嗚呼! 炎上 ~ 嘘と闇とだだ漏れと
ロックウェル・イワイ
第1話 団体交渉
202×年。世の中の会議や面談は全てWebに置き換わった。
しかし、悪い奴はいるもので、AIを使って会話の全てを本音に訳すウィルスが作られ、拡散し、人間関係の殺伐さ加減は益々、深化していた。
労働組合執行委員長:
「それでは、今年の春闘要求を説明いたします」
(ふぇー……。どうせゼロ回答なんだろうけどよ)
社長:
「お願いします」
(毎回毎回、大した働きもしねえくせして、要求ばっかりしやがって。糞、かったるいゼ)
労働組合書記長:
「詳しくは、私から説明いたします」
(そろそろ、今年で書記長止めてえな。俺ばっかりを会社に
「まず基本給については、2パーセントのベースアップを要求します。昨年、10月に消費税が2パーセントアップしていますので、私どもとすれば、実質ゼロアップだと認識しています。
次に、期末手当ですが、夏期手当が基礎額×2.2ヶ月+加算額6万円、年末手当が基礎額×2.3ヶ月+加算額10万円を要求します。」
(いい加減、何にも言わなくても給料上げてくんねえかな。てめえ
専務:
「それでは、私から回答いたします」
(社長、つったて、何時までもボンボン二世だからなあ。面倒な事は全部、俺が考えて俺が答えなくちゃならねえ。自作自演にも程があるぜ、ったく!)
「基本給については、改定しません。現行通りとします。期末手当についても改定せず、夏期手当は、基礎額×2.2ヶ月+加算額2万円、年末手当は、基礎額×2.24ヶ月+加算額5万円とします。以上です」
(はあ~あ、こっから
労働組合書記長:
「今期の決算では前期末よりマイナスになったとは言え、純利益を確保しています。当社の内部留保も相当、留保されていますので十分、賃上げできると考えます」
(金、
専務:
「おっしゃるとおり、今期は皆さんのご尽力もあり、何とか赤字転落を免れました。しかし、今期は土地の売却差額があったため辛うじて黒字にすることができたのが実情です。よって、経営的にはまだまだ油断できない状況だと認識しています」
(ばっか野郎!
労働組合書記長:
「先程も申し上げましたが、単年度はともかく内部留保が100億ありますので、十分従業員に還元できる財源があります」
(そんなに溜め込んでないで少しは還元しろよ! できるだろ)
専務:
「工場など老朽化した施設設備が増えてきており、その更新資金を積み立てしています。製造業ですので商品を造り続けなければ存続できません。使用目的の決まった資金なので賃金に充てる事はできないのです」
(将来の事も考えながらこっちは舵取りしてんだよ! お前らみたいに今だけ稼げりゃいいって訳にはいかねんだよ!)
労働組合書記長:
「それでは、今日は夏期手当だけ妥結します。その他は引き続き要求していきます」
(糞っ。やっぱ、渋いな。何時までも引き延ばしたら、ローンの引き落としに間に合わねえだのへったくれだの、こっちが社員に文句言われちまうわ。仕方ねえ)
専務:
「ありがとうございます。夏期手当につきましては例年どおり6月15日に支給いたします」
(何がありがとうございます、だ。貰えるだけ有難いと思え!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
会議の途中からネット上には次々と罵詈雑言の書き込みが寄せられていた……。
「お前らだって、対した働きしてないだろ! 接待ばっかりやりやがって」
「そうよ! うちの飲み代のつけ、いつ払うのよ? 請求書あげたでしょ!」
「社長、社長ったって、大した学歴もねえし、人望もねえしな。おまけに秘書にセクハラしてるって言うじゃねえか。糞ハゲ!」
「リストラされた専務の息子。うちの会社に裏口入社するって聞いてるぞ!」
「委員長だって、部下に仕事丸投げして定時で帰るくせに、人には働き方改革だの残業するなだのうるせえんだよ!」
「書記長! こないだ貸したタバコ代、返してください」
……
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