第52話 パーティ

 ふ〜っと天井を見上げ大きくため息を付き、ソファーに深々と座るスイデン。


 すでに今回の討伐完了依頼は終わっており、今は買取のお金を待っている。

 取り敢えず調査は出すが、緊急招集はないようだ。


「タカヤー。お前さんなんかあれか?そういうの惹きつけるスキルか何か持ってるのか?」


 おもむろに、某アニメの主人公のような事件引き寄せ体質を疑われる。


「いやいや。ないですよ。僕は本来ややこしいのは苦手ですから。自由気ままに生きたいだけですよ」


 たしかにこの街に来てから、平穏という生活とはかけ離れた毎日を送っている。


 まだこの街に、というよりこの世界に来てからそんなに経っていないのに、随分と濃い毎日を送っているような気がする。


「いつまで、ソロやるんだ?そろそろランクも上がって魔物も低ランクじゃなくなっている。それに今回はラッキーだったが、次に多数の魔物に出会ったときソロでは対処出来なくなってくるぞ」


 そう言って、真剣な表情で問いかけてくる。


「そういえば同じDランクの【オーガの鉄槌】から誘われたそうじゃねぇか。どうなんだ。あいつらは?気がいい奴らだうまくいくんじゃないか?」


 Dランクパーティ【オーガの鉄槌】

 確かに気のいい4人だった。一緒のパーティを組んで依頼をこなしたらどんな感じなんだろうか。


 一瞬想像する。


 あっでもあんな断り方をしたら……。


「おいおい。どうした?そんな微妙な顔して」


 肩にどんっと重みを感じ気付くと、ソファーから身を乗り出し両肩に手を置くスイデンの姿があった。


「いえ。実はあの一件の後、パーティに誘われたんですが、動悸や息切れを起こして、飛び出してしまったんですよね。自分でも仲間を増やしたい。パーティを組みたいと思うんですが……」


 視線を落とし、胸の前で力一杯手を組むタカヤを見てスイデンが口を開く。


「お前パーティメンバーを信用出来なくなっちまったんだな……。」


 あんな事があったんだからしょうがないとタカヤに同情しながら、スイデンは言葉を続ける。


 あの日、コックスさんの料理を食べてから心の澱みが消え、パーティの募集を見ても心が乱れる事はなくなったが、たしかにあの一件以来必要と感じながらも、積極的にはなれていない。


「タカヤの仲間は今の所、特殊なグリーンスライムだけだったな」


 一拍置き、意を決したような表情でスイデンは、再度口を開く。


「お前。奴隷を買わないか?」


「?」


 急には理解できず、一瞬の間があく。


「恐らくこのままでは、タカヤはパーティを組むことはない。ならばいっそ奴隷でパーティを組めばいい。奴隷は奴隷紋で縛られている。だから絶対に裏切らない。裏切れば死ぬか死ぬほどの痛みを与えられる。だから裏切らない。生活の保障は必要だが、報酬の分け前はいらない。どうだ?」


 実は全く考えていなかった訳ではない。


 この世界に奴隷制度があると知り、冒険者に奴隷だけでパーティを組んでいるAランカーがいると聞き、その可能性も含め考えていた。


 ただ抵抗がないといえば、嘘になる。


「僕もその方法は、考えていました。ただ奴隷商人とのツテもなく、実情を聞けなかったので後回しにしてました」


「そうか。その考えがあるならいい。よく考えるこったな」


「はい。ありがとうございます」


「ん?そういえば、ツテならあるじゃねえか。フェオン商会の会頭フェオン氏の護衛をしたんだろ?彼は奴隷商人でもあるぞ。話しを聞いてみたらどうだ?」


「?フェオンさんと関係を持った事言いました?」


 確かに、街に入る際ギランさんには説明したが、ギルマスであるスイデンには言っていない。


「おう。あれだフェオン商会の護衛の【赤月の護り】が依頼報告ついでに、助けてもらったと言ってたからな。それでだ」


「あ〜。なるほどですね」


 なるほど、【赤月の護り】。フェオンさんの護衛パーティが報告してたのか。それなら頷ける。そういえばパーティの名前知らなかったな。


「そうですね。フェオンさんにアポイントとって話しを聞いてみます」


 そう言って奴隷云々の話が終わったところで、ノックが聞こえ、タイミングよく精算を終わらせた男性のギルド職員が入って来た。


 精算金額の合計は、討伐報酬も合わせ金貨64枚。

 本来はオークの肉が高く売れる為、3体で100枚弱の金貨を逃している。

 まぁポシルの成長に役立ったこともあり、惜しくはない。


 スイデンが言うには、通常のDランカーはどれか1つの依頼をこなすのがやっとで、オークの肉も切り分けて持てるだけ持って帰るために、買取額は安くなる。


 それをパーティ内で山分けにする為、この時一番パーティは揉めることが多いそうだ。


 Aランカーの奴隷を買っている冒険者も、元々はパーティを組んでいたが、前衛と後衛で危険度が違うやら持ち運べる量に比例しろやらで揉め、パーティを辞めたそうだ。


「タカヤ様」

 精算金を持って来た男性のギルド職員が、タカヤに声を掛ける。


「次にゴブリンの集落の報酬でございますが、今回持って来ていただいた181個の右耳については、ランク下の依頼ですので、これによる討伐依頼の報酬はございません。しかしそれ以外のナイト、メイジ、アーチャー、モンクはDランク。シーフとシャーマンは、Cランク相当の討伐の依頼として、事後ですが処理させて頂きました。もちろん依頼達成数もカウントしております。また。今回の集落殲滅の報酬もCランク以上のパーティ複数が推奨される為、異例ではございますが、本来は受けられないBランクの依頼として、処理させて頂きました」


 布袋に入った魔石を説明に沿ってタカヤの前に出しながら、わかりやすく説明する男性。


 どうやら色々と面倒な処理をしてくれたようだ。感謝だね。

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