7 お姉さんの福音

7-1 懐かしい来訪者

 古海がいい加減にぶち抜いたせいで、二部屋の境がギザギザだ。ひと間として運用するにも支障があるので、中間テストが終わったのを契機に、俺はきれいに直すことにした。


 文句ばかり言う古海とふたりで、壁のカスを削り取る。ティラとミントがそれをゴミ袋に放り込んでゆく。


「あーあ。ホコリまみれになっちゃってさあ……。美少女天才ネクロマンサーの美貌が台無しだわ」


 頭に積もったホコリを払っている。


「黙って削れって。あと少しだろ」

「あんた、生意気なくせに奴隷体質ね。ますますあたしのしもべに向いてるわ」

「安心しろ、ちゃんと使役させてやるから」

「ふふっ。楽しみにしてるわ」

「部屋のレイアウトを考えないとな」

「あと、小さなソファーひとつだけいるわね」

「それって……」

「ベッドはあたしとティラ、ソファーベッドがミントと猫ちゃん。ソファーはもったいないけど、あんたに使わせてあげるわ」

「だと思った」


 玄関チャイムが鳴った。


「誰かしら、まだ朝も早いのに」

「苦情じゃないのか。チェーンソーで大騒音出したし」

「もし大家さんだったら大変ね。部屋つなげちゃってるし」

「追い出されたらお前のせいだからな」


 軽口を叩きながら扉を開けたが、驚いた。ドアの前に女子がひとり立っていたからだ。柔らかくウェーブのかかったミディアムヘア。垂れ目気味の瞳で、優しく微笑んでいる。


「なおくん……」


 感慨深げに見つめている。その面影に見覚えがあった。


「も、もしかして……のんちゃん」

「ふふっ全然変わってないね」


 俺は、女子を頭のてっぺんから爪先まで眺め渡した。


「の、のんちゃんは……きれいになった」

「あら。上手になったのね」


 首を傾げた。


「最後に会ってから三年……いや四年ぶりね。そりゃ大人になるわよね」

「どうしてここを……」

「しおんちゃんと偶然会って教えてもらったのよ」

「しおんと……」

「うん。……ねえ、入っていいかな」

「あっごめん。ぼーっとしちゃって……」

「やだ、なおくん。しっかりしてよ」


 女子はころころと笑った。


 おじゃましまーすと言いながら、俺の幼なじみ、八神野花ねりがみのばなは「魔窟」に足を踏み入れた。

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