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@fr33d0m724

第1話 歯車は周り始める

ある時、人類は絶滅に瀕した。

地球に飛来した謎の生命体から発せられたエネルギーは強く

人類のおよそ半分を魔力を有する魔物へと変化させ

そして人類と魔物との戦いは熾烈を極めた。



この厄災を引き起こした―"原初の魔物"



それが突如として姿を消しそれから

魔物への対抗勢力"狩人機関"が作られたことで

多くの者が狩人となり死体と絶望、そしてかすかな希望を抱(いだ)いた。



人類は"原初の魔物"へと抵抗し反撃をはじめ

長い年月をかけた今、それは優勢に傾きつつある。



そしてその同時期、とある狩人はそれを見つけた。

光り輝く三つの剣……曇天の空を真っ二つに両断した奇跡の所業を称え、

狩人はそれを"神の剣"と揶揄した。

発見されて以来、狩人は誰にも触らせないように厳重に保管することに努めた。

だが。



触らせない理由は決して厄災を避けるためではない。



仕方なく持っているのものでも。



その真の理由は神の剣の適正者を……見つけることにあったからだ。













『逃亡中の実験体は第一ゲートを通過。第二ゲートへ直進中。』



「人員を上げ、実験体を捕らえよ!」



『了解。』



ウーウーウー鳴るサイレンに警戒レベルは最高位までに引き上げられた。

こうなれば狩人は総員で奴等を迎い入れることになる。



『目標は実験体、龍、天、海……すなわち"神の剣"である。

 繰り返す。目標は"神の剣"である。

 狩人総員は速やかに実験棟収容所第二施設へ急行せよ。』



第二施設へ足を急がせる狩人達の足音は騒音に近いレベルで

また銃の装填音がガチャリと……魔術師や魔導師なども多数配属し

皆すべてが戦いの準備をしていた。



?「"神の剣"にはなりたくないな。」



一人の黒髪の狩人が呟いた。



?「急にどうしたんですか?隊長。」



?「……この人数相手で殺されたくない、ということだ。

  死ぬなら死ぬで俺は逃亡を図る。……今みたいにな」



本当その通りですよ、ともう一人の狩人は

自分より上の隊長と呼ばれる狩人へ突っ込む。

するとぞろぞろと集まる狩人をはけさせ、

隊長と呼ばれる男は数百人の紺の制服を着た狩人に向き直る。



「狩人一番隊隊長、霧島勇吾(きりしまゆうご)だ。

 目標は分かっているので3匹。

 それが俗に言う"神の剣"である。

 奴らの力は俺の能力を以てしても一人じゃ止めきれない。

 各員、迅速な援護と追撃と……殲滅を頼む。―――来るぞ。」



そして霧島は第二施設の第二ゲートを見やる。

ゴゴゴゴゴゴ…と開かれた闇の先。

そこに居たのは3匹ではなく1人だった。



霧島(―――"神の剣"ではない?)



現れたのは全身が黒い服で覆われた男だった。

神の剣は合計で3人、それに服装もまた違う。

顔が分からず真ん中に赤い目玉のマスクをしている。

そのとき狩人の一人が"黒騎士"と悲鳴を上げた。



黒騎士……噂には聞いたことがあると霧島は思い出す。

狩人とはいえ、何らかの思想を持ち三者三葉に分かれるのはよくあることだ。

魔物を保護すると言い出すどこぞの馬鹿共、神聖なる魔物に殺され自身を神へと昇華させると言い出すペテン師教団、そして魔物を扱い人間を殺しまくるテロリスト

……皮肉にも魔物を殺す数よりもそれが勝ってきているのは事実。



だがそんな奴らを殺し尽くそうとする者がいた。

それこそが噂か都市伝説程度に囁かれていた”黒騎士”

たった一人で死に急ぎ野郎どもを本当の意味で死の淵まで、

追い詰めている狂戦士(バーサーカー)。



ざわざわと騒ぎ始める狩人らには目もくれず霧島は依然として黒騎士(それ)を見つめる。

霧島が無言で刀を抜くと黒騎士も同じく刀のようなものを抜き突進してきた。

キィィィンと凄まじい音と風に周りの狩人は圧倒されると同様に緊張が走る。



霧島「……"黒騎士"か。何故お前がここにいる?

   加勢なら剣を抜くな。そして跪け、殺してやる。」



黒騎士『悪いがそれはできない』



そう言い放ち黒騎士が刀を振るとその衝撃波を避けるように霧島は後ろに飛ぶ。

咄嗟のことでか後ろにいた狩人もぞろぞろと倒れると

黒騎士は自身の持つ刀で自分の手のひらを刺した。



するとそこから出てきたのは紅い血ではなく黒い血。

黒い血は刀に張り付き生き物のようにうねうねと動き始める。

そしてうねうね変形するナニカの中からは

まるで恐竜のようなギリギリとした歯が見えた。



『"行け"』



刀を真っ直ぐ前に突き刺す形で黒騎士は霧島の後ろにいた狩人の頭を貫く。

すると貫かれた狩人の頭と首をうねうね動くナニカが食べ始めると

それら周囲に電撃が走る。すると貫かれた狩人の周りは帯電してひるむと、

また同様に怯んだ狩人はナニカによってみるみるうちに喰われていく。



その光景で戦意を喪失し背中を向けていった者から喰われ、

するとナニカの動きが止まり弾けるように電撃がまた炸裂した。

今度は爆発するかのような電撃に身構えていた狩人達も怯み喰われる。


そんな絶望な光景を見せながら黒騎士は刀を持って跳び、

霧島の後ろ、第二ゲートから少し歩いたところに黒騎士は着地する。

霧島はそんな黒騎士が仮面の中で笑っている気がしたと感じた。



霧島「ぐっ……ちっ……!

   "神の剣"はどこだ…?!」



霧島が応戦するものの被害は甚大だった。

1分も掛からずに目の前の黒騎士はこの場にいた狩人総員の3割を片付けていた。

痛々しい傷が見える仲間に、それを軽々しく扱う男。



霧島(―――虫酸が走る…!!)



霧島は黒騎士に刀を向けカキィンッ…と互いに交える。

すると黒騎士から大量の黒い靄がかかりまさに"黒い影"

と呼べるものへと変化していった。



黒騎士『"神の剣"はいない。逃がした。』



ギリギリ詰め寄る"黒い影"は淡々と話して何事も無いように

歯ぎしりをする霧島を目の見えない仮面で見つめた。



霧島「神の剣も黒騎士(おまえ)も

   永久にこの世界から消し去ってやる…!」



良い心掛けだ、だが判断が鈍いな。と言った"黒い影"は

狩人達を蹂躙したナニカを仕舞いながらそのまま刀を仕舞う。

立ち止まったところで魔法や銃撃で応戦するも黒騎士には当たらない。


すると黒騎士は第二ゲートの扉を触りながら

何かの電子機器を取り出して電話をするように軽い応対をはじめ



黒騎士『……そうか。なら向かおう。

    "神の剣"は脱獄に成功したようだ。

    これで戦いは終わりだな、霧島一番隊隊長殿。』



ではな、と黒騎士は徐々に形を失いその場で消える。

それもまた影のように。闇のように。


訪れた静寂に被害は最悪で狩人総員の半分が重軽傷を負っていた。

深追いはできない、だが目の前の闇に対しての後悔は抑えきれない。



霧島「総員、救命処置が必要な者の手当てを急げ!

   そして現在の状況を上に知らせろ!」



俺はー…と霧島勇吾は第二ゲートの奥へと足を進めた。













時同じく。ある少年は教室にて、

羅列した文字が淡々と写し出される紙の束を淡々と書いていた。


自分は違う、いや、違わない。

そういう人達のことを世間では勤勉家と言うらしい。


机に椅子をそして座って…

でもただ当たり前になってしまったことを

やっているだけだ。猿でもできる。


そんなことを僕は淡々と一人。

日が暮れその赤い光が僕を照らしている。

まるでライトステージに立ってるみたいの光だ。



少年「…もう夕方か……帰ろう。」



そう言って机の横にある鞄に教科書やノートをしまい

椅子を引いて立ち上がり、椅子を机に戻して下を見る。


何気なく見た床にもう日の光は無かった。

僕を照らしていた日ももう雲に隠れていた。



少年「……。」



無言のまま教室の扉に向かいドアノブを引こうとしたとき、

自動で回りガチャリとそれが開いた。

そして回した本人は俺を見て驚き後ろに倒れ尻餅をついた。



?「きゃっ?!……あ…育斗…。」



育斗「……!大丈夫?唯。」



尻餅をついた本人、木並唯(きなみ ゆい)は

手を差し伸べる草童歌育斗(くさわらべ いくと)によって

尻餅をついた状態からなんとか立ち上がることが出来た。



唯「…ふぅ……勉強してたの?」



育斗「切り替えが早いな……」



と笑うとドヤ顔でふふーんと鼻を鳴らすがそれを無視してそれに答えた。



育斗「数学の補習みたいなものだよ。」



唯「教えようか?」



そうしてくれるとありがたいんだけど…

と言い唯が右手に持っている紙を右手で指差した。



育斗「面接試験とかあるんじゃねぇの?」



唯「あー……いや無いよ!

  あるはあるけど…私は攻撃系統には回らないから。」



攻撃系統?と考えすぐにその答えは思い浮かんだ。



育斗「……そっか。狩人研修専門学校で学ぶんだっけ。」



唯「うん!そうそう。

  色々と魅力を感じてね!あそこに行くことにしたの。

  そうだ…!育斗は進学するの?」



とこの季節では当たり前のことを言われ数秒絶句した後答える。



育斗「僕らまだ中学生だから、進学以外あり得ないんじゃないかな?」



唯「うーん、もしかするとそうじゃないかもしれないよ?

  まぁ人それぞれだからね。」



人それぞれ…か。

だとしたら僕はどうなってしまうのだろうか。

受験までもう数ヶ月なのに進路すら決めていない。



唯「……大丈夫?」



怖い顔でもしていたのだろうか。

唯に心配され改めて気付く。



育斗「大丈夫だよ」



育斗はその先を言わずに口をつむぐ。

自分がもう進学なんかを望んでいないことを。

それでも僕は回りを騙して生きていくしかない。

進学するためのお金はない。


奨学金?どうやって払うんだ?

両親は他界した。

親戚もいないらしい。


両親が話してくれなかった。

そして葬式時も一人だった。

自然と泣かなかった。


一人で住んでいるがたまに幼馴染みの唯の、

その家族が家に招いてくれることはある。

だけれど僕には本当の居場所がもうない。


少しの間だけ唯のところで居候したけれど、

迷惑が掛かっていると思い

唯のお父さんと話してアパートを借りた。


飯はそこそこのものしか食べない。

両親が残してくれたのは唯一の写真とお金。

家は売ってしまったから何もない。


僕はただ、自分とかすれて見えなくなった

両親の顔の写真とお金を持って

この先生きていかねばならない。


いつまでも子供ではないし、

いきなり大人になってしまう。


楽しい時間も楽しくない時間もついには消える。


だから僕は孤独のままでいたい。


それだけでいい。



育斗「ねぇ…唯。」



唯「…?どうかした?育斗。」



育斗「決心がついたんだ。

   お前の親父さんに会わせてくれないか?」



唯「けっ……決心…?」



夕日のせいか唯の顔は少し赤く顔が少し強張っている。

ああ、受験のことで。と呟いたけれど


本当はそれよりも前についてしまった。

死ぬ決心だよという言葉は何故か喉に引っ掛かって口には出せなかった。


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