第30話 17-(ワンセブンマイナー)


 着実に人口が増加していく乙姫市。つい先日人口が80万を超え、名称を乙姫コロニーから乙姫市に変更したばかりだ。通常は人口が100万を超えると市を名乗るのだが、皇国首都の看板かんばんを背負っているため急遽きゅうきょ「市」を名乗ることとなった。今の公募移民とそのほかの人の流入状況からいって、3、4カ月後には人口100万を超えるとみられている。


 急速に市街の整備も進んでおり、現在は200万都市対応のインフラが整いつつある。ここでいうインフラは交通網、上下水道、ごみ処理、エネルギー関連、情報関連、教育関連、医療関連そう言ったハードだ。そしてそれはいまも継続的に拡大整備されている。またエネルギー関連についていえば、人口数億の中規模地方惑星に匹敵する規模がすでに整備されている。


 旧開拓コロニー中心部を望む丘の上にはかねてより建設が進められていた白亜の外観に黒い屋根瓦の皇居が完成しており、皇王ご一家はすでにURASIMAの寓居から、こちらに移られている。まだ敷地の内、外の外構、植栽などの工事は継続中だが生活に不自由な状態ではない。


 そして、皇居の丘のふもとにある中央研究所の出先研究所。

 こちらは現代的な意匠の建物で、皇国内各所にある中央研究所の他の出先研究所から人員を受け入れ続けており、体制も整えられ着実に研究所の体裁を整えている。


 この出先研究所で、究極の蓋然性演算装置、ワンセブンの未来予測機能を取り払い生産性を向上させた演算装置の開発がスタートして約1カ月。新演算装置の開発が完了すれば研究所隣で現在建設中の生産工場で月産16個体制で生産する予定である。


 現在この研究所の実験棟においてXC17-エックスシーワンセブンマイナー、完成後は、C17-シーワンセブンマイナー、または単に17-ワンセブンマイナーと呼ばれる演算装置の最終性能試験が行われている。山田少佐は、この開発プロジェクトのチーフとして研究所に出向いて指揮を執っており、この研究所内での地位は主任研究員ということになっている。



「ワンセブンマイナー、起動試験開始」


 ……


「ワンセブンマイナー、起動、負荷率10%、5%、3%、0.2%、定常負荷率、安定しました。動作問題ありません」


「演算性能試験開始」


「平均負荷率25%、演算速度安定しています」


 ……


「ワンセブンマイナー、各種性能試験終了しました」


「みなさん、ご苦労さま」


 ワンセブンマイナーは未来予測機能を持たないため、接続されるデータベースは研究所内に独立して作成された限られたものであり外部への接続は物理的に不可能となっている。


 データベースに接続以降も、ワンセブンの時のような異常な負荷変動もなく、各種演算速度は要求水準を満たしており、ワンセブンの提供した演算解との照合も全一致を確認し、実験は成功裏に終了した。


 あとは、量産化に向けた調整とラインの製造だ。ワンセブンがそういった時間のかかる部分について、対応を進めているので、製造ラインの機器などはすでに搬入設置済みだ。最初の製品ロットは、近いうちに日の目を見るだろう。それらは、新造艦用のものを除き、第3艦隊の戦闘艦の中央演算装置として既存装置と換装する予定である。


 第3艦隊の戦闘艦はTUKUBAのような、一撃必殺の対消滅砲弾を持つわけではないが、おとり弾を混ぜた100発100中の砲弾が初撃から降り注げばいかに砲弾を近接防御火器で防御しても敵艦はまず沈む。敵の反撃前に短距離ジャンプで敵の照準を外すこともできるわけだから、被弾なしで敵艦隊をたたき続けることができる。最強打撃艦隊が出現する日も近い。

 


 そして、こちらは、第一ラグランジュ点L1に建設中の人工惑星、大型艦製造工廠DAIKI。竣工式を終え、新艦種、巡洋駆逐艦を大型艦用船渠せんきょにおいて各船渠せんきょ2隻ずつ計4隻の建造が始まった。巡洋駆逐艦は巡洋艦並みの艦体に駆逐艦並みの小口径砲を多数搭載し、単艦での通商破壊任務に長期間就くことができる新艦種としてワンセブンによって新しく設計されたものである。小口径砲といっても、ほとんどの砲弾が命中するわけで、相手艦が巡洋艦程度であれば、短時間で廃艦まで艦上構造物を破壊することができる。


 巡洋駆逐艦が竣工した後は、TUKUBA型2番艦IKOMA、3番艦KURAMAを起工する予定だ。TUKUBA型は主砲の軸線砲が20センチしかないため分類上は重巡洋艦だが、その破壊力から巡洋戦艦に分類することした。


 また、新造TUKUBA型二艦用に特殊砲弾の製造がすでに始まっている。


 新たにTUKUBA型の2隻が就役すれば、TUKUBAを含めて3隻でのXYZ3軸全方向からの特殊弾での殲滅戦が可能になる。これは、当分先の話しではあるが、第3艦隊を派手に活躍させ、人類宇宙の耳目を集め、TUKUBA以下3艦の強襲艦隊が敵の命脈を断つ。そういう予定だ。


 まずは輝玉星系以外で、この竜宮星系、乙姫にまつろわぬ皇国構成星系、いわば、北条系星系へ、第3艦隊と強襲揚陸艦をセットで送り込み、帰順を促す。


 そして、輝玉星系への逆侵攻をしかけ、旧皇都惑星、出雲を航宙軍から奪還する。





[あとがき]

DAIKIは漢字で書くと大亀です。

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