第50話 フェオン

「ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げるのは、先程まで戦っていた冒険者の雇い主だ。


 身長は180cm弱位だろうか、ダイナムと違いよく鍛えられた体格に彫りの深い顔立ち、短く揃えた顎髭。

 そして強いオーラを放っている。そんな感じの人だった。


「私は、王都アゼリナに本店を構える商人。フェオンと申します。日用雑貨から装備品、奴隷まで幅広く扱っております。今回は急遽、王都からこちらへ赴かなくてはならず、普段の護衛ではなく、急遽お願いした方々。人数も少なく危ないところでした。」



 自己紹介とともに、再度深々と頭を下げるフェオンと名乗る商人。


「しかし、今は急ぎの要件の道中。碌なおもてなしも出来ない状況。大変心苦しいのですが、まずはお礼とこちらの紹介状をしたためさせて頂きます。そして、是非とも王都にお立ち寄りの際は、我がフェオン商会本店にお立ち寄りください。最大のおもてなしをさせて頂きます。」


 そう言うと懐から、こぶし大の布袋と1枚のカードを取り出しこちらに差し出す。


「商人と取引がある際、取り敢えずはその商人に見せてみてください。私の息のかかった者ならば、悪いようにならないでしょう」


 フェオンが差し出した布袋を確認する。袋の中には白金貨1枚と金貨が多数入っていた。


「これは?こちらはたまたま通り掛っただけです。これは少し多いのでは?」


「いえいえ。あのままでしたら間違いなく、私と護衛の5人は死んでいたでしょう。その中には、今の手持ち白金貨1枚と取引がしやすいように金貨で100枚入っております。またそのカードは私のフェオン商会を表すマークと私のサインが書いてあります。見るものが見ればわかるでしょう」


「わかりました。お礼として受け取らせて頂きます」


 その後護衛の冒険者達からもお礼を言われ、目的地が同じという事もありクイートの街まで同行する事にした。


 今回のファングウルフは、かなりのイレギュラーだろう。


 通常モンスターはこの街道に出てくることはあまりない。

 今回のケースは、ファングウルフが街道近くの岩陰に待ち伏せしていて、奇襲を受けてしまったとの事だった。


 一撃目にリーダーウルフの手に掛かり、斥候のユニーさんが負傷し、陣形を崩されたところで多数のファングウルフが現れたようだ。


 聞けば、冒険者たちのランクはB。

 何度も護衛依頼をこなす。優秀なベテランチームであった。


「おうタカヤ帰ったか」


 いつものように、ギランが門から声をかける。


「はい。討伐依頼が終わったので帰ってきました。こちらは道中で一緒になったフェオンさんと言う商人さん一行です」


「なっ。フェオン?ってフェオン商会のフェオンか⁉︎ 大商会の会頭じゃねぇか」


 どうやらフェオンさんの商会は、このアゼーナ大陸において、1.2を争う大商会であり王都において王族や貴族に対し、直接の取引権を有する御用商人の1つとの事だった。


 さらに王都だけでなく、このアゼーナ大陸において王都以外の4つの大都市のうち3つに支店をもち、クイートのような大きさの街や少し小さめの街をいれると支店の数は、10を超えるとの事だった。


 また他大陸にも支店を持ち、交易による物流も担っている。


 この魔物や盗賊のはびこる世界において、これだけの都市に支店を持つことは容易ではなく、フェオン商会の大きさは他商会に比べ、群を抜いているとの事だった。


「いやいや。そんな大それたものではないですよ」


 馬車から笑みを浮かべながら、フェオンが出てくる。


「こいつは驚いた。初めましてこの街の門兵長を任せられているギランと言います。まさかこの街に支店を?しかしあなたは普段王都から離れないはず。まぁ街の問題ではないのでしょう。申し訳ない。余計な詮索でしたな。ようこそクイートの街へ」


「ほぉ。あなたがクイートの街のギラン殿でしたか。私は街に入る試験に合格出来たと言う事ですかな。」


 にこりと微笑みフェオンは、ギランに確認する。


 流石は一流の商人。

 どうやらギランさんの《悪意感知》のスキルを知っているようだ。


 今回この短いやり取りの中で、ギランさんがフェオンさんに《悪意感知》のスキルを使い、普段ではありえないフェオンさんの王都からの来訪に対し、街への害意はないことを確認し、フェオンさんもそれに気づいたのだろう。


「はは。さすがの言い回しですな。よくご存知で、はい確認は終わりました。お通りください」


 ギランさんも、自分の情報を持っている事は悟っている。


 ギランさんと門兵のチェックが終わり、門を出て大通りに出る。


 時間は17鐘すぎ、今日は青い月が出ており街全体を薄い青い色に染めていた。


「さて、これで同行も終わりですね。紹介状ありがとうございます。何か買い物をする際は活用させてもらいますね。」


 大通りの入り口付近にて、フェオン一行と別れる。


「ポシルごめんね」


 モンスターBOXより、ポシルを取り出す。


 右肩の定位置に収まったポシルは、モンスターBOXに入れて行動した寂しさよりも、今呼んで貰った嬉しさが勝るようで、しきりに体を頬に擦り付けてくる。


 こちらもポシルの顎?部分を優しく撫でた。


「さて盛りだくさんだったけど、今日の依頼の報告に行こうか」

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