第32話 優しさに包まれて

 バタンッ!

 ギルドの3階にある広めの会議室の扉が勢いよく開かれる。


「タカヤ! 無事だったか!」


 強面のおっさん。

 いやギルドマスターのスイデンが、勢いよく部屋に入ってくる。


「ええ。なんとか無事ですね。色々ありすぎて疲れましたけど」


「そうか。怪我は大丈夫か?そうだな今日はゆっくり休むといい。報告は聞いた。救助された人達は今日はギルドの仮眠室で警護つきで寝てもらう。」


 救われた人達も多少は落ち着いたようだ。

 本当に良かった。


「もう夜も明ける。手続きも明日でいいから、今日は帰っていい。ホント無事で何よりだった。」


 時間はすでに、4鐘になろうとしていた。

 さすがにこの状態での徹夜は厳しく。

 言葉に甘えて帰る事にした。


「おかえり」

 宿の扉を開けると夜明け前だと言うのに、ラーダさんが笑顔で迎えてくれた。


「ただいま帰りました」

 あぁ本当にここは居心地がいい。


 緊張の糸が完全に切れ、僕の目からは涙が自然とながれていた。


 突然連れていかれスズネが攫われたと言われた。

 ー心配で心が張り裂けそうだったー


 突然盗賊団の仲間といわれた。

 ーどうしたら良いか分からなくなったー


 多くの魔力を使い新しいスキルでアジトを見つけた

 ー精神をすり減らしたー


 ゴーバがいた

 ー逆恨みでスズネを傷付けてしまい。巻き込んでしまった事を悔やんだー


 スズネがいた

 ーまだ無事だったと安心したー


 裏切られた

 ー全てが嘘だった。全てが裏切られたー


 人を殺した

 ー何も感じなかったー


 また裏切られた

 ー全てが汚く見えたー


 人が汚く見えた

 ー人がの心が汚く見えたー


 人を恨んだ

 ー全てを消そうと思ったー

 ・

 ・

 ・


 ふわりと温かい何かに包まれた。

 あーなんて暖かいんだろう。なんて優しいんだろう。


 ラーダさんの腕の中で僕は泣きじゃくる。

 すべてを流しつくし。止まらない涙がラーダさんの服を濡らす。


 僕を優しく癒してくれる。母親のような愛情を感じる。


 がしりと背中から強く抱かれる。


 力強く逞しい。守られている実感。父親のような偉大さを感じる。


 コックスさんだ。


 2人が僕を抱きしめてくれる。

 何があったかも聞かず、只々無言で抱きしめ頭を、そして背中を撫でてくれる。


 僕が泣き止むまで、2人はしっかり抱きしめてくれていた。

「ありがとうございます」

 僕は、やっとちゃんとした笑顔になれた。


 2人は笑顔で頷き、僕を部屋に連れていってくれた。

 僕は優しさに包まれ、深い眠りについた。


 カーテンの隙間からの細い光を目に受けて、ゆっくりと目を覚ます。


 時間は13鐘をまわったところのようだ。

 もうお昼も過ぎている。随分とゆっくり寝てしまった。


「おはようポシル」

 枕元で寄り添うポシルに声をかける。


『おはようございます。マスター。大丈夫ですか?マスターの近くにはポシルがいます』


 2本の触腕を伸ばし、両頬を挟み込む。

 安心して 私を頼ってという意思が伝わる。


「ありがとうポシル。大丈夫だよ。今日も忙しくなりそうだ。お腹空いたね。ポシルは僕の魔力吸えた?」


『はい。マスターの余剰魔力を吸収させてもらいましたし、昨日のモンスターも吸収出来ているので大丈夫です』


 そう言うと10個の魔石を取り出し、枕元に置く。

 他より赤みが強い魔石が1個、薄い緑色が4つ、他の4つよりも濃い魔石が1個ある。

 これはネームドの魔石だろう。


「そうか昨日のモンスターのだね。ありがとう」


 オリジナルスライム♯定着

【Name】ポシル

【age】0

【Lv】1→5

【HP】 380/380→940/943

【MP】 320/320→920/921

【力】 120→343

【体力】 110→217

【器用】 100→182

【知力】 85→134

【素早さ】80→198

【魔力】 120→224


【スキル】

 ユニークスキル

 吸収

 透明化→迷彩化 ※体を透明にすることも、着色することも可能


 ノーマルスキル

 分裂体<Lv2> 魔力操作<Lv1> 魔力感知<Lv1> 衝撃耐性<Lv1> 全属性耐性<Lv1> 硬化<Lv1> →<Lv2> 薬生成<Lv1> →<Lv3> 念話・念映<Lv2>NEW


「ポシル?なんか凄い事になったね。もうどう突っ込んでいいか分からないんだけど」


『はい。マスター。モンスター達からネームドは4分の1、その他のモンスターからはステータスを僅かながら吸収してます。あとはLVUP分ですね』


 確かにポシルも牢屋の見張りと、街への道中にいくらかモンスターを倒してるし、LvUPも当然だ。


 それよりもポシルが凄い優秀だ。

 この知識は、どこから得てるんだろうか。それに少し前より大人びているような……。成長した?

 ステータスの知力とはまた別なんだろうか。

 ん〜。今後の課題が増えていく…。


 ただ、今はこの魔石を吸収してしまおう。

 これ以上誰にも傷付けられない為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る