VS天使
光の環
「う、ううう……」
俺は全身の激痛とともに目を開いた。体を動かそうとするたびに鋭い痛みが走る。目の前には病室と思われる部屋の天井が見える。俺はベッドに寝かされているようだった。
ベッドの傍らにはほっとした様子のリアが座っている。その様子だと随分心配をかけたのだろう。さらにその後ろではイリスが何やら書類仕事をしていた。忙しいのにわざわざお見舞いに来てくれてありがたい。
「良かった、目覚めてくれて」
リアの言葉は短いながらも感情が込められていて少し嬉しくなる。
「ようやく目覚めましたか」
イリスの言葉は素っ気ないが、その後に吐いた息からは安堵の感情が伝わって来た。よく見ると少し目が赤くなっており、あまり寝てない様子が垣間見える。
そこで俺は自分が魔王と戦っている最中に倒れたことを思い出す。
「うう……そうだ、そういえば魔王は!」
俺はがばっと体を起こし、そして激痛が走る。
「いたたた……」
「病み上がりですから安静にしててください。それに魔王は無事あなたが討伐しましたよ」
イリスの言葉に安堵するのも束の間、疑問が湧く。
「そうか……あれ? でも何で俺生きてるんだ?」
自慢じゃないが俺のメテオストライクはすさまじい威力だったはずだ。そしてそれの直撃を魔王もろとも喰らった。魔王ですら倒されたというのに、防御技も使っていない俺が防げる訳はない気がする。
「戦闘が終わる直前、魔王があなたの動きを封じたのは周囲の空間を固める魔法を使ったからです。周囲の空間が固まっていたおかげで威力が減少され、あなたの素の防御力でさらに軽減されました。それでもあなたは瀕死で地中深くにめり込んでいましたが」
そこでイリスは得意げに笑う。
「ま、SR神官たる私にかかれば生きてさえいればいくらでも回復できますよ」
相変わらず性格以外はハイスペックであった。
しかしあの魔王の空間固定魔法で受けるダメージが減っていたとは皮肉なものだ。
「ありがとう。そしてリアも良くやったな。奇襲部隊を殲滅してくれたおかげで魔王との戦いに専念できた」
「ありがとう」
そこで俺はふと魔王が口走っていた謎の言葉を思い出す。背後から刺されたことへの怒りのせいですっかり忘れてしまっていた。
「そう言えばイリスは“光の環”て知ってるか?」
「いえ……知りませんが。何でしょう?」
「魔王が死ぬ直前にそういうのが教会にあるとか言ってたなって。そっかイリスでも知らないか」
俺は何気なく答えたつもりだった。
しかし俺の何気ない言葉に、目の前のイリスの表情が変わる。
「はい? SR神官たる私に知らないことがあると?」
「えぇ……」
どうも何かのスイッチを押してしまったらしい。
「そんなものすぐ調べ……いえ、思い出してきますよ」
「いや、魔王が言ってただけで……」
俺が止める間もなくイリスは部屋を出て行ってしまった。後に残された俺とリアは苦笑する。
「相変わらずまっすぐな奴だな」
「……うん。でも私これからどうしよう」
「どうって?」
「だって私の力は魔王を倒すのには有益だったけど、魔王はもういなくなっちゃったから。もはやただの危ない力のような気もするけど」
ただの危ない力というのは即座に否定出来なかった。ただ、それはリアの使い方次第というのはあるだろうし、それにこれで完全に平和になったとはまだ断言できない。
「ただ、魔王が何か意味深なこと言ってたしまだその力が必要な場面はあるかもしれないぞ?」
「そうかな。でもせっかく手に入れた力だから私も世界とか救ってみたいな」
リアはどこまでもまっすぐな願いを口にした。ずっとランクなしを理由に虐げられてきたというのに復讐やニヒリズムに走るのではなく世界を救うことを夢見るというのはきれいな心を持っていると思ったので、俺は胸を打たれた。
そこへぜえぜえと息を切らしながらイリスが帰ってくる。本当に調べたんだとしたらえらく早いな。
「ああ、あの光の環ですよね? 当然覚えてましたが?」
いや、その設定で通すにはさすがに無理があると思うが。とはいえそれは口には出さない。
「お、おう」
「ですがあれはすでに教会にはありません。七十年ほど前にアルトニア王国に譲渡されたとの記録があるのみです」
「アルトニア王国?」
確か少し離れたところにあった小国だった気がする。
「ここから山脈を一つ隔てて隣にある国です。国力が低くとりたてて特徴もない国ですが教会に多額の寄付をした功績で譲渡されたと」
ぼろくそに言われるアルトニア王国。
「それでどういうものなんだ?」
「さあ……神様の遺品として残っているとしか。しかし勢いで調べ、いや思い出してしまいましたが魔王はどんなことを言ってたんですか?」
「……。何か集合生命がどうとか、教会から光の環を回収するとか。しかも集合生命の話と光の環の話も関連があるか分からないしな」
「集合生命? 聞きなれない概念ですね。ですが心配ありません。近いうちに必ずや調べあげてみせますから」
相変わらずイリスの鼻息は荒かった。
「いや、あいつ話している最中に俺に奇襲かけてきたから、俺の心を惑わすために意味深なことを言っていただけかもしれないぞ?」
あまりにイリスのやる気がヒートアップしているので、思わずそこだけ釘を刺してしまう。
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