第11話 ギルマスとギルド憲章

 おっと。つい声に出てしまった。が気にしない。


 身体強化を学ぼうと避け続けたが、どうやら相手のLvの高いスキルを先に学習したようだ。

 

 先生が良いと早いって事かな。


 そういえばゴブリンでは、取得しなかったしな。

 ただこれでなんとなく、斧の動きが理解できるようになったぞ。


 スキル取得を考察しつつ回避する。


 ピロン!

 回避LvUP<Lv1→Lv2>


 ピロン!

【スキルー身体強化ーを取得 】

 身体強化<Lv1> ※身体を強化する。【力】【体力】【器用】【素早さ】を10%強化+Lv1につき10%



 よしっ覚えた。これは良スキルだね。回避も上がったか。

 ゴーバのスピードは、斧と身体強化ダブルの補正だったか。さてこれからどうするか……。


「てめーら!何やってやがる!」


 2階から威圧をまとった怒号が放たれる。


 そしてその瞬間ギルド内の冒険者含め、職員共々怒号により萎縮し動きが止まった。


 ーside ギルドマスター【スイデン】ー


「何が起こっていやがる」


 受付嬢のセリナがマスタールームに駆け込み、ゴーバとその一味が、件の新人のタカヤに仕掛けたと報告してきた。


 すぐさまマスタールームを飛び出し、上から何かあれば止めるつもりで様子を見る事にした。


 出口付近をゴーバとタカヤを中心にパーティ5人が囲み、出口を塞いでいる。


 どうやら、タカヤにいちゃもんをつけて金を巻き上げ、リンチして今後は奴隷のように使い潰す魂胆のようだ。


 馬鹿どもめが、ギルド内でそんなことをしてタダで済むと思うなよ。ギルド不干渉を履き違えやがって。


 逆ギレしたゴーバが殴り掛かる。ここで止めようとした。


 しかし、ここからが不可思議な光景の始まりだった。ゴーバの馬鹿が殴り掛かる前、少年はゴーバの頭から爪先までを見た。


 いや観察していた。その行動にゴーバがキレ、殴り掛かったが当たらない。とにかく当たらない。


 あいつは性格は問題外だが、冒険者としての強さの資質は高い。傭兵から遅めの冒険者になったが、あっという間にその身体能力を活かしてCランクまで駆け上がった。


 だが当たらない。


 業を煮やして、とうとうバトルアクスまで引き抜き、そのスキルを思う存分使っている。スピードも上がった。技術も上がった。


 だが当たらない。


 すべて紙一重で避ける。そしてその目は、一挙手一投足を見逃さぬよう観察しているかのようだ。


「あっこれじゃない……」


 少年が何かを呟いた。何かがあったのだろうか。その後も避け続ける。


 そして明らかに体の動きが変わる。その瞬間、確かに一瞬だが笑みを浮かべた。

 ここまでだ。


「てめーら!何やってやがる!」


 2階から威圧をまとって声をあげる。


 異常な光景につい見入ってしまったが、これ以上はいけねぇ。


 ーside タカヤー


 デカイ怒号が聞こえた瞬間。

 ギルド内の時が止まる。どうやら終わったようだ。


 それにしても2階のデカイ声のおっちゃんは、初日の受付のおっちゃんじゃないか。やっぱり怖いおっちゃんだったか。


「ギ・ギルドマスター……」

 震える声を絞り出し、ゴーバが顔面蒼白になる。


「ギルドマスター?」


 おぅまさかの大物か。

 あのおっちゃんはギルマスだったようだ。てかなんで受付なんかにいたんだ?


「ゴーバ!こりゃあどういう事だ?」

 階段を下りながらゴーバに投げかける。


「い、いや違うんだこれは!これは。そう新人の指導をしようって話だ。そんな事にまでギルドマスター直々に介入するのか!」


 そうだ!そうだ!とゴーバのパーティメンバーが息を吹き返す。


 こいつら馬鹿だな〜。

 ギルドのルールとも言われるギルド憲章には、確かにギルド不干渉の一文が書いてある。

 それは、小冊子にも書いてあった。


 しかしこれは、あくまでも小競り合いレベルで、さすがに新人を、しかもギルド内で潰そうとしているのに干渉しないなんて事はない。


 むしろ罰を受けるべき事案だ。

 おそらく最初に目を向けた時には、ギルマスを呼びに行ってくれたのだろう。


 2階に息を整えているセリナさんが見える。

 ごめんなさい見捨てられたと思ってました。

 あとでお礼を言わないとな。


「それはギルド不干渉の事を言っているのか?」


「そっそうだ。ギルドは揉め事に関与しないはずだろ!」


 テンプレのようなやりとりだ。まさかのここでテンプレ展開とは。


「馬鹿が!ギルド不干渉はあくまでも小競り合い程度のものだ!誰が同じギルドメンバーを恫喝し恐喝、殺害しようとしているやつを見逃すってんだ」


「なっ そもそもこいつが反抗してきたんだ!」


 とうとう矛先がこちらになったようだ。しかしギルマスの目元がピクピクしている。


「あは。ワッハッハ。子供か!お前は。しかも絡んでおいて冷静に返されたからって、逆ギレした挙句。カスリもせず翻弄されて、本気出してそれもカスリもしないなんて。たしかにいい笑い者だ」


 ギルマスが大笑いした事で、ゴーバの顔が真っ赤に染まる。


「ゴーバ!貴様は2ランク降格だ。周りのお前らは1ランク降格。嫌なら退会しやがれ!その瞬間逮捕されて留置場送りだがな!さぁ皆散れ!茶番は終わりだ!」


 そう言って強引にこの場を納め、こちらに振り返る。


「昨日登録したタカヤだったな。俺を覚えてるか?まあそういうこった。あとで2階のマスタールームに来てくれ」


「はぁ。覚えてますよ。そんな衝撃的な顔と威圧忘れるはずないじゃないですか。マスタールームですね。わかりました。伺います」


 やりとりの途中、ゴーバのパーティは、その場をそそくさと退散していた。ギルド内はすぐに元どおりに戻り、いつも通りの業務を再開していた。


「はやいな〜 切り替え」


「こんなの日常ですからね」


「おわっ」


 ひょいっと横にセリナさんが顔を出す。

 びっくりしたけど、横顔が非常に美しい。そして前のめりの姿勢は素晴らしい。


 そんなことよりも、セリナさんの息はもう整ったようだ。


「あっセリナさん。ギルマスを呼んでくれたんですね。有難うございました。正解の対応がわからずに、迷ってましたから。助かりました」


 お礼をいわれたのが不思議だったのか、一瞬びっくりした顔をし、すぐに笑顔に戻る。


「いえいえ。さすがにギルド内で新人潰しは目に余りますから。タカヤ様マスタールームにご案内致します。よろしいですか?」


「はい。よろしくお願いします」


 セリナさんの案内のもと、階段を上がり突き当たりの部屋をノックする。


「セリナです。タカヤ様をお連れしました」


「おう入れ!」


「失礼します」


 そして、中からギルマスが許可を出し、扉を開けて中へと入る。


 そしてその瞬間、目の前の景色が歪んだ。

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