タイトル(仮)、彼女


今日も彼は泣いていた。


一人で残された子供のように、

肩を揺らして俯いていた。



「自分の居場所がここに本当にあるのか?」

「まだ僕は大丈夫なのか?」

うわ言を呟く彼を抱きしめたい思いを抑えるのも、_もう何度目だろう。

何も気にしないで済むならいつまでも、

_彼を引き止めていたい。

でも、それを彼は望んでいないし

現実的では無いこともわかっている。

だからいつもの様に、私は寝ているフリをする。

寝ているのだから、人肌を感じて

強く抱きしめてしまうのも仕方ない。



私が抱きしめたあと、彼はすぐに寝息を立てた。

いつも通りの安心した寝顔を見ていると

心が温かくなる反面、さっきのことを思い出すと

_苦しくなる。だからいつも優しく、

彼の頭を静かに撫でた。

それで何かが変わることがあれば、

_いいなって願いながら。



朝はいつも私が先に起きた。

朝の鳥の声や日差しを見ると今日も頑張るぞって、気持ちがいいから朝は好きだ。

でも元々朝が苦手だった彼が

自分で起きれる様になったのは、

_少し寂しいと思っている。

楽しみだった起こしに行く時間が、

彼の寝ぼけた可愛い姿を眺めていられないのは

絶対に惜しいと思う。


朝ごはんができる頃には彼が起きてくる。

「おはよう」_そんな一言でさえ、彼を見ていると幸せで顔が綻ぶのが分かる。

一緒に朝食をとる間、彼はいつも味わって

本当に美味しそうに食べてくれる。

それでも「美味しい」って言われるのは嬉しい。

_もっと喜ばしてあげたくなる。


彼が仕事に行く準備をし始めると、

どこか落ち着かなくなりそれを埋めるために

家事を進めていく。

それでも仕事に行く時間になると、苦しくなる。



彼はいつも「ごめんね」と悪く無いのに、

申し訳なさそうにする。

_だから私は精一杯、表情を繕う様にしている。


彼を送り出す前の、静かな触れ合いは

/とても心地良くてとても短い時間に感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る