3.入隊
「さて、どうしたものでしょう……」
私には今、ある困ったことが起きています。
実は……家がないんですよ。
ライトノベルでは、どこかの家の子供に生まれるとか、なにかしらで拾われるとかあるじゃないですか。
でも、生まれ変わった姿は、どんなものかは見ることができていませんが、そこそこ成長してるんですよ。まあ、足りないところはありますがなにか?
それに、普通の服もありますし。貧困して、道で倒れることもなし。
「あの……セリアさん、どうかしましたか?」
そんな困っている私に声をかけてくださる天使|(ここ重要)はアイリス・フェシリア。
元の世界では珍しい水色の髪に、人形のような幼げな顔立ち。きょとんとした顔が可愛らしくて、もう、食べちゃいたいくらいです!
……お見苦しいところをお見せしました。
ひとまず相談してみるべき……でしょうね! もしかしたら、なんてこともあるかもですからね!
「実はですね、私、今家がなくてですね」
「なにか深い事情が……!?」
「ああ、いえ、そういうわけではなくて、離れた場所から来たものでして、宿が見つかっていないのです」
「それはお気の毒に……」
こんな私のことを気をかけてくれるとは、前世は女神だったんですかね。
「それなら、うちに来ませんか!?」
「……え?」
突然なにを言い出すのでしょう。私が、アイリスの家に?
それではまるで、同棲ではないですか! もう、積極的なんですから!
しかし、これは助かりましたね。それではお言葉に甘えましょうか。
「アイリスがよろしいのであれば……」
「大丈夫ですよ! わたし、誰かとお泊まり会みたいなことしてみたかったんですよね~」
アイリスは自身の両手を握り、キラキラした瞳で語り始めました。
お泊まり会……確かに、私も憧れでした。まあ、来る友だちがいなかったんですけどね!
「アイリス、この街を案内していただいても?」
「もちろんです! いいですね、こういうの。友だちって感じで」
「トモ、ダチ……?」
「あっ、いきなり友だちだなんて、失礼でしたよね。すみません……」
「いえ、アイリスが私を友だちだと思ってくださっているとは考えてもみなくて」
なるほど、これが友だちですか。
昔は、「友だちとはなんでしょう?」という疑問が浮かんでからというもの、仲がよくなっても、友だちなのかがわからず終いでした。
蓋を開けてみれば、そんなことかと言うほど簡単なことだったんですね。
とはいえ、私にとっては初めての友だち。大切にしていかねばなりませんね。
◇
アイリスに案内されてやって来たのは、この街一と言われるほど大規模な商店街。
売っているものは、魔導書や魔道具……などではなく、普通に果物などのザ・商店街といったラインナップ。
街並みは古風、商店街は現代風、世界観はファンタジーとめちゃくちゃですね。
おや、あそこに見えるのは……
「アイリス、あのお店はなんですか?」
「そこは武器屋ですね。
武器屋に騎士団……! ようやくそれらしくなってきました!
それでは私も武器を揃えに……
ルンルン気分で駆け出したのに、嫌なことに気づいてしまいました。
「私、お金持ってないんでした」
「セリアさん、お金がないようでしたら、騎士団からの依頼を受けては?」
「騎士団に入るにしても、それまたお金がかかりますよね?」
「そうですね……五〇〇円くらいですかね」
円!? この世界のお金の単位って円なんですか!?
いよいよ世界観が迷子ですよ。小さい頃に私が迷子になったときよりも迷走してます。
元の世界と似ているなら、わかりやすくていいんですけどね。
「それなら、わたしがお支払いしますよ?」
「いえ、立て替えという形でお願いします。依頼をこなした収入でお返しします」
「わたしとしては、返していただかなくても構いませんけど……セリアさんがそうしたいのなら」
アイリスも納得してくれたようで、こくりと頷く。
ひとまずは騎士団に入る手続きをしましょうか。
◇
なるほど……、この世界には魔物的な存在はないようですね。
ドラゴンのような、巨大生物と言えばいいでしょうか。そういったものはいるようですね。
騎士団に来ている依頼は、ドラゴンなどの討伐、薬草の調達などが多いようですね。
受付はどこでしょう……
受付を探して辺りを見渡していると、アイリスが声を挙げる。
「あっ、セリアさん、あそこが受付みたいですよ」
アイリスの指さすほうを見ると、確かに銀行窓口のような場所が。
座っているお姉さんに声をかけてみると、受付で間違いないようです。
「あのー……騎士団に入りたいのですが……」
「入隊希望の方ですね? それでは、こちらから入隊したい部隊をお選びいただくか、ご自身での設立になりますが、いかがいたしましょう?」
既存の部隊に入るか、自分で設立ですか……
本来ならば、どこかに入るほうが楽でしょうけど、人とは極力関わりたくないものでして。
「設立でお願いします。アイリスはどうします?」
「えっ!? わたしが入ってもいいんですか?」
「もちろんです。友だちなのですから」
「友だち……はいっ! わたしもやります!」
手を挙げ、声高らかに宣言。せっかくですし、一緒のほうがいいですよね。
「ではお名前を」
「私はセリア・リーフです」
「わたしはアイリス・フェシリアです!」
ひとまず登録も終わったことですし、早速依頼を受けてみましょうか。
できれば、初めは簡単なほうがいいですよね。まあ、騎士団への依頼に簡単なんてあるわけないですけど。
討伐系は今はやめておきましょう。戦闘に慣れ始めてからですね。
となると……
「アイリス、これはどうです?」
私が見つけたのは『王女の護衛任務』。ここ《ラングエイジ》を取り仕切る王様がいるようで、その娘さんを護衛するというもの。
「王女の護衛、ですか……。いいと思いますよ?」
なんだか、アイリスの表情が曇ったように見えましたが……。彼女にも了承してもらえましたし、受けましょうか。
「すみません、この依頼を受けたいのですが……」
「『王女の護衛』ですか? かなり難度の高いものですが」
「? 特に難しそうには見えませんが」
「いえ、こちらにバツが一〇個ついているのですが、これは、任務の失敗回数を表しているんです」
一〇回の失敗……? おそらくは、依頼を受けた人たちの死亡を意味するのでしょう。
それでは、どうして今日まで狙われていなかったのでしょう? 依頼書が貼り出されているならば、今は任務を受けている人がいないはず。
狙わなかったのか、狙えなかったのか……
相手の真意はわかりませんが、かなり重要みたいですね。
「なるほど。それでも私は受けますよ。今の《ラングエイジ》があるのは、王様のおかげなのですから。その娘さんを護りたいんです」
なんて、それらしいこと言ってますが、護衛任務って憧れだったんですよね。カッコいいじゃないですか。
「くれぐれもお気をつけを。それとセリア様、アイリス様からは目を離さないように」
彼女の言っている意味はわかりませんでしたが、「はい」とだけ答え、のちの手続きに入りました。
「では、護衛任務にあたって、戦闘が予想されます。ご自身の《言霊》はお調べになられましたか?」
「はい! わたしは《百発百中》です!」
これって、あまり大声で言わないほうがいいのでは?
「私は《全知全能》です」
「《全知全能》……? それは本当ですか?」
「もちろんです。調べましたから。なんなら、ここで調べていただいても」
なにやら、目を見開いて口をパクパクさせています。
うーん、やっぱり驚かれますよね。
「《全知全能》と言えば、かつて《ラングエイジ》を支配していた魔王《セルシア・リーフェル》と同じ力です。今は滅んだようですが」
まさかの真実でした。世界に一人とは、こういう意味なのですね。名前が似ているのが少し癪ですが。
それよりも、この展開は……
「あ、もしかして、魔王の生まれ変わりとか疑われてます?」
「はい、少し……」
「そんなことはないですし、仮にそうでも支配なんてしませんよ」
私の様子を見て、お姉さんも納得したみたいですね。よかったです。であれば、任務を受けましょうか。
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