にゃんて日だ!?

柏木絢

第1話 にゃんて日だ


 私立武光ぶこう高校。ここは、ありとあらゆるスポーツで結果を出す日本屈指の名門校。

 全寮制である事を最大限に活かし、日頃厳しい練習を積み重ねる事で、結果を残し続けている。

 この高校が重視しているのは『結果』。その為に練習があり、過程が存在するだ。

 だがっ!この高校が重視しているのは『結果』だけだ。結果良ければ全て良しを掲げるこの高校では殆どの自由は許されている。

 結果を残さなければ然るべき対応が成される事においては、最強の束縛なのかもしれないが、皆はそれを理解している。


 ならば、自室でペットを飼う人もいるだろう。

 それが猫だとしても、色は黒でも自由だろう。

 飼い主が全国優勝を約束されたサッカー部エースだとしても、何もおかしくは無いだろう!


 〜〜〜


「ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

 部長の松本響まつもと ひびきに続き皆の声は揃う。

 時刻は18時30分。暑い日が続く7月の部活終了はまだ空が明るい。

 顧問への挨拶を終え、駄弁る生徒、着替える生徒、自室や食堂へと向かう生徒と、その後の動きは様々だ。


「お疲れ拓真。この後そのままメシだろ?」

「あぁ、一緒に行くか?」

「おう。そうするぜ」

 俺に話しかけたイケメン。こいつこそが響だ。


 ・・・・・・それを見ていた生徒が複数人。

 同じグラウンドを使う女子サッカー部の皆さんだ。


「響先輩ちょーカッコイイ!」

「バカッ!拓真先輩のクールさが良いんでしょ!」

 目をハートにして背中を見つめる一年生。


「拓真君・・・・・・話してみたいな」

「響に抱かれたいっ!」

 同じく目を蕩けさせて見つめる二人は二年生。


「響・・・・・・その顔が欲しい」

「言葉を考えろよ。ゲイだったのか?」

 ・・・・・・正面、別のグラウンドから見つめる野球部は男。流石に男はムリっす。


 そう、俺達は超が付くほどのイケメンだ!


 松本響。高校二年生。イケメン。

 整った顔ながらに砕けた性格で男女問わず人気は高い。しかし、サッカー部キャプテンを務められる程に真面目であり、女子に好かれる大きな理由だ。


 俺、石河拓真。高校二年生。イケメン。

 175cmのそこそこな身長で、クールな男。サッカー部エースと呼ばれる実力があり、プレーに惚れた人数は数えきれない。響と逆で近寄り難いモテ男だ。

・・・・・・へっ、凄いだろぉ


 響と話をしながら食堂へ向かう。その間に振り向かなかった人は何人いただろうか?

 いや、いない。断言しよう。いないのだ!


 その視線は食堂でも止むことは無い。

 広い場所という事は、それだけ入る人数も多いのだ。

 響は慣れているとすら言わず、カレーを片手に話を始める。


「明日から夏休みか・・・・・・長期休暇だからな、メニュー変えるか?」

「だな。練習時間も多くなるし、考えようか」

 蕎麦を前に返す俺。そう、クールな男は蕎麦なのだ。


 そこから30分程かけて話し合った。思ったよりも早く終わった。

「正式なメニューは夜メールで送るから、確認しておけよー」

「おう、また明日」


 食堂を出たドアの前で響と分かれる。

 響は顧問へメニューの確認だ。

 この後は風呂だが、今日は大浴場では無く、自室のシャワーを使う事にしている。

 今日はクロ(飼い猫)の体を洗う日だ。週に一回だけだが、中々に俺の猫はシャワーが好きらしい。


 クロの事を考えながら寮へと向かう。

 武光高校の寮は、各学年男子と女子で一つずつ。男子寮は全5階、女子寮も全5階でできており、1階に30部屋、なんと1人1部屋だ。


 寮に入り、管理人に軽く挨拶。そしてエレベーターに乗り込み5階を押す。


 都会ながらに森に囲まれた立地のこの学校で、5階からの景色はすばらしいのだ。

 俺の部屋はなんと端にある501号室。


 鍵になっている学生証をかざし部屋に入る。


 すると目の前に可愛い黒猫の可愛いクロが可愛くて・・・・・・


「い、いないっ!?」


 やばいやばいやばい。いつも出迎えてくれるクロが居ない?

 俺は余りに冷静さを欠いたのかは崩れてしまっていた。


 色んな場所を探した。

 ベッドの下。クローゼットの中。トイレやシャワールームの中など。部屋の中は隈無く探した。

「クロ?どこだー?」

「たくまっ!」


 返事が・・・・・・あった。

 慌てて振り向くとそこにクロが居た。

 ──クロが立っていた。

「クロ・・・・・・なのか?」

「うん!くろだよ。たくまおかえり!」


 人間・・・・・・だよな?だって人の足だし。人の手出し。猫耳なんてついてないし。


 可愛いな。


 黒い髪を腰上辺りまで伸ばし、豊かな双丘を持っている女の子が一糸纏わぬ姿で立っている。見た目俺と同じ歳くらいか?


「あ、有り得ない、だろ?」

 有り得ない。絶対に起きない事だと分かっているのに、断言できない。


 彼女を作る為にかっこよくなろうと思ってクールキャラ。結果は憧れの人。という友達とは離れた位置に着いてしまったから戻れなくなった。


 友達なんて片手で足りる人数しか居ないからこそ、クロという猫を愛してきたんだ。

 人からすれば猫に話しかける痛い人だったかも知れない。


 でも!

 だからこそ分かる。感じる。


「お前は・・・・・・クロだ」

「もう、そうだって言ってるでしょ!

 たくま!今日はしゃわーの日だよね?早く行こう!」


 あ、もう何も考えられない。

 有り得なすぎて頭はフリーズしそうだ。


 けれども、

 嬉しいぞ!

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