19eme. 俺の従兄はカッコいい。


 せっかくの日曜なのに、外は雨が降っていた。どの道、こんな状態で外に出る気なんて起きない。そもそも、ベッドから起きれないんだ。


 やはり濡れたせいなのか、それとも昨日色々あったからか。あの後は真っ白な頭で、アオさんに礼を言って別れた。


 従兄に色々聞こうと、ダッシュで帰宅したのが悪かった。玄関を開けた瞬間、俺はぶっ倒れてしまった。


 気が付いたら、自室のベッドの上に居た。体温計を手にした従兄が言うには、八度五分らしい。何十八度なのか聞いたら、呆れた顔で無視された。


 服とCDを返す予定だったけど、今日は無理だと相原に連絡を入れた。自分のせいだって思わせたくないから、風邪を引いたのは伏せておいた。


 横になって天井を見ると、あの時本当に必要だったものが、今でも心の中に残っていた。


 天のこと、前世のこと、アオさんのことが頭の中でグルグル回る。回る世界の一瞬に、俺が溶けていく。終わりと始まりが、繋がりそうなのに消えていく。溶ける鼓動シンクロして、永久に感じるリズム。心に刻まれ続ける、永久に響くメロディの正体を知りたくて仕方がない。


 一人だけ時が止まってしまったような気がして、置いてかれたような感覚に陥っている。足りない旋律、君と奏でた筈の思い出。天と向き合う為には、それが必要な筈なんだ。


 俺はベッドから立ち上がり、自室のドアを開ける。寝ている暇なんて、あるわけがない。リビングに居たクロが、慌てて俺に駆け寄った。


「何してんだよ、ソラ!」


「くお!」


 上手く舌が回っていない。伝えたい事があるっていうのに、何の役にも立たない口だ。


「寝てろよ、馬鹿!」


 クロに自室まで引っ張られ、押し潰されるようにベッドへと寝かされる。


 従兄は、まるで重病人を見るような瞳で俺を見た。もしかしたら状態可視とやらで、体調を見ているのかもしれない。って思ったけど、そんなもの使うまでもないか。


 手に温もりを感じた。目を向けると、クロが俺の手を優しく握っていた。なぜかは知らないけど、情けなくて涙が出てきた。


「辛いか? 救急車、呼ぶか?」


 クロのセリフに、俺は首を左右に振った。辛いのは体調なんかじゃない。


「……ブロッサムにも聞いてみたけど、風邪は治せないんだとさ」


 治してほしいんじゃない、晴らしたいんだ。天の問題をどうにかしたい思いと、クロの悩みを手助けしたげたい気持ちをだ。


「……ソラ」


 薄れいく意識の中で、クロの優しい声が聴こえた。


「お前は……何も、考えなくていいからな」


 そうしてクロは俺が寝るまで、ずっと手を握っていてくれた。


 今までのことが、記憶と共に通り過ぎていく。その中に君は確かに存在しているのに。思い出そうとする感覚。抽象的になる映像追いかけようとする度、君が霞んでいった。


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