第66話 駄猫とボス猫

 1階に降りて行くと、朝一程の混雑さはなかった。


 少し時間をずらして来ている冒険者たちのリーダー達が、依頼を受注しているようだ。


(おっ。首突きじゃねえか。上から来たってことはまたやらかしたか)


(首突きの野郎もうCランクらしいぞ。あいつソロだろ?)


(いや。テイマーらしい。きっと運良く強力な魔物でもテイムしたんだろ)


(まじかっ。俺はスライムを連れてたって聞いたぞ)


(馬鹿。そりゃ広場の店だろ。あそこはペット魔物なんだよ。スライムでCランクまで上がれるかよ)


(いや俺は強力な魔物がいるって……)


 なんだろう。


 並んでる冒険者達が人の事を酷い呼び名で呼んでるような気がする……


 首突きってなんだ。首突きって。


「にゃーー。おーい首突きー。こっちくるにゃー」

 

あれ?おかしいな。なんだか受付からも酷い呼ばれ方をしているような気がする。


「ちょっと!ミーネさん!なんですかその呼び名!」


「にゃっにゃっにゃ。新人さんの新しい呼び名だにゃ。どっかの冒険者が、新人さんがゴブリンの首を大量に突き殺してるって話をしたにゃ。だから首狩りじゃなくて、首突きだにゃ。まっ呼んでるのはごく一部の冒険者だにゃ。私は面白いから言ってみただけにゃ」


「受付嬢さんがそんな呼び方したら広まるでしょうに……。まぁギルマスに報告しておきますね。ミーネさんが冒険者の変な呼び名を広めてるって」


「にゃ!待つにゃ!それはないにゃ新人さん!じゃにゃいにゃ。タ・カ・ヤさんはタ・カ・ヤさんにゃそれ以外の呼び名なんてないにゃ!」


「はー。分かりました。変な呼び方をこれからしないなら言わないでおきますよ。それより、用事はなんです?」


 ミーネさんは、少し青い顔に一気に赤みが戻り、あからさまにホッとしたように、大きな息を吹き出す。


 どうやら本気で不味いと思ったようだ。


 そんな姿を少し微笑ましくみていると、ミーネさんも用事に気付いたらしく言葉を続ける。


「そうにゃ大事な用件があったにゃ。これにゃ」

 

受付の引き出しから1枚の紙を出し、こちらに見せつけるように差し出す。


 何故か自信有り気なのはなんでだろうか?


 それはフェオンさんからの指名依頼の依頼書だった。


 ランク:B

 依頼内容:➖王都までの護衛➖

 指名依頼:Cランク冒険者 タカヤ

 報酬:金貨20枚 道中の食事・宿泊代は別途支給

 拘束日数:最低15日 15日を過ぎた場合 1日金貨2枚

 その他:

 魔物討伐1体につき金貨1枚、魔物の部位は討伐者に所有権

 盗賊討伐1回につき金貨2枚、盗賊の持ち物は討伐者に所有権

 盗賊アジト殲滅時:報酬要相談(規模による) 盗賊所有物は依頼者と折半


 依頼者:フェオン商会 フェオン



「タカヤっちに指名依頼にゃ。なんとあの!大商会のフェオン商会の会頭直々の依頼にゃ」


 目の前のミーネさんは、どうだ!とばかりに胸を張り、何故か物凄く偉そうに、やってやった感を出している。


「えっと。はい。受けます」


「なんにゃ。なんかテンション低いにゃ。こんな事滅多にないにゃよ!これもタカヤっちの良い噂を流した私のおかげにゃね」


 どんな噂をどう流していたんだろう。。。

 すっごい気になるが、ここはひとまず先に進めようかな。


「あー。ミーネさん?フェオンさんと僕知り合いっていうか。その。その依頼も昨日フェオンさんからの直接貰ったものでして・・・」


「にゃ?」

 

まん丸の目をこちらに向けて 『えっ そういう事?私は関係ない感じ?』っていう目で訴えてくるので、一応大きく頷いておく。


「にゃーー!てっきり酒場で色々とタカヤっちの武勇伝に色んなものくっつけて広めたお陰かと思ってたにゃー。そうじゃなきゃこんな指名依頼ありえないにゃー。 あっ」


「ふーん。ミーネさん僕の何を話したんですか?ギルド職員が、ま・さ・か一冒険者の情報に虚偽もまぜたとしても広めるような事をしてないですよね?」


 通常ギルド職員が職務で知り得た情報を、他に伝えるのは禁止されている。


 ただでさえ冒険者は、情報が命を左右する。


 そんな中、敵対者にレベルやスキル、戦闘方法がバレるような事があれば対策されて、非常に危険な状況になってしまうからだ。


「にょぉ」


 急にミーネさんが母猫に首元をくわえられ、運ばれる子猫のような体勢で宙に浮く。


 その後ろには、先程まで話していたギルドマスタースイデンの姿があり、その太い腕でしっかりとミーネの首元を掴みぶら下げていた。


「すまねぇなタカヤ。ちょっと。軽く。一大事な案件が少しだけ、出来ちまった。ちょいとミーネを借りるぜ」


「おいっ」と一声、隣にいた以前担当してくれた細身の色白男性職員さんに掛け、ボス猫はミーネさんをぶら下げたまま奥に消えていった。


  ちょっとなのか 軽いのか少しなのか一大事なのか、さっぱり分からないが分かっているのはミーネさんのご冥福を祈らずにはいられないと言う事だろう。


 手を合わせ一応「南無」と言っておく。


「はぁー。すみません。私はクルイトと申します。以前一度ご対応させて頂きましたが、その時は名乗りませんでしたので。遅ればせながら、よろしくお願いします」


「はい。クルイトさんよろしくお願いします。ところで依頼はこのまま受けてもいいですか?」


「はい。こちらで受理させて頂きます。しかし、ミーネもタカヤさんが、フェオン様をお守りした事があると知らなかったんでしょうか。職員の間では有名な話でしたのに」


「まぁミーネさんですから」


「そうですねミーネですからね。今頃再教育されていると思いますので、今回の件お許し下さい。ミーネもまさかスキルやステータスにつながるような情報は広げていないでしょうから」


「そうですね。分かりました。そう言えば今日はセリナさんは?」


 そう尋ねると同時に、後ろから肩をドンっとつかまれる。


「 ああタカヤさん?私をお探しですか?」

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