8-2 公園でピクニックとか俺、なんの青春だよw

 翌朝、アパートにはなんだかけだるい空気が漂っていた。なんといっても住人に元気がない。古海、野花はあまり口も開かず代わりばんこにあくびしていて、目の下にはクマができている。まあ俺も眠い。煩悩と戦うのに忙しかったからなw これも成仏の修行だ。


 ミントはいつもどおりだが例によって無口なので、やはり静かだ。


「昨日、とってもいい夢を見れた気がします。なんだったかしら。そう、なんだか間抜けな犬の背中に乗って、天竺に向かう夢。脇には癇癪持ちの沙悟浄がいて。うふっ。西遊記ですね」


 ひとり元気なのはティラだ。肌もみずみずしくツヤツヤしていて、楽しげに朝のトーストを頬張っている。


「そうか……良かったな」


 俺のあくびが野花に伝染する。野花も寝不足みたいだな。もしかして俺達がもぞもぞしてたのに気づいたとか……ないか。てか、ないといいなあw


「あふ……」


 垂れ目のまなじりから涙が尾を曳いている。


「春のせいかしら、眠いわ。——春眠暁を覚えずね」

「ちょっと予定を変更しない?」


 古海が言い出した。


「古墳公園があるじゃない。今日暖かいしさ、あそこの芝生でお昼寝しようよ。コンビニでサンドとか買ってピクニックってことで」

「いいですねえ。ピクニック」


 ティラはうれしそうだ。


「楽しそう……。あっねえ。ケルちゃんも連れて行って平気かしら。逃げないかな」

「大丈夫」


 ミントはそれだけ言った。


         ●


「ねえ」


 公園へと向かう道すがら、ふたり並んで歩いていた古海が、ふと口を開いた。


「あたし思ったんだけど……」

「なんだよ」

「耳貸して」

「うん……」


 ちょっと腰を落としてやった。古海がつま先立ちになる。


「ねえ、あたし決めたよ」

「なにを」

「直哉のことよ。決まってるでしょ」


 睨まれた。


「あんたは私が下男にして、い、一生かわいがって面倒見てあげる。冥土になんか行かせないもん」

「古海……」


 なんつーこと抜かすJCだ(ネクロマンサーだが)。


「で……でもまだ未熟で術式もうまく組めないし、それまでの間は、直哉が私をかわいがって面倒見てよ」

「俺がお前をかわいがって……」

「そっそうよ。繰り返さないで。恥ずかしいから。……昨日のティラみたいに優しくしてもらうわ」


 頬が上気している。


「これでチャラだもん。そっそうでしょ……」


 じっと見つめている。しばらく考えてから、俺は首を縦に振った。


「わかった。遠慮なく俺に甘えるといいさ。辛かったな。一族の血が流れているからお前だって素質は高いはずなのに。たまたまうまく行かなくて」

「わっ私は別に……」

「もう黙れ。お前はいい子だ。俺が護ってやる」


 古海の頭をそっと撫でてやる。


「バッバカ。こっ子供扱いするな。あたしは——」


 古海の瞳が潤んだ。


「あっあたしは……」


 涙がこぼれ落ちる。


「ほら」


 直哉はタオルを渡してやった。


「し、しもべ。手をよこせ。ひっぱってくれ」


 なんとかそれだけ口にすると、タオルを顔に当てた。直哉は手を持ち、ゆっくりと誘導してやる。直哉の手を、古海がぎゅっと握り締めた。


「直哉。わっ私は……」


 あとなにか言ったが、小声でよくわからなかった。


 めんどくさい奴だが、ただ強がってるだけだもんな、どう見ても。そこは毎日調教されてるうちに(w)気づいたし。


 公園に着くと、芝生に座り、軽食で腹を満たして談笑した。それから全員で輪になって横になった。そのまま空を流れる雲を見つめていた。


「空は広いわね。それに高い……」

「ええ。私もいつか守護天使になれたら、あの空に幸せな人を導きたいわ」

「そうだな。俺も美少女天国に逝くしな」

「私は、またこうしてみんなと空を眺めたいわ。十年後も二十年後も。きっと私たちの周囲に、子供の笑い声が響いているわよ」

「……ミントも」


 輪の中心にはケルちゃんがいた。


 青空だが雲の流れは速い。雨が近いのだろうか。猫はしきりに顔を洗って、空を仰いでいる。

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