残り九十六話 パーテーション
私の勤め先はとあるオフィスビルの一室を借りている。
お世辞にも広いとは言えないが、中小企業の支店としては平均的な大きさなのだと思う。
一室だけのオフィスなので応接室などあるわけはなく、パーテーションで部屋の片隅を区切って応接室代わりとしている。
それだけなら何ら変わったことはないのだが、問題なのはそのパーテーションをいちいち折りたたんで片づけなければならないということだ。
狭いオフィスなら当然と思われるかもしれないが、パーテーションを折り畳み片付けても応接用のソファやテーブルなどはそのまま設置されているため、パーテーションがあろうがなかろうが使える広さは変わらない。
一度、わざわざ来客に合わせて動かすのは面倒だから置いたままにしないか、と、先輩に提案したことがあるのだが、反応は芳しくなかった。
一番下っ端の私が動かすものだからまともに考えてくれないんだろう。
とその時は思った。
私だけが残業をしていたとある日のことだ。
夕方急な来客が来たため出していたパーテーションは未だにそこに立っていた。
どうせ私が片付けるんだし後でいいか、と放置していたのだ。
違和感を感じたのは三十分ほど経ったころだろうか。
ちらちらと視界の端で何かが動いている。
最初はは虫か何かだと思ったのだが、そうではないと気付いたのはすぐにだった。
パーテーションと床の隙間。
そこで足が動いている。
最初は見間違いかと思ったのだが、何度見直しても女ものの黒いサンダルを履いた足がうろうろと動いている。
私は金縛りにあったように動けなくなった。
どうしよう。
このまま放っておいたらパーテーションから出てくるんじゃないか。
そんな最悪な想像が頭をよぎるが、怖すぎてそこへ近寄れない。
足はひたすらパーテーションの中をうろついている。
恐怖がピークに達し、私はなるべく音を立てないようにして廊下へと飛び出した。
電気を消すことが出来たのは奇跡だったと思う。
翌朝出社してみると、まだ誰もいない室内の中パーテーションは昨日と変わらず静かにそこに佇んでいた。
うろつく足などそこにはなかった。
勢い任せにパーテーションを折りたたみ、いつもより自分の席から遠い位置へと追いやった。
その後先輩にそれとなくパーテーションの買い替えを提案したが、無駄だよ、と一蹴された。
何が無駄なのかは言ってもらえなかった。
今では来客が帰った瞬間にパーテーションを片付けるようにしている。
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