第7章 インターンシップ 第4話

 翌日からの、ワナの見回りは自動通報システムのお陰で、短時間で済んだ。


 武井らが仕掛けたブロックで一頭、柴山たちが仕掛けたブロックで一頭の捕獲があり、二人ずつに分かれて回収作業を実施した。


 手分けをしたことで、朝のうちに作業は終了してしまった。清掃工場への搬入を午前中で済ませると、午後はこれまでにワナを仕掛けたエリアとは川を挟んだ対岸の下見をおこなった。


 武井の話では、今捕獲しているエリアでの捕獲効率が下がってくるようならば、こちら側にワナを移設して、現在設置しているエリアを休めるということだった。


 ワナにシカが掛かった場所は、シカが暴れるために荒れる。


 そのため、その場所を他のシカたちが忌避するようになるため、荒れた場所のワナは他の獣道に移すのがドリフト式であるが、長期間の捕獲だとエリア全体を忌避するようになるため、捕獲する場所を移すという大幅な移設を行うのだ。


 新たなエリアもやがては忌避されるようになるため、やはり捕獲効率が低下した場合には、元のエリアに戻す作業を繰り返して、捕獲効率が低下しないようにする方法で、『輪採制』と呼ばれる。


 エリアを休める期間は、概ね二週間程度とのことだったが、今回は、四エリアを想定して、一週間ごとに一エリアずつ移動させる予定だが、捕獲効率次第で予定は変わるとのことだった。


 下見をした右岸側には、新しい足跡は少なく、今回ワナを設置した左岸側が主な行動域となっていることは明らかであったが、これが翌週には大きく変化しており、シカの警戒心の高さが感じられた。


 結局、百二十基のワナを設置した左岸側では、一週間で七頭の捕獲があった。

 捕獲効率は、

 7頭÷(120基×7日)=0.008

となった。


 決して、悪い数値ではないが、それでも武井は左岸エリアからワナの作動回数が少なかった一ブロックを右岸側に移設する判断を下した。


 その移設作業時に見た右岸側のエリアは、下見の時に比べると新しい糞や獣道の跡がはっきりと確認できる状況であった。


 午前中に、二十基を移設して作業は終了したが、学生たちはこの日で一端学校へ戻ることになっていたので、武井と交代にやってきた鈴木と坂爪に引き継ぐと下山することになった。


 帰り際、まだ日が高い時間であったが、移設したエリアから自動通報システムの発報があった。学生たちが確認している時間の余裕はなかったが、後日聞いたところでは移設したワナで捕獲があったとのことだった。


 その後、スタッフの交代に合わせて、二回現地での作業を経験して、この実習は終了した。


 三ヶ月間の捕獲作業で八十九頭の捕獲があり、捕獲効率は、

 89頭÷(120基×90日)=0.008

 で、最初の一週間からその数値は下がらなかった。

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