあなたに接触しているのです」
「しかし、ということはあなたはリアの親なのか?」
「いえ、それはおそらく私とは違う天使でしょう。私はそのようなふしだらなことはしておりません」
「そうか」
「ではお任せいたしました」
そう言って天使は消えていった。その後、俺は深い眠りに落ちた。
数日後。
「……という訳で聖遺物を調べてきました」
「おおお」
イリスが台車のようなものを押して来た。その上には曰くありげなアイテムが満載されており、俺とリアは何となく拍手をする。
イリスの表情には疲れが見えるが、台車から早速弓のようなものを手に取る。
「まず最初に紹介するのがこちら。“星を墜とす弓”です。なんとこの弓を使って星に矢を当てて撃ち落すと、その人のレアリティが一ランク上昇します!」
やけになっているのかリアが通販番組のようなテンションで告げる。唯一知っている聖遺物が光の環だったのであまり期待はしていなかったが、やはり謎の効果だった。
「どうやったら星に矢を当てて撃ち落せるんだ?」
「知りませんよ。では次がこちら」
次にイリスが取り出したのは鏡のようなものだった。
「この鏡に死体を映すと一ランクレアリティが高いアンデッドとして蘇生します」
「今すぐ叩き割った方がいいと思うが」
「うん」
飛んでもなく危険な代物じゃねえか。
「はい次。これは使えるかもしれません。何とこの聖杯に入れた水を飲んだ人はランクが一段階上がります」
「すげえ! 早速のも……」
「あ、飲むと寿命が残りわずかになる上に死後に魂が神に吸われるらしいです」
「間もなく死ぬのは困るけど神倒せば魂がどうのっていうのは良くね?」
全体的に効果は強いが発動条件が厳しいか、副作用が強いものばかりだった。他にもイリスは色々紹介してくれたが、残念ながら他にめぼしいものはなかった。そう考えると光の環は多人数でカタストロフを乗り越えるという一点においてはかなり有用なものだったと言わざるを得ない。
当然、その結果生まれる世界はかなり歪んだものになるだろうが。
「何というか、全体的に思うんだけど神にとって人の尊厳的なものはどうでもよくて、ただひたすらランクが高い人間を選別したいだけなんだな」
「残念ですがそうですね。まあ最悪、私がさっきの聖杯の水を飲んで鏡で照らしてアンデッドになってSSSRになって無双するんで大丈夫でしょう」
「お前割と何でもかんでも自分で解決しようとするところあるよな」
「仕方ないじゃないですか、これまで同じレアリティの神官がいなくて孤独だったんですから」
何か急に重い過去を言われて微妙な空気になる。イリスはしまったという風に手で口元を抑えた。
「……ち、違いますよ、単に私が最強になりたいだけですって!」
こいつ他人から気を遣われるのに絶望的に慣れてないな。俺も他人に気を遣われると居心地悪くなることがあるのでその気持ちは分かる。
「イリスはもう一人じゃないんだからそんなことしなくていいんだよ」
リアがそっとイリスの手を握る。それはある意味追い打ちなんじゃないか? 案の定イリスは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「まあ何にせよ、これ全部持っていこうぜ。一応使うかもしれないし」
仕方がないので俺は話題を変えた。
「そうだね」
「あなた方、聖遺物を消費することに本当に何のためらいもないんですね」
そしてイリスも相変わらず立ち直るのが早い。
「カタストロフがなくなるなら、こんなものあっても仕方ないだろ」
「確かに、それはそうです」
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