ふわりふわり

kae

第1話 プルコギ定食

「うー、寒い」


美月はずり落ちた布団を肩までかけ直した。

最近寒いのか暑いのかよくわからない気候だ。Tシャツでは暑いのでキャミソールで寝ているが、明け方はちょっと冷える。そのせいか最近肩凝りがひどい。


「起きよ…」


美月はテレビをつけて天気予報をチェックした。もうすぐ梅雨がやって来るらしい。

朝からどんよりした気分になった。

細い猫っ毛が余計にぺたりとなるのが疎ましい。


美月は半年前まで一人暮らしをしていた。

事務職として働いていたが上司とそりが合わず体調を崩してしまい退職し、現在は実家に身を寄せている。


最近の美月の日課は本屋とハローワーク通いだ。


「仕事…そろそろ本気で探さないとな」


体調はすでに回復し元気になっているものの、タイミング悪くコロナの外出自粛などあり、なんとなく転職活動に身が入っていなかった。


美月は大人しく、内向的な性格だ。

あまり会社に馴染んで大勢の人と器用に働けるタイプではなかった。

前職と同じ事務職で探すのか、それとも別の可能性を探った方がいいのか…


朝食を食べ終え、美月はハローワークに向かった。端末に希望条件を入力し求人情報を検索した。今一つピンとくるものがなかった。


「贅沢言ってる場合じゃないけど、また体調崩して続けられなくなったら困るしな…」


美月は独り言を言いながらしばらく検索を続け、今日は空振りか、と諦めて帰ることにした。


ハローワークの外に出ると空は青く、心地のいい風が吹いていた。日中は暑いが晴れていて気持ちのよい日が続いていた。


「ちょっと早いけどお昼にしよう」


ぷらぷらしていると美月は韓国料理屋を見つけた。初めて入る店だ。ちょっと緊張する。

外からみたら素朴な雰囲気の女子高生二人組がお茶をしていてほっこりしたので入ることにした。


カランコロンカラン


扉を開けると意外と店内が広かった。

厨房に立つ主人が美月に気付くと柔らかく挨拶し、好きな席に座るように促した。


四人がけのテーブル席のみのようなのでちょっと贅沢だがそこに座った。

店内には先客が二名いた。

どちらもお一人様で、のんびりと昼食をとっているようだった。


「プルコギ定食をください」


美月は好物のプルコギを注文した。

韓国料理屋で嬉しいのはナムルなどのおかずが数種類出てくることだ。

こちらもそのシステムのようでおかずとサラダ、プルコギ、わかめスープ、ごはんが運ばれてきた。


おいしい


「ご飯は少な目に盛りましたから、足りなければお代わりできますので声かけてくださいね」の女将の声が嬉しかった。

美月は女将にお礼を伝えた。

最近はチェーン店ばかり利用していたのでこういったあたたかい交流は久しぶりのことだ。


食べ終えようとすると女将がアイスコーヒーを持ってきてくれた。

(頼んでないのにな…)

美月の不思議そうな表情に気付いた女将が

「そちらもついてますのでどうぞ」と教えてくれた。

食後にアイスコーヒーを飲むのにはまっていた美月には嬉しかった。


お礼をいって店をあとにした。


「美味しかった!よーし、もう少しがんばるぞ。それにしても、こういうアットホームな雰囲気、自分に合ってるかもしれないな…」


美月は何かをつかみかけた気がした。












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