第10話 梅さんのためにできること
私はやっぱり茶会のみんなのことが好きだ。自分に出来ることがあるなら何かしたい。憑かれることに対しての不安はあるがやってみなければ解らないこともある。もちろん、タチの悪い霊なら絶対に駄目だけど。一週間ほど考えていたが迷うならやってみようと思うようになった。だって、心残りを持ち続けたままこのビルに永遠に留められるなんて辛すぎるから。
夜中の茶会でみんなに伝えたら、本当に良いのかと何度も聞かれた。だが、一度覚悟を決めたらもう迷うことはない。
先ずは梅さんの心残りをなくす手伝いをすることにした。
手順を茶会のみんなと相談したが憑いている時間はやはりできる限り短いほうが好ましいだろうということ。長くなると肩が重く感じたり、ひどくなると自分と憑いている側が一体化してしまうこともあるそうだ。他にもいろいろと不都合なことが起こるかもしれない。憑いている時間を最小限にするためにできる限りの準備を整えておく。
まずは梅さんの記憶をもとに古い地図と現在の地図を照らし合わせてみる。
梅さんの生家は大阪で料亭を営み、北の新地にあったその店には偉い軍人さんたちもよく利用していたそうだ。
北の新地というと大阪駅周辺のことで梅田ともいわれている。電車の音が響いていたことから線路や駅からはそれほど遠いところでもないのだろう。また、梅さんがいたころ既に大手デパートもあったそうだ。もちろん梅さんはその存在を隠されていたので連れて行ってもらうことはなかったが、時折母からの土産だと離れに届いたことがあった。
当時は目が見えていなかった梅さんの情報は少なかったが大きな駅の近くで線路の南側だとわかったので何とかなりそうだった。
スマホで昭和初期の地図を見てみると大まかな位置は大体わかったような気がして、現在の地図をプリントアウトして予想範囲を赤ペンで囲んでみる。
始発に乗ってその日のうちに戻ってくるために乗換案内アプリで始発と終電を確認した。
それから移動中の注意点も考えてみた。普通に会話すると他人からは梅さんの姿も声も分からないので、私は不審人物にされてしまうだろう。そこで、梅さんはしゃべっても周りには聞こえないのでそのままで良いが私はからの言葉はスマホへ入力し、梅さんにスマホの文字を読んでもらうことにした。梅さんは亡くなってから目が見えるようになっていて良かったと思う。
梅さんの生家跡を探す旅の準備を自分なりにしてみたが無事に行き着いたとして、そこにかなり昔に亡くなっているだろう梅さんの飼い猫、否、家族のトラの魂がそこに居続けているとは限らない。いや、可能性はかなり低いだろう。
私の行動は梅さんを更に傷つけるだけなのかもしれないと思うと急に不安になってきた。
でも、たとえ会えなくても梅さんがそこに行くことで梅さんの心残りがなくなればと願うばかりだ。
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