第74話 平手打ち
「という事でちょっと周囲を見回ろうと思うんだ」
すでに陽は落ち、青い三日月が辺りを薄く照らしている。
仮眠を終えたフィーネに、盗賊が偵察に来ていた事を話し見張りの交代のタイミングで周囲を見てくると告げる。
「危険です!もし近くに盗賊がまだいたらどうするんですか!」
「大丈夫だよ。ポシル(分裂体)も留守番として置いていくしね。こう見えてオークより強いから安心してよ」
「はい。……って違いますよタカヤさんが危険だって行ってるんです!」
勝手に抜け出しても良かったんだけど、いないって気づかれたら余計混乱するだろうし。まぁでも反対するよね。
「う〜ん。分かったよ」
「そうですよ!なにもタカヤさんおひと……タカヤさん?」
目の前でいきなり人が消えると流石に混乱するよな。ちょっと言葉だけでは説得が難しそうなんで、目下【気配遮断】を行使中だ。
目の前にいるのに認識できない。フィーネは急に消えた僕をキョロキョロしながら一生懸命探すが絶対に見つからないだろう。。。
「タカヤ さ ん タカヤ さ ん どこですか?さっきまで目の前に?えっ怒って行っちゃったんですか?タカヤさ〜ん」
さすがにやり過ぎか……。目の前のフィーネが半ベソになってきている。
取り敢えず後ろからフィーネの肩をポンっ
「ひゃー!っんぐ んぐ 」
あっあぶねー。そんな大声で叫ぶとは思わなかった。いや冷静に考えればそりゃ叫ぶわな。
フィーネの後ろから口を抑え、声が出ないようにしているが、少し斜め後ろを見るように視線をこちらに向けたフィーネの目からはボロボロ涙が出ている。
そして僕だと気付いたようで少し落ち着いた所で手を離した。
バチン!
「タカヤさんのバカー!!」
フィーネの右手の平手打ちが僕の左頬を捉え、左頬がジンジンと痛みを増して行く。
「あー。フィーネ?ごめんね」
「ごめんじゃないです。酷いです。酷過ぎです。私一生懸命探したんですよ!怒らせちゃったって思ったんですよ!」
「ほんとゴメン。ただ僕のスキルを見てもらってフィーネに安心して欲しかったんだよ。認識できなかったでしょ?僕ずっと目の前にいたんだよ」
涙で充血した目を大きく見開き、腕組みをして怒りをあらわにするフィーネにもう一度目の前で【気配遮断】を発動させる。
「えっまた消えた。本当に目の前にいるんですか?でも でも」
目の前に手を伸ばし触ろうとするが、実際触っていても触っているという認識を阻害され、感触は伝わらない。そして、触られたまま【気配遮断】を解除する。
「あっ」
胸辺りをを触っていた手に急に感触が伝わったのだろう、勢いよく手を離す。
そして頬が一気に赤くなり、下を向いてしまった。
「これで分かってもらえたかな。僕は気配を消せるんだよ。それこそ目の前にいても分からないほどにね。だから安心して、ちょっとこの周辺を偵察して来るだけだから」
「ん〜分かりました。気をつけて下さいね。でも叩いた事は謝りませんよ!本当にびっくりして怖かったんですから!」
うん。プリプリ怒るフィーネも可愛いね。そんなこと言ったら怒られるから言わないけどね。
フィーネに3時間以内に必ず戻る事を告げ、何かあったらポシルに話せばこちらにも伝わる事を説明してテントから外に出る。
【追跡眼】
薄い緑の帯が2本峠に向かい伸びて行く、その気配を辿ると2人とも同じ場所にいることがわかる。
ここは彼らの追跡を始め、2人が合流し移動した後に向かった先で、1時間程多少の移動はしているが留まっている場所であり、おそらくここが本拠地であろうと当たりをつけている。
気配遮断を掛けたまま、商隊のテントを抜け峠に入る。緑の帯はアジトをすぐに発見できないよう迂回したり、戻ったりしているが目的地は分かっている。最短距離で向かうため、思いっきり地面を蹴り加速した。
岩場や崖のような段差でも避けずにひたすら真っ直ぐに最短距離を行く。
ちなみに切り立った崖を登ったり降ったりするときは、ブーツを踏み出す場所に魔法障壁を作り足場にすることで、空中でもしっかり蹴り出すことができ透明の階段を登るように駆け上がることができる。
ありがとう!グーボさん!!
峠の本道から外れたところに、崖に接するようにボロボロの小屋が建っている。
中は真っ暗で、古い机が1つと椅子が2脚。そしてベッドが1つと鉱夫が寝泊まりするような小屋で、ツルハシやロープやランタンが壁に掛けられている。
「これは見つからないだろうね」
『はい。実に巧妙にアジトが隠されています。まさかここが盗賊の本拠地だなんて思う人はいないと思います』
小屋には窓が1つ崖と反対側に付いており、その崖側には棚が備え付けられていた為、崖側に入る入口が隠されていると思いずらして見たが普通に壁があるだけで入口など存在しなかった。
「追跡眼でこの崖の中に2人がいるって知らなかったら間違いなく、ただの小屋で終わってるよ」
追跡眼の帯、そして気配察知で崖の中はに多くの気配がする。間違いなくここが本拠地であり、もう一度追跡眼を使うと緑の帯は小屋の中ではなく、小屋の上に続き屋根の一部をずらすと隠しスペースがあり崖側に続いていた。
「うーん。どうしようか」
『私がいきましょうか?見張りも1人ですし』
「それが一番だよね」
隠しスペースはしゃがんだ状態で前に進み、崖の割れ目に続いている。
しかし崖の中に入った狭い隙間には鉄格子の扉が設置されその先には見張りが道を塞いぐように待機していた。
鉄格子が見える位置まで進むと問答無用で槍で突かれる配置になっており、気配を消していても扉が開けばどうしても気づかれてしまう。実にうまい作りだ。
「じゃあよろしくねポシル」
『はい。マスター』
そして気配を消し、ゆっくりとポシルはアジトへと歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます