集合生命
そんな穏やかな日々も数日経ったころ。俺とリアが将棋のようなゲームで遊んでいるとイリスがやってきた。
「……相変わらず二人は仲いいですね」
「違えよ、お前とリアしか知り合いがいねえんだよ」
あれ以来天使(仮)も出てこないし俺たちは特に何か仕事がある訳でもないし、古文書の解読も知識がなくて手伝えないが、教会を離れると天使が急に襲ってきたときに対応できないため、はっきり言って暇を持て余していた。
教会の普通の人々は俺やリアとどう付き合っていいのか分からないのだろう、儀礼的な会話しかしてこない。そして今までランクが高い人々にいじめられてきたリアも同様であった。そのため、俺はリアに付き合う形で二人遊びをしているという訳である。
「……あ、そうですね、許します」
イリスがしまったというふうに口を手で押さえる。
「そうそう、早く古文書読み終えて一緒にショッピング行こうよ」
ちなみにリアはあれ以来たびたび買い物に出かけてはうきうきしながらイリスに似合う服を探している。そんなリアの言葉にイリスは一瞬表情を緩めるが、すぐにまじめな顔になる。
「残念ですが“光の環”の正体を知ったらそういう気分ではいられなくなるかもしれません」
イリスの言葉に俺たちの表情も引き締まる。
やはり魔王が警戒していただけあって、重要なものではあるらしかった。
「まず“光の環”の効果を説明しましょうか。まずこのアイテムは何か一つの概念を決めて使用します。それは国でも村でもパーティーでも仲良しグループでも構いません。次にその概念に対して自発的に服従したいと思う方を連れてきて環に触れさせます。すると環に触れた者はその概念に絶対服従の魔法がかかります」
「つまり、国だったら王様の命令に逆らえないってことか?」
「そうですね。ただ王様と言っても個人ではありません。もし代替わりすれば新しい王に対象が変更されます」
「うーん、いまいちピンとこないな」
俺はリアを見る。リアも漠然と恐ろしそうな顔をしていたが、おそらく完全には理解していなさそうだった。
すごいのはすごいが、そんな危険なマジックアイテムに対して自発的に服従したい、と思うことはあるのだろうか。逆に、だまし討ちや強制でも効果が発動するのならば確かに恐ろしいが。
「でも例えば国だとして、いくらいい国だと思っても絶対服従っていうのは怖いな」
「まあそうですね。簡単に言えば光の環はそういうアイテムです。ただ、私はいまいちよく分からなかったんです。何でそれに魔王が興味を示すのか。魔王軍にだってサキュバスのように魅了で他人を操ったり、アンデッドを使役するやばい魔物がいたりしますからね。それに対して光の環はあくまで任意ですし」
言われてみればそうかもしれない。
「それって例えば強制的に環に触れさせたりしても発動するのか?」
「詳細は分かりませんが、文献にはそういう使い方はなかったですね」
イリスは首をかしげる。とはいえ、それが可能ならそういう使い方をするやつは出るような気がする。
「それでどうだったんだ?」
「そこで出てくるのが集合生命という概念です」
「そう言えば魔王がそんなようなこと言ってたな」
あのときは不意打ちに遭った恨みでそれどころではなかったな、と少し懐かしい気持ちになる。
「はい。で、集合生命というのはそのような集団をまとめて一つの生命と考えるという考え方です」
「リオス防衛軍」
リアがぽつりと言った。ちなみにイリスには一応あのときあったことを説明している。リオス防衛軍についての記憶は戻らないが、そういうことがあったということは理解してくれた。
「はい。ただ、全ての集団が集合生命になる訳ではありません。一つの意志の元に強固な団結を示している集団のみが集合生命へと昇華……と言っていいのか分かりませんが」
「それが光の環であり、あのときのお前の独裁という訳か」
「……私そんなに独裁してたんですか」
今となってもイリスはあのときのことを覚えてはいない。
「うん、それはもう」
リアの率直な感想にイリスは少し恥ずかしそうにする。
「そしてそこで一つ謝らなければならないことがあります」
「何だ?」
「この前あなた方が話したことをを虚言だと言いましたが、おそらくその天使もどきは集合生命の擬人化です」
「……」
俺はイリスに「ほら見ろ」とマウントをとるのも忘れて驚く。確かにそうだとすればSSSRというレアリティが存在していることも納得いく。
「だけど普通の集合生命は擬人化しないよな? リオス防衛軍もしなかったし」
「はい。そこに現れるのが光の環ではないかと思っています」
「……なるほど」
光の環というのは、要するに集合生命を作り上げてそれを擬人化するマジックアイテムだというのか。すごいと言われればすごいのだが、やはりぴんと来ない。
「だがそれは何のためにあるんだ?」
「さあ。単に非常時に強大な戦力を作るために誰かが作ったのかもしれません」
まあ確かにそれほどのものなら魔王が恐れるというのも分からなくはない。もしあれを使って人間が一つに、いや、一国もしくは教会の信徒だけでも団結してしまえば、魔王と言えど歯が立たないかもしれない。
もしかして光の環というのは元々そういうために作られたものなのだろうか。人類が束になっても敵わない相手と戦うために。
「そうか、つまりこの前会ったあれはアルトニア王国の擬人化という訳か」
「おそらく、そういうことになりますね」
「まじかよ……」
さすがに俺は困惑した。一人で国に立ち向かうとは時々使う表現だが、本当にそうなるということである。
「じゃああれを倒すと?」
「さすがに国民皆殺しとかにはならないと思いますが……まあリオス防衛軍のときのようになるんじゃないですかね。存在ごとなかったことになるといったところでしょう」
「まじでか」
さすがにこれには驚くしかなかった。
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