第0.04話 狼と魔族(オオカミとマゾク)

 「なんでお前さんが【天狼派古流てんろうはこりゅう】の事知ってる?

 あれは……、確かに古くからある技だが人を殺める事に特化した古武術だ。

 古武術が魔物に対して使えるなんて話きいた事ねーぞ。」

 

 そうだ、俺は1600年以上の永きに渡り時代の陰に潜み闇に生きて来た古武術【天狼派古流】の継承者って事になってる。

 もっとも、戦国時代ならともかく今の世の中でこの技を使う事なんてまず無いわけだが。

 【天狼派古流】は純粋に人殺しの技だ。使えば捕まるだけじゃ済まない。


 「古来、狼とは誇り高く純粋な生き物なのだ。

 狼に噛まれたニンゲンが人狼になったなんて話は、魔族からしてみれば出来の悪い作り話でしかない。

 現に我々の版図である魔族界にも狼は居るのだ。


 その一族は魔族の中でも抜きん出て戦闘力が高く、また気高く誇り高かった。

 我が王が……、アタシのお爺様がもっと若かった頃は魔族界に仇為さんとする不届き者相手に肩を並べて闘ったと何度も聴いた。

 であるならばこの世界の【狼の力】も使えると考えるのが道理であろう?


 そして導きにより我々は巡り会い、予想通り汝は邪悪なる者をその手で倒したのだ。先程は命令だと言ったが訂正させて欲しい。我は今一度頼む。

 汝の【古き狼の力】を貸して欲しい。

 ――――どうだろうか?」


 ここまで一気に話した魔族の偉いサン、イリス・ダークシュナイダーの瞳には強い決意にも似た炎が宿っていた。そうか。これは、全部本当の話なのか。

 それにしてもこのお嬢さん、さっきまでのイケイケというかツンデレにも似たキャラが見事に崩壊したなー。あぁ、コッチが本来のキャラなのか。


 しかし……だ。いくら【天狼派古流】が魔族相手に使えるってもなー。

 使う俺自身は普通の人間なんだよな。

 

 「話は大体理解できたし、今の時点で疑う点も見つからん。

 イリスの言ってる事は恐らく事実なんだろうよ。

 でも、敵は魔物だぞ。

 人外の者を相手に普通の人間がまともに闘えるとは到底思えねぇ。」


 「そう言えば、憶えていないのだったな。


 モチロン闘いには我も力を貸そう。

 この世界に来て間もない故、主に攻撃に関する力は環境に順応するまで封じられているがそれは汝の【天狼派古流】で十分であろう。

その代わりに相手のあらゆる魔力や術からは完璧に汝を庇護すると誓おう。」


 俺は今、恐らくとてつもなく重大な選択の曲面に立ってるはずだ。

 なのに何故か心躍る自分が居る。

 血もたぎってる。こんな感覚、以来じゃねぇか。

 いいだろう! この話、乗ってやる!!


 「わかった、いいぜ。

 俺の【力】でよきゃ貸してやるよ。」




※BGM「Roll Over」 / WOLF


 

 

 

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