第10話 テンプレは忘れた頃に…

 とはいかなかった。

 

 ここに来る時に向けられた冷たく、そして蔑むような目。視線を隠すこともなく、まるで警告のように向けられた視線を確かに感じていた。


「おい。お前!」


 なるべくならば関わりたくはない。このまま出て行きたい気分だ。


「お前だ!このクソガキが!」


 強引に肩を引き寄せられる。

 振り向くと身長は190cmくらいだろうか、浅黒で筋骨隆々。肩のない金属の胴鎧を着た。いかにも前衛戦士であろう。バトルアクスを背負った男が睨みつけていた。


「何でしょうか。僕は特に迷惑になるような事はしていないかと思うのですが」


 あえてトラブルに身を委ねるのも面倒なので、あくまでも下手に出る。


 そんな姿にさらに調子付いたのか、それとも良い鴨を見つけたと思っているのだろうか。男はいやらしく笑っている。


「クソガキ。態々セリナの手を煩わせる事もねぇ。俺らが直接指導してやるよ。まぁ指導料は高えがな。まずは今の手持ち全部だしな。冒険者のイロハを教えてやるよ。訓練所でな」


 ギャハハハと周囲の取り巻きも含め、下品に笑い、武器は構えていないものの逃すつもりはないようだ。


 ゆっくりと、周囲を包囲していく。


「すみません。僕はこの街に来たばかりなので、勝手がわからず。ただご指導は結構です。自分の力は理解しているので、身の丈にあった依頼をこなしていくつもりなので。それでは」


 出口付近からギルド窓口に視線を送る。

 どうやら冒険者の自由意志が尊重されるらしく、止める気配はないみたいだ。


 さてどうするか。



 ーside セリナー


 私は、自分でも信じられないくらいのスピードでギルドの階段を駆け上がる。


 この階段は職員専用になっているおかげで、冒険者達には見られない。


 なぜだろう。

 いつもならまたいつもの新人イビリが始まった。と何食わぬ顔して受付業務を全うしているはず。


 なぜだろう。

 昨日来たばかりの新人冒険者が無性に気になるのは。


 私はギルドマスターの部屋に向かう。


 初日に知らぬとはいえ、ギルドマスターの列に躊躇なく向かった少年。


 あれは、門兵から要観察の旅人が冒険者登録を望んでいる場合の処置だ。いつもなら元A級冒険者の職員が座り、威圧と同時にその反応を観察する。


 しかし、昨日は違った。

 たまたま元A級の職員が誰もおらず、ギルドマスター自ら対応すると言い、観察対象者を待っていた。


 黒目に黒髪という少年は、黒ローブをかぶりギルドの扉をくぐった。すぐに全職員が観察対象の少年である事を理解した。


 少年はキラキラとした表情のまま、周囲を観察しこれからの未来を想像しているかのようだった。


 そのあとそれぞれの窓口を確認。

 受付窓口をこちらと理解したらしく、ミーネと私を見て列を確認。その際ミーネの耳を見て、目を見開き興奮し、私の胸を凝視したのはまぁ男の子ですし、許してあげますわ。


 そんな事もあり、おそらく私のところに来るのだろうと予想していましたが、彼はまっすぐギルドマスターの前に向かった。


 周りの冒険者も、おとなしくなるほどの威圧を放っているギルドマスターの下へ。


「そりゃぁ空いてたからですよ。誰もおっちゃんの所なんか並ばないんでしょ?」


 笑った。

 危なく吹き出すところだった。


 ギルドマスターをおっちゃん呼ばわり。威圧なんてまるで気にしていない様子だった。本当に素直な子。


 彼が帰った後、ギルドマスターは大笑いしていた。


「やつは大物になりそうだ!確かにギランが気にかける事はある。今はヒヨッコだが素材がヤベェ。ありゃ才能の塊だ」


 久々に面白いものを見つけたとばかりに、上機嫌なギルドマスターは最後にこう言った。


「いいか!タカヤという冒険者を一人前の冒険者に導け、問題が起きそうならば報告しろ。ギリギリの依頼でとにかく成長を促すんだ!」


 驚いた。

 過保護にするのではなく、少し無茶をさせろだなんて、今までの観察対象者にはなかった。


 それだけに今回の件、見過ごせませんわ。


ドン

ドン

ドンッ


 私は息を少し整えマスタールームの扉を強めに3回叩く。


「入れ!」


 乱暴な物言いだがいつもの事だ。私は扉を開ける。


「おぅセリナか。どうしたそんなに慌てて」


「はい失礼します。ギルドマスター。例のタカヤ様がC級のゴーバ様とそのパーティに囲まれています」


「なんだと!馬鹿どもめ!まぁ馬鹿なだけにギルド内でよかった。今向かう!」


 ーside タカヤー


 どうするかこれは……。いつの間にか囲まれてるし、まぁ念のため解析しておこうか。


【Name】 ゴーバ

【age】 28歳

【職業】 1.斧戦士※斧使いLv30後クラスUP HPと力に補正

【Lv】 30

【HP】 290/290

【MP】 30/30

【力】 230

【体力】 150

【器用】 60

【知力】 45

【素早さ】65

【魔力】25



【スキル】

 ノーマルスキル

 斧術<Lv3> 身体強化<Lv1>


 おう。レベル30超え。しかもスキルの相性がいいな。



【Name】 タカヤ

【age】 18歳

【職業】 (1.無職(転移者) 2.自由人 )3.魔物使い

【Lv】 2

【HP】 50/50

【MP】 60/60

【力】 40

【体力】 30

【器用】 70

【知力】 70

【素早さ】60

【魔力】80



【スキル】

 ノーマルスキル

 剣術<Lv3> 気配察知<Lv4> 気配遮断<Lv2> 採取<Lv4> 回避<Lv1>

 モンスターテイム<Lv1>


 ステータス的には、負けてるかな。

 まぁLv30とLv2だもんな。でも器用さと素早さが低いな。このステータスでも避けられるかな……

 こっちはスキル補正があるし。


「てめぇなんだその目は!人の事を変な目で見やがって!ぶっ殺す!」

 

包囲が完成したと同時に、駆け寄ってくるゴーバを冷静に観察する。


「ていうか指導って言ってましたよね。ぶっ殺すって素がでてますよねっ!」


 大振りのフック気味のパンチをかわしつつ、なんとか落ち着かせようとしたが、どうやら逆効果のようだ。


 ブォンと空振りした拳の風が頬を撫でる。


 キレた猛獣のようにフックとアッパーそして、顔面に向けパンチを繰り返してくる。が当たらない。全てが怒りに任せたテレフォンパンチで、読みやすい。


 業を煮やしたか、バトルアクスを持つとそのスピードが段違いに上がった。


 振り下ろし。振り下ろしからの横薙ぎ。その勢いのまま回転しながら切りつけてくる。


(これがスキル補正か。身体強化もかかってるな)


ギリギリでかわしつつ観察を続ける。


 ピロン!

【スキルー斧術ーを取得 】

 斧術<Lv1> ※斧を扱うスキル 斧での攻撃に補正 最大Lv10


「あっこれじゃない……」

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