残り九十八話 シートベルト

 久々に帰省して、実家に帰るより早く友人に会った。

 会ったと言うか、駅まで車で迎えに来てもらったのだ。

 私の地元は車が無いとどうにもならないような田舎で、一家一台どころか一人一台が当たり前のような地域だ。

 高校卒業と同時に東京へ出てしまった私とは違い、進学も就職もすべて地元で済ませた友人は当然車を所有していた。

 久々の再開と言うこともあって、車の中では近況報告や思い出話が花を咲かせた。

 その中のごく自然な流れで友人はこんな話を口にした。


「この前買い物に行ってるときさ、なんか違和感感じたのね。妙にシートベルトがあってるっていうか、いつもより窮屈さがないっていうか。

 でもシートベルトに何かした覚えはないからおかしいなあと思って。お父さんもお母さんもあたしの車乗らないしね。

 それでミラー見たら、あたしシートベルトしてなくってさ。代わりに腕があたしの体支えてんのね。こう、胸のところで手を組むようにしてさ。シートから伸びた腕が。

 世話焼きの幽霊っていうのもいるんだねえ」


 そう言って友人はおかしそうに笑った。

 その後、目的地に着くと何のリアクションもなく腕は消えたそうだ。


 友人はこの車を手放す予定は特にないらしい。

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