VS魔王 Ⅱ
「おぬしが今回の勇者か。残念ながら伝説の勇者よりも格上のようだな」
「そうだな。お前は伝説並みか?」
伝説の勇者がSSRで、魔王もそのくらいの強さに見える。
が、魔王は不敵に笑った。
「そうだ。だが、お前は所詮強さだけがSSSRの戦闘人形に過ぎない」
「魔王にだけは言われたくないんだが」
「そうか? 余も一応思想を持って人間と戦ってはいるんだがな」
「何を言っているんだ? 魔族は自分たちの繁栄のために人間を襲い、人間は生存のために反撃する。それ以外に戦う理由なんてあるのか?」
とはいえ、俺は少しだけランクという概念に引っかかりを覚えていた。
突然俺が限界を突破したこと。
リアというランクのない少女。
そしてリアが持つ不可解な力。
もしかしたら魔王もランクに対して何か気になることがあったのだろうか。
「いや、善悪について論じるつもりはない。魔族と人間の対立はただの対立だ。人間のお前が人間に味方するのも無理はないこと。ただ、最近一つ気になることがあってな」
「何だ?」
魔王の術中に嵌まっているような気がしなくもなかったが、思わず俺は尋ねてしまっていた。
が、魔王の口から出ていたのは俺が考えていたこととは違う、予想の斜め上をいく内容だった。
「人間が“集合生命”に手を出そうとしていることだ」
「“集合生命”?」
聞きなれない言葉だ。
「まあ、それは余がそう呼んでいるに過ぎないのだがな。簡単に言えば、人間は個人と集団では違うということだ。例えば善良な者でも悪い組織に入れば悪人になるし、逆もまたしかりだ。それはつまり、個人としての存在よりも集合としての……」
魔王の話が佳境に入って来たときだった。
「死ね!」
「ぐはっ!」
突然俺は背中に激痛を感じる。見ると胸元から剣の刃先のようなものが飛び出していた。正直めっちゃ痛いが、背後から剣を貫通されてめっちゃ痛いで済んでいるのはこの圧倒的ランクのおかげだろう。
「……くそ、完全に不意を撃ったはずなのに。これがSSSRか」
俺は後ろに手を伸ばすと俺を貫いた剣を握っているクソ野郎の手首を掴む。SSSRの加護があるのでいくら相手が暴れても振りほどけない。とりあえず俺の傷は致命傷ではなさそうということもあり、俺の痛みは怒りに変わっていく。
「おのれ魔王! よくもこんな卑怯な手を!」
「別に余が命じた訳ではないのだが、戦場で警戒を怠る方に問題があるのでは?」
く、気になることがあったあまり警戒を怠ったのは確かに俺が悪い。
悔しくなったので振り向きもせずに手の中に魔力を込める。
「ディメンジョン・ソード!」
「ぎゃああああ!」
至近距離から魔法の直撃を受けた暗殺者の悲鳴が聞こえ、掴んでいた手首から力が消える。俺は痛みに耐えながら体を貫いていた剣を抜いてぽいっと捨てた。だが、まだ戦える。残っている体力は魔王よりもまだ多いのではないか。
「人間たちはすでにこの集合生命を……」
「いや、なかったことにして話続けてるんじゃねえよ」
「SSSR勇者にはかすり傷だろう?」
魔王は別に煽っている訳でもなくそう言った。確かに魔王のように常に戦いの中に身を投じている者からすればこれぐらいかすり傷かもしれないが。とはいえ魔王への怒りを差し引いても、回復魔法は使えないのでこの傷を放置して話を聞く訳にはいかない。
「ディメンジョン・ソード!」
俺は魔王に向かって空間を斬り裂く剣を発射する。すると魔王はふっと姿を消した。魔族軍が本教会に奇襲したと言っていたし、テレポートのような力を使えるのだろう。ディメンジョン・ソードは魔王が立っていた辺りの空気をむなしく切り裂く。
何かかなり重要なことを話していたような気もするが仕方ない。世界の真実を知ることよりも勝つことの方が重要だ。
「最近の勇者は怖いな。いきなり襲い掛かってくるとは」
今度はちょっと煽り気味に魔王は言った。しかしいきなり襲い掛かってきたのはどう考えても相手である。
「ディメンジョン・ソード・レイン!」
今度は広範囲に流星を降らす。そしてその間にメテオストライクの調整を脳内で始める。あまり範囲を絞りすぎるとテレポートで逃げられる可能性がある。
とはいえ、ここで魔王が逃げおおせても残った魔王軍が壊滅すれば一日回復を待って魔王にもう一度撃ちこむだけである。そして魔王さえいなくなれば残りの魔王軍はメテオストライクなしでも戦える。
魔王は無言で黒い盾を展開すると流星は全て防がれる。そしてお返しとばかりに黒い球のようなものを発してくる。俺もそれに対して無数の火球を生み出し、黒い球にぶつける。黒と赤の球がぶつかって連鎖的に爆発していく。辺りにきらきらした光の欠片のようなものが飛び散る。
「さすが勇者殿。レアリティに差がある以上普通にやり合っては勝てぬな」
「また卑怯な手を使う気か?」
「戦場に卑怯などない」
不意に魔王が何かの魔法を唱えた気がした。
「では行くか」
「させるか」
そこで俺は体の自由が利かなくなったことに気づく。まるで周囲の空間が固まったかのように。魔法を使おうにも周囲の魔力も硬直しており、発動しない。何だこの魔法は。テレポートといい、魔王の魔法は空間自体に干渉する物が多いのかもしれない。
「危なかった。いくらレアリティが高いと素の能力は高いようだが、魔法をかけてしまえば変わらないものだな。威力系の魔法では死にそうもないからテレポートで地下一万キロぐらいに埋めておくか。勇者さえいなくなれば教会から光の環を……」
魔王は恐ろしいことをぶつぶつと言いながら歩いてくる。
俺はそれを見て死を覚悟した。が、すぐにとどめを刺さなかったのが魔王の敗因となった。
突如、空がぴかっと光ったかと思うと物凄い勢いで何かがこちらに迫ってくる。
「ん?」
魔王が異変を察して空を見上げる。そしてその顔から血の気が引いた。
そう、メテオストライクは宇宙から隕石を落とす魔法。発動から命中までにタイムラグがあるのだ。そして一度発動してしまった魔法は術者の動きを止めても止めることは出来ない。
「ダークシールド!」
慌てて魔王がバリアを展開する。しかしレベルが上がり、範囲を狭めて威力を高めた俺の魔法は即席のバリアで防ぎきれるものではなかった。即席とはいえ、イリスが展開したバリアと変わらぬほどではあったが。
が、そこで一つの疑問が脳裏をよぎる。
あれ? そんな攻撃が命中したら魔王だけでなく俺も死ぬのでは? いくら範囲を狭めたとはいえ、ここまで至近距離に言えば魔王事巻き込まれるのは必定。
だが、先ほども言ったように一度発動してしまった魔法を止めることは出来ない。特に術者が動きを封じられている場合は。
ドオオオオオオオオオオオオオオン
凄まじい轟音とともにメテオストライクはダークシールドを破壊して俺と魔王に直撃した。その記憶を最後に俺の意識は途絶えた。
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