第0.09ー07話 拳技 VS 肘技(ケンギ VS チュウギ)

 (なーるほど。なかなかのモンじゃねーか。)


 ――シュッ! 

 ――――シャッ……、シュッ!

 

 左ジャブが鋭く空気を切り裂く。

 長いリーチから繰り出されるジャブは、素人にしては想像以上に良くできていた。リズミカルなステップと上体の円の動き、コンパクトな構え、速い引手が作り出す連撃。かわすだけなら余裕だが、それじゃあ何も片付かない。


 (そう来るなら、こっちは……アレで行くか。)


 敵の動きに合わせてステップを踏む。脱力状態で肩甲骨を回しながら両腕を顔の前に上げる。一見ユラユラと揺れているだけの腕だが、今はこれでいい。

 ジャブが俺の顔面を狙う。攻撃の軌道を確かめながら余裕でかわす。

 なかなかのスピードだが、天狼派古流から見れば知れている。


 (ボクシングも空手も拳技けんぎとしての動きは直線的だからな……。

 この程度の速さなら、俺の間合いに入るのも楽なもんだ。

 さて、そろそろ右のパンチを使ってくる頃合いか……。)


 今、敵のジャブが放たれた。俺はちょっと大げさなアクションでそれをかわし次の攻撃を誘った。そう、『右』のパンチを撃ちやすい様に。

 案の定、コンビネーションの右が飛んで来る。ストレートだ。

 魔族の力なのか、かなりの威力だが想定内だった。


 (見せてやるゼ! 

 ECQCをアレンジして天狼派古流に昇華させた肘技ちゅうぎを。)


 揺らした上半身を動きの流れのまま軽く右に捻りながら敵の右ストレートをやり過ごす。敵の右腕が戻る前に超近接戦の間合いに入る……のと同時に右肘で敵の右腕をかち上げる。もちろん、肩甲骨を回して伝わった波動を込めた。引手が間に合わず軌道を逸らされた事で少しバランスが崩れる。


 苦し紛れに左フックを繰り出す敵。

 右にステップしフックを左肘で受け流すと同時に右肘を上段から振り下ろし、こめかみに叩き込む。目一杯の波動を込めた一撃だ。

 敵がよろめきながら後ずさる。


 液体金属の塊を相手にしている様な感触は変わらなかったが、攻撃が通った手応えを感じた。すかさず敵を追撃する。

 声にならない叫びが聞こえる。俺の反撃が予想外だったのか、今度はコンビネーションの連射が俺を狙う。


 (この程度のパンチ、全部叩き落してやるゼ!)


 両の肘を使い、的確に敵のパンチを射抜く。普通の人間にこの技を使えば拳が確実に砕けるだろう。

 超近接戦では、やはりこの肘技ちゅうぎは使える。

 7発のパンチを肘で貫いたところで敵の攻撃が鈍った。


 (もらったゼ!)


 一気に距離を詰め敵の懐に入る。零距離ゼロレンジの間合いだ。

 左右の肘で先程と同じ様に両腕と肩に波動を込めた連撃をブチ込む。

 苦悶の表情で叫びを上げる敵。

 痛みと痺れ、そして動かしたくても動かない腕がダランと下がる。


 トドメをさす時が来た様だ。

 魔族に堕ちた者よ……、【古き狼の力】を以て塵となれ。

 俺は静かに呟いた。


 「これで終わりだ……。」




 ※BGM「Battle of Metal」MARINO、SEXUAL、RAJAS、HURRY SCUARY


 


 

 


 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る