第61話 Y子の黒髪
「・・正直にいう、自分は親もいないのと一緒だよ。君にえらそうなことは何一つ言えないんだ。義父にしばきまわされ、実の母親には守ってもらえず、それで家出少年のまま大人になった。」
どうしてだろう、みどりにも言っていないような、自分の過去を、Y子には話した。
彼女はそういわせるみどりにはない何かを持っている。
Y子は月明かりの中、こちらを見ていた
「・・それで、ひねくれて・・ひねくれて、身体だけ大人になった。気づいたらひとりぼっちで生きていたんだ。」
自分は自分の両手の掌を見て、思わずそういってしまった。
「・・そんなん・・・いわんでもぎんちゃんは苦労しとったってわかっとったわ。」
「・・うちのオヤジもね。・・銀ちゃんのお父さんとちょうど同じような感じじゃったよ・・しかも博打にのめりこんどった。お母さんも、タカシも、私も、文句言うたらぶちまわされる。」
「・・君のお父さんは死んだときいたけど?」
「・・ふうがわりいわいね、あんな親。おかあさんはとっくに別れて、『死んだと言うことにしときんさい。意味は同じじゃけえ。』って言われた。」
自分は思わずY子をずっと見つめてしまった。
「・・ぎんちゃんは、酒も飲まんし、タバコもすわん。賭けごともせんじゃろ?わたしわかっとるよ、なんでか。」
「・・・。」
「・・私とぎんちゃんは一緒じゃ無いけど似とる。私がなんでレディースに入るまでつっぱったかわかる?強うならんかったら男に足下すくわれるけえよ。・・」
「・・・」
「恋とか愛とかもそうじゃけど、私、ぎんちゃんが好きなんはそれだけじゃない。ぎんちゃんはやくざなんて、なろうと思えばいつでもなれたじゃろ?」
自分は心底驚いた。
「ぎんちゃんがいうとった言葉、今でもわたしおぼえとるよ・・『人生は二つしか無い、状況を受け入れるか、状況を変えるための責任をとるのか。』」
彼女は銀次郎の手をとってその黒髪へと導いた。
「ええ?こんな私がこんなこというの恥ずかしい。でも私わかったんよ、人は変わろうと思えば今日からでも変わることができる・・そうじゃろう?私、たとえぎんちゃんがおらんようになっても、この髪はもう二度と金髪にしないよ。」
「・・・。」
「・・好きな人は・・・生き方さえ変えてくれるんよ・・」
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