第一章 《王女護衛》編
1.転生
私――言詠詩葉は、どこか暗闇を漂っています。動くことはできず、話すこともできませんが、意識はあります。
頭の奥底から、昔の出来事が浮かんでは消えて。これが走馬灯……なのでしょうか。
私は、一六歳という若さで死んでしまいました。ぴちぴちの女子高生だったんですよ? 病弱で外にはあまり出られず、ほとんどが病室でした。それでも、なんだかんだ楽しかったです。
元の世界に戻れないのは少し残念ですが、仕方のないことでしょう。私は聞き分けがいいのです。
前世の記憶は残っているようですね。偶然なのか、神様からの計らいなのかはわかりませんが、これは僥倖でした。
私の言語能力を活かせる場所に行くのに記憶がなくなっては、話にならないですもんね。
神様からは健康体をいただけるみたいですからね。今までできなかったことをたくさんやりますよ!
たとえば……友だちと遊んだりしたいですね。あとは運動とかですかね。
しかも最強の力をもらえるんです。楽して生きてやりますよ!
せっかくですから、とびきりの美少女になりたいですね。恋愛とかもしてみたいですし。あ、でも、私は男性には興味ないですよ。昔イジメを受けてからはすっかりと冷めましたよ。一〇〇年の恋も冷めました。恋したことないですけど。
おや、だんだんと明るくなってきましたね。
あちらの世界に到着するんでしょうか――
◇
気づけば見知らぬ場所で眠っていました。
ここはどこでしょう。草の上……草原でしょうか? でもなんだか雲が近い気が。もしかして……
「ここって山ですか!?」
どうしましょう。登山経験などありませんし、私に下山するほどの体力もありません。
一体どうすれば……。とりあえず、下りてみましょうか。
……あれ、全然つらくないですね。健康な証拠です。
ふっふっ、ここでシミュレーションゲームでの戦略を活かすときです!
辺りを散策してみると、木々や岩の少ない場所が見つかりました。麓の方を見てみると、なにやらレンガ造りの建物がちらほら。
あそこが《ラングエイジ》で間違いないでしょう。
障害物のない直線の道は……見つけました。
ここまで来たら簡単です。ここを一気に――駆け下りる!
「うわあぁぁぁああ!!」
マズイですね。思ったより速いです。これが、神様の言っていた、高い身体能力でしょうか。
私がここまで速く走れるとは……過小評価がすぎましたかね。過小評価がすぎた、なんて傲慢な言葉を使う日が来るとは……
それより、こんなに冷静に考えている自分が怖いですよ。
ですが、この分ならもうすぐ――
「うわっ、危ない!」
下り切った先に人がいるとは思いませんでした。
「いっつつ……すみません、大丈夫ですか?」
「はい、わたしは大丈夫です……」
お互いに頭をさすりつつ立ち上がる。
相手の方を見ると、そこにはなんとも可愛らしい少女が。まさに私の好み。このあとデートでも――こほん、失礼。
しかし水色の髪とは珍しい。ストレートというシンプルな髪型であるにも関わらず、これほどオシャレに見えるのは、彼女の美しさが故でしょうか。
「あの……」
なにかに困っている様子ですが、どうしたのでしょう。
彼女の視線を追うと、そこには私の手が。無意識のうちに髪に触れていたみたいです。これはとんだ無礼を。
「すみません。あなたがあまりに綺麗でしたので……」
「きれっ……!」
少女の顔が赤くなりました。すごく可愛らしいですね。
そうだ、私としたことが、あれを忘れていました。
「お名前をお伺いしてませんでしたね」
「あのっ、わたし、アイリス・フェシリアと言います! あなたは……?」
名前は自分から名乗るものでしたね。これまた失礼を。
それにしても、アイリスですか。外国の方みたいな名前ですね。
……この世界って、外国みたいな名前なんですか!? 《四字熟語》がどうとか言うもんですから、日本名だとばかり。なにも考えてませんよ……。とりあえず自分の名前から取って……
「せ、セリア・リーフと申します」
「セリアさんですね、よろしくお願いします!」
我ながら安直な名前をつけたものです。苗字の『言』を英訳して少し変え、リーフに関しては下の名前の『葉』を訳しただけですからね。
「セリアさんは、これから《ワーディリア学院》の試験に行くんですか? 《
アイリスが目を輝かせながら訊いてきました。
これから、アイリスはどこかに受験に向かうようです。
学院ですか……。学校には行ってみてもいいかもしれませんね。あまりいい思い出はないですが。
ここで下手に詮索されても面倒ですから、ひとまず話を合わせておきましょうか。
「そうなのですが……道に迷ってしまって」
「道に迷って山に……? まあ、いいです。それなら、わたしが案内しますよ!」
アイリスが私の手を取り、学院までの案内をしてくれるそうです。人の手って柔らかいんですね。これなら何時間でも堪能――忘れてください。
手を引かれながら周りを見てみると、よくアニメでも見るような出店や住宅が建ち並んでいます。
ファンタジックな世界ですから、異世界語のようなものを使うのかと思っていたのですが、普通に日本語ですね。なんというか……読めるのでありがたいんですけど、夢が崩れたと言いますか……
◇
到着した場所は、街の大通りの端に位置する《ワーディリア学院》。これがまた大きくてですね。アニメのお金持ちキャラの家よりも……三倍くらいですかね。それほどまでに大きいです。王族のお城と言われた方が信じられますよ。
《言霊》を持っていたら、とのことでしたが、おそらくは神様の言っていた『四字熟語の力』でしょう。
……まあ、こちらの人たちが四字熟語を知っているかは定かではありませんが。
私は、自分の《言霊》を知らないのですが、大丈夫でしょうか。
私はアイリスに手を引かれ、導かれるままです。
「セリアさん、ここが試験会場ですよ!」
とても広いですね。なんのための施設なのでしょう。体育の授業ですかね?
その部屋には、たくさんの人が並んでいます。
うーん……一〇〇〇人弱はいるでしょうか。
案内係らしき人に、列に並ぶように言われます。ここで合格、果ては首席とか取ってみたいものです。
「これより、《言霊》の《文字起こし》をおこなう」
《文字起こし》……また新しい言葉ですか。こんなにポンポン新しい言葉を言われては、私でなければ覚えられませんよ。
おそらくですが、《言霊》を調べる、といったところでしょう。
アイリスの番になりました。
こちらにピースをして、すごく喜んでます。いいものだったのでしょうか。
ついに私の番に。目の前の水晶に手をかざせばいいみたいです。
なにも見えませんね……。教諭から伝えられるのでしょうか。
どうしたんでしょう。突然目を見開いて驚き始めました。
残念だったのでしょうか。神様はなんてものを渡してくれたんですか。
えー……、教員の方々が集まって、緊急職員会議が始まってしまいました。
周りからも、相当ひどいものだと思われているらしく、くすくすと笑っているのが聞こえます。
アイリスも心配になったのか、深刻そうな表情で見つめてきます。彼女だけが癒しです。
「セリアさん、大丈夫ですか……?」
「どうでしょう。私にもさっぱりです。相当残念なものだったのでしょうか。でも、アイリスが心配することはないですよ」
裾をくいくい摘まむ仕草が可愛すぎるのですが、私は理性を保てるでしょうか。
ようやく会議が終わったみたいですね。
「あ、あの、お名前を伺っても……?」
「セリア・リーフです」
「セリアさん、ですね。それで……《言霊》についてなのですが」
職員さんが口をモゴモゴとさせ、言い淀みます。
うわー、聞きたくないですね……。すごく言いづらそうにしてるんですよ? 嫌な予感しかしませんよ。
「セリアさんの《言霊》は――」
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